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読んだ本

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私が読んだ本の記録です。
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記事一覧

カウンセラーは、自分の欠点について絶えず気づき続ける訓練は受けてはいるが、決して完成された「人格者」ではない。

何回か書いてきたが、心理カウンセラーというだけで何か「人格者」であるかのように思い込む誘惑にはカウンセラー自身も敏感であるべきだが、同時にカウンセラーであるというだけで「人格者」であるかのように想定され、言葉尻を取って攻撃されることは、仕方ないとは言え、結構迷惑でもある。

カウンセラー自身は、いくら専門的修練を受け、自分の心理的欠点に一般の人より敏感であるようになっている(そうでなければさすがに

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親鸞の「歎異抄」の精神とパーソン・センタード・アプローチ

親鸞の「歎異抄」の精神とパーソン・センタード・アプローチ

 私は実際に浄土真宗の家に生まれていますけど、親鸞については、ほんとうに日本史の教科書的な記述以上のことはほとんど何も知らなかったんです。「他力本願」「悪人正機説」、僧の妻帯を認めた、一向一揆と、その後の本願寺への権力者による弾圧、ぐらいのことで。

 ところが、日本人間性心理学会のシンポジウムで、シンポジストとのひとりの山折哲雄先生がいわれたことで、不思議と気に入った(実は、この言葉を聴いた瞬間

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今野 元 (著)ドイツ・ナショナリズム-「普遍」対「固有」の二千年史 書評

トイトブルクの戦いからメルケル引退まで網羅しているにもかかわらず、もう、学習指導要領的ドイツ史観を見事に洗い直してしまって、最新の筆者の知見を紹介しているという、密度が高い本です。

そもそも従来の歴史用語(地名から党名まで)、全部みなおしてる。

エステルライヒ、シュヴァルツ、ベートホーフェンなんて序の口。

フランス革命なんて完全に相対化。

ローマ帝国(断じて「神聖」を頭につけない)は、ドイ

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壺イメージ療法の技法の実際

壺イメージ療法の技法の実際

現在九州大学で奉職されている、田嶌誠一先生の開発した「壷イメージ療法」について取り上げてみたいと思います。

この技法は、重篤な精神病水準のクライエントさんにも安全な技法です。

田嶌先生は、私が若い頃から一番尊敬してきた臨床家の一人と言ってよく、最近に至るまで、酒席も共にさせていただき、先生の最近のライフワークである「児童施設内暴力に対する安全委員会アプローチ」を含めて、その臨床的叡智を学ばせて

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中井久夫先生の「分裂病と人類」の、あまりにも簡略化した解説

中井久夫先生の「分裂病と人類」の、あまりにも簡略化した解説

私が大学学部生の時に読んで、非常に感化された、私にとって、ジェンドリンの「フォーカシング」と並んで、非常に特別な著作。

精神科医の大家、中井久夫先生は、「分裂病と人類」の中で、なぜ 統合失調症の遺伝子が淘汰されなかったのかについて、少なくとも「分裂病親和者(S親和者 )」の、危機状況を「先読み」して不安にかられ行動する形質(Ante festum)が、人類の危機管理において不可欠だったからという

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チャールトン・へストンの真の代表作というべき映画「エル・シド」とその歴史

チャールトン・へストンの真の代表作というべき映画「エル・シド」とその歴史

 この映画、感動のラストシーンで、知る人ぞ知る、歴史スペクタクルの傑作です。

 ホントは私が一番好きな映画なんだけど、多くの人にはマイナーでしょうから、紹介は後回しにしていました。

 ミクロス・ローザ作曲のテーマソングはなかなか名曲だと思います。

 歴史ものヒーローやらせたら右に出る者がいなかった、チャールトン・ヘストンの魅力爆発の映画だと思います。

 なのに、「十戒」や「ベン・ハー」ほど

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テクノクラートとしての請負い民主政治家 -二宮尊徳についての壮大なる誤解-

テクノクラートとしての請負い民主政治家 -二宮尊徳についての壮大なる誤解-

 二宮尊徳(金次郎。正確には「金治郎」)というと、戦前の修身の教科書で勤勉と質素倹約を説いた偉人としてのみあげつらわれ、薪を背中に背負って勉学にいそしむ銅像が日本中の小学校に建てられていたあたりから、戦後日本では、日本人の「精神主義」の否定的側面を代表する存在であるかのようにとらえられがちである。

 では、彼は、儒教の教えを説き、農民に辛抱を強いるだけの「道学者」だったのか?

