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おりたらあかんの読書ログ

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年間100冊を15年間続けてきました。でも、本当に知らないことばかり!というかアウトプットがまだ少ないなあと感じています。過去に読んだ本は「読書ログ」としてまとめてきたので、それ…
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2022年4月の記事一覧

中垣顕實「卍とハーゲンクロイツ」現代書館

中垣顕實「卍とハーゲンクロイツ」現代書館

表題にひかれて選んだ一冊。著者はニューヨーク在住の浄土真宗の僧侶で、ニューヨーク神学校博士課程を修め、全ニューヨーク本願寺の住職を勤めた方だ。完全にアメリカに活動の拠点をおいている方だけに、指摘しているところにおもわず「なるほど!」と頷きたくなる。

知ったかぶりでなく自分の耳目でフィールドワークをされているところに強く共感した。

テーマの卍は日本ではお寺を示すマーク程度にしてか思われていない節

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吉本隆明「真贋」講談社文庫

吉本隆明「真贋」講談社文庫

「世の中の当たり前ほどあてにならないものはない」

いかにも吉本らしい問題意識だと思う。
昨今の常識に敢えて疑問符を投じている。ポジティブシンキングから始まって、明るいこと=良いことという等式、教育=善、こういった当たり前はかなり怪しい・・。みんな物知りクイズに明け暮れているのに、肝心要の「人生とは・・」という曖昧な問いをしようとも考えようともしていない。

教育だって「教育者の毒」について何の言

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成瀬勇輝「旅の報酬」いろは出版

成瀬勇輝「旅の報酬」いろは出版


Facebookの創業者ザッカーバーグのメンターはスティーブ・ジョブズだった。彼がジョブズから受けたアドバイスは「インドに行け、それがボクの明快なメッセージだ」というものだった。

旅はその人の日常を非日常から眺める絶好の機会となる。逆にTVでのヴィジュアル情報といった擬似的な可視感の氾濫が旅の本質をゆがめている。
世界を知っていると思い込む人を量産してしまう。

しかし、擬似的な可視からは残念

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喜多白浩「イムジン河物語」アルファベータブックス

喜多白浩「イムジン河物語」アルファベータブックス


俺は全く知らなかったし、関心も持っていなかったのだが、県民カレッジでの講座で「離別」といったテーマで材料を探していてこの歌にたどり着いた。調べてみると実に多くの背景があって面白かった。

もともとこの歌は1957年に北朝鮮でソプラノ独唱曲として生まれた。名前は「リムジン江」である。しかし、当時は威勢の良い軍隊曲ばかりが奨励される時代であったため、この歌は全く知られることなく葬り去られた。

とこ

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志村洋子「色という奇跡 母・ふくみから受け継いだもの」新潮社

志村洋子「色という奇跡 母・ふくみから受け継いだもの」新潮社

筆者の母、ふくみは「藍建て」の匠、重要無形文化財保持者志村ふくみである。30歳で母親の世界に入った染色作家。色に対する見方が違う。

「藍色の深い精神性と知性・・宇宙の摂理が言葉と同じように色彩で語られるのを待っている」

「濃紺から薄い水色までの濃淡を微妙な移り変わりで揃えると、神聖な世界が藍の色だけで立ち上がってくる。色彩のグラデーションによる聖別(境界)は他の色ではありえなく、藍にだけおこる

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E.プジョール「TARREGA」現代ギター社

E.プジョール「TARREGA」現代ギター社

ギターは「情熱、心を語らせる楽器」だと思う。ギターの故郷はスペインだ。フラメンコを聞いていて「これがギターの声だよな・・」とつくづく感じた。悲しさ・寂しさ・激しさ・優しさ・力強さ・いたわる心、あらゆるが詰まってる。

「タレガはギター史における『アッシジの聖フランチェスコである」。と著者であり、タレガの弟子でもあったプジョールは断言した。19世紀というギターが全く脚光を浴びなかった時代に富みも権力

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永山則夫「無知の涙」河出文庫

永山則夫「無知の涙」河出文庫


1968年、世界史の大転換となる年に日本中を震撼させた連続射殺事件(犠牲者4名)が起きた。

犯人は当時19歳の永山。網走無番地で極貧の中でのネグレクト、親の逃亡、兄弟からの虐待という最悪の環境下で育った永山が69年に拘束、獄中において猛烈に本を読み「自分がなぜ殺人を起こしたか」の謎を考察する。

