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医学史に燦然と輝く隠された主役、ペイシェントゼロ『0番目の患者』/リュック・ペリノ

「病気を感じる人がいるから医学があるわけで、医者がいるから
人々が彼ら(医者)から自分の病気を教えてもらうのではない。」
ージョルジュ・カンギレム『正常と病理』

医療における診断や治療に関する進歩については、まさに人類が累積した医学の知恵によるものであるが、その知恵は往々として、とある「患者」によってもたらされるものであった。

そのような「患者」は臨床現場での当たり前に対して、疑義を呈してきた。それによって、医療が進歩していき、現在の医学の教訓として佇んでいる。

しかしながら、そのような患者のモノガタリは医学史において、また一般民において、語られることは非常に少ない。この「患者」達こそ、医学の最高の貢献者として存在するべきであり、それは今後の0番目の患者に対してもなされるべきである、と語られている。

今後100年の人生が私たちを待ち受けていると言われている。実際には、90年代以降に生まれたそれぞれの世代に関して、同年代の50%が100歳以上の人生を歩む、と言われている。長寿を予測される将来に存在しているのは医学の進歩、生物学的な効果的治療による延命、診断による的確な誘導、すべてが合わさって実現されることではあるが、その背景にいる、過去に医学に貢献した無知で健気で被害者である「患者」に、両手を合わせて祈り、思いをはすべきなのである。

この本には、19章に分かれており、様々な0番目の患者が登場する。すべての犠牲とそれが果たした貢献には頭が上がらない。

これまでの医学史は、
患者をないがしろにしたまま、
医師の手柄話、治療法や試行錯誤の過程など、
もっぱら医師たちに焦点を当てつづけてきた。

しかし、医学者だけが英雄なのか?
当前のことだが、患者なくして医学の発展はなかった。

野戦病院や臨床の現場、検査室、診察室で
自らの身体や傷口を辛抱強くさらしてきた者たちこそが、
医学の歴史に大きな貢献をしてきたのだ。

隔離されたチフスのメアリー、
上流階級の見世物にされた女性ヒステリー患者、
ある仮説のために女として育てられたデイヴィッド、
死してなお自らの細胞を研究されつづけたヘンリエッタ、
……本書では、輝かしい歴史の裏側に埋もれた、
病者たちの犠牲と貢献にスポットを当てていく。

コロナ後の世界において、
最初に感染した者たちへのバッシングは絶えない。
しかし、犯人捜しにも魔女狩りにも意味はない。


Covid-19の感染拡大を受けたロックダウン宣言の直前に
フランスで出版されたこの本に登場する患者たちの物語が、
私たちにそのことを教えてくれるだろう。

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