 実情はまるで正

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私の書いた「入門・フォーカシング」、「エヴァンゲリオンの深層心理」無料でお送りします。

私の「入門フォーカシング」と「 エヴァンゲリオンの深層心理」、手元に著者献呈本がまだかなりありますので、ご希望の方には無料でお送りします。
冊数明記の上、

kurumefocusing@mbr.nifty.com

までメールいただければと思います。

フォーカシングとは、実はシンプルなものである

フォーカシングとは、実はシンプルなものである

ケビン・マケベニュさんの「ホールボディ・フォーカシング」に、次のように書いてあります。

「私は、私たち自身の内側にあるものこそが、どんな権威よりも、私たちの人生を癒すために必要な多くのことを知っているということを繰り返し確かめることができました」(訳書pp.2-3)

私は、通常、フォーカシングの「指導」と、「通常のカウンセリング」を、完全に別のものとみなしています。

1.私のカウンセリングル

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ストックホルム症候群 -水樹奈々 自伝「深愛」について-

ストックホルム症候群 -水樹奈々 自伝「深愛」について-

「ストックホルム症候群」という概念がある。誘拐や監禁の被害者が、極限状態の中で犯人に同情や連帯感を抱くようになることであり、1973年にスウェーデンのストックホルム市で起きた銀行強盗において、1週間に及ぶ立てこもりの末に人質が解放されたが、その後、元人質たちが犯人をかばう証言をしたり、警察を非難したりしたほか、元人質の一人が犯人と結婚するに至ったことで注目され、この名が付けられた。

「まるでスト

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スイスの宗教的エッセイスト、「幸福論」のヒルティとフォーカシング

スイスの宗教的エッセイスト、「幸福論」のヒルティとフォーカシング

最近自分でもやっとはっきり気がついてきたのは、

「ひとつの対象にずっとのめりこむ」とエネルギーが容易に枯渇する、

という、当たり前のことです。

「仕事の対象を分散させ、一度にでなく、少しずつ、代わる代わるにやるのがいい」

これは、スイスの宗教家、カール・ヒルティが幸福論(第1部)「幸福論」第一巻の

「仕事の上手な仕方」という、「幸福論」の中でも、ドイツ語の教科書として使われるくらいに有名

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病気の「原因」と「治療」とは何か -ナイチンゲール時代の「公衆衛生運動」と「細菌医学」の奇妙な格執-:序論

病気の「原因」と「治療」とは何か -ナイチンゲール時代の「公衆衛生運動」と「細菌医学」の奇妙な格執-:序論

この前、ナイチンゲールについて書いたとこと の続編。

さて、スクタリの病院に集団で収容されることで死亡者が増えたという現実にその後向かいあうことにその後の彼女の人生は捧げられたわけだが、この問題について更に論じていくためには、当時、パスツールなどの先駆的業績の中で認識されはじめていた、伝染病や傷の化膿・炎症における「病原菌」の果たす役割についての学術的な研究への関心の高まりが、実際には、公衆衛生

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当時の外科医はマッチョで非情な「大工職人」だった -ナイチンゲール時代の「公衆衛生運動」と「細菌医学」の奇妙な格執-:本論1

当時の外科医はマッチョで非情な「大工職人」だった -ナイチンゲール時代の「公衆衛生運動」と「細菌医学」の奇妙な格執-:本論1

前回の続編。

 ナイチンゲールの派遣されたスクタリの病院で、最初の数ヶ月、なぜ42%という驚くような死亡率が生じたのか。

 下手に医学用語を使うと間違う心配があるので、敢えてまどろっこしく、できるだけ私なりに普通の言葉で書いてみよう。

 当時、ある程度以上重度の傷や骨折が生じた場合の治療法は何だったか? .....手足であれば、「切断」がいともあっさり行われていました。しかも、傷口よりもかな

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