この「無知の涙」には全部で10冊のノートの記録が綴られているが、無学の青年が書いたとすれば、奇跡に

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田村和紀夫「音楽とは何か」講談社選書メチェ

田村和紀夫「音楽とは何か」講談社選書メチェ

古代の音楽は神がかり的なパフォーマンスであり、呪術としての音楽は音楽と詩と舞踊であった。

例えばストーンヘンジは古代社会に権力を現前させるための建造物だったのであり、その延長線上に古代ギリシャの音楽がある。

ピタゴラスの調和説は古代メソポタミアの音楽観の継承なのであり、ハーモニーの語源、ハルモニアは古代ギリシアの女神で破壊の神と愛と美の神の子である。

現代に視点を移すとビートルズは機械化した

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小池靖「セラピー文化の社会学」勁草書房

小池靖「セラピー文化の社会学」勁草書房

ここでいうセラピー文化とは「ネットワークビジネス・自己啓発セミナー・トラウマサバイバー運動」を指している。ちなみにセラピーとは広義の「心理療法」としてとらえる。70年以降の世界において浮上してきた「自己発見・自己啓発」といったライフスタイルへの提案を「心の商品化」として考えている。

セラピー文化というのは疑似宗教的な役割をするのであるが、そのプロセスにはイニエーション(通過儀礼)としての機能をも

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ジャン・リュック・ナンシー「思考の取引」岩波書店

ジャン・リュック・ナンシー「思考の取引」岩波書店


表題に惹かれて手に取った一冊
これほど読書というもの、そして書店というものを哲学的にとらえて謳いあげている本は珍しいかもしれない。こういう位置付けで本が読めたら、どんなに幸せだろう。いつか本と関係のあるビジネスもしてみたい俺としては、原点を考えさせられる内容だった。本文からいくつか引用しておこう。

「書物とはなべてメビウスの帯なのだ。それ自体において有限にして無限で、いたるところ無限に有限で、

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山本紀夫「ジャガイモのきた道」岩波新書

山本紀夫「ジャガイモのきた道」岩波新書

「イモ」という言葉にはどこか田舎臭さとか未熟さを感じさせるが、確かにジャガイモという作物は文明とは無関係な植物として捉えられてきた。事実考古学では稲作、トウモロコシなどの穀物が文明を産んだ、というのが常識になっている。ところが、このジャガイモの起源を辿っていくとそうでもないようなのだ。

ジャガイモの栽培化は紀元前5000年の中央アンデスがルーツだとされている。アンデスには今も標高3200mの位置

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小林章「フォントのふしぎ」美術出版社

小林章「フォントのふしぎ」美術出版社

著者は第1線で活躍されている書体デザイナーである。本著ではブランドに使われているフォントを紐解いているわけだが、普段Windowsで見るフォントとは全く違う世界が広がっていて面白い。

例えばFutura(フツラ)というフォント。ルイ・ヴィトンのロゴに使われているわけだが、これはMacに搭載されているらしい。このフォントをただ並べても高級感がないが、文字の間隔を微妙に持たせると音声で言うところの低

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小林章「まちモジ」グラフィック社

小林章「まちモジ」グラフィック社

「フォントのふしぎ」に続く第2弾!書体デザイナー小林氏によるフォント観察は面白い!今回の問題意識は「日本のまちにあるフォントはなぜ『丸ゴシック』だらけなのか?」ということだった。確かに欧米に留まらず、漢字圏の台湾や中国でもこの「丸ゴシック」はスタンダードではない。誰も回答を示していない問いに筆者はいろんな方面から分析している。この問いに対しての答えは意外と簡単に「書くときの効率の良さ、オフィシャル

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ジャン・コクトー「COCTEAU コクトー詩集」はるぶ出版

ジャン・コクトー「COCTEAU コクトー詩集」はるぶ出版

訳者は堀口大学だ。それにしても難解な文章・・・読んでみて、「ああこれは読み物じゃないんだ」ってことに気付いた。彼はデッサン画家としても大変な力をもっていた。ピカソからも評価をうけていた程の腕だ。これは絵画なのだ。詩を言語という絵具で描いているのだ。彼は詩を書いてもすぐにその詩に背を向け、反対の方向に歩き出したという。彼の詩にはストーリーがない。つまり皮の部分がなく、実だけが存在している。すべてが比

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