見出し画像

チャールトン・へストンの真の代表作というべき映画「エル・シド」とその歴史

 この映画、感動のラストシーンで、知る人ぞ知る、歴史スペクタクルの傑作です。

 ホントは私が一番好きな映画なんだけど、多くの人にはマイナーでしょうから、紹介は後回しにしていました。

 ミクロス・ローザ作曲のテーマソングはなかなか名曲だと思います。

 歴史ものヒーローやらせたら右に出る者がいなかった、チャールトン・ヘストンの魅力爆発の映画だと思います。

 なのに、「十戒」や「ベン・ハー」ほどに人気がない最大の理由は、この映画で描かれている11世紀の頃の段階での、スペインにおけるイスラームからのレコンキスタ(いわゆる「国土回復運動」「再征服運動」)について、日本人の関心がそもそも低いこと(少なくとも、アルハンブラ宮殿が絡む、イザベラ女王時代の、グラダナ陥落(1492)による、レコンキスタ完全達成の頃に比べれば)が大きいのでしょう。

 かつてのスペインの独裁者、フランコですら、「エル・シドの再来」と呼ばれながら歴史の表舞台に躍り出た。そのくらい「エル・シド」という名前のネームバリューが日本と欧米では違うのだと思います。

以下の本が、エル・シド伝説の原型となった叙事詩。


 クレジットには明記されていなかったと思いますけど、この映画の歴史考証をしているのはスペインを代表する歴史学者で、「エル・シッド・カンペアドル」で知られる、ラモン・メネンデス・ピダルという人。この人のエル・シド観はすでに古いと学術的には言われているけど、少なくともこの映画が製作された時点ではまだまだ最高権威でした。


 一見わかりにくい錯綜した人物関係も、恐らくエル・シッド伝説を基本教養としているヨーロッパ人なら、このくらいで十分に理解できるという水準なのだろうと思います。

 むしろ、映画制作当時としては歴史考証の細部にリアリズムのこだわりがあるとすら言えます。

 例えば、

海の向こうから押し寄せるイスラム勢力が、なぜ、アフリカ的な装束しかしていないのか?

後代のオスマン・トルコの軍楽隊と全く異質であることに我々は衝撃を受けるのか? 

何とも狂信的な指導者なのか?

 全部、この映画が作られた「当時最新の」歴史考証の結果なんですよね。あの衝撃のラストシーンにも、ちゃんとそれなりの歴史文献的根拠がある。

 ムラーヴィト朝はイスラム教の神秘主義教団に発する王朝で、その最大版図は、モロッコからガーナを経て、マリ、モーリタニア近辺にまで至り、大西洋まで突き抜けてしまう、実に広大なものでした。

 以上、イギリスの歴史学者フレッチャーによる「エル・シッド―中世スペインの英雄 (叢書・ウニベルシタス)」という本で、ピダルの学説への丁寧な批判と、何と、チャールトン・へストン自身にすら取材して、映画のワン・シーンも写真で掲載して書かれていることなんです。映画「エル・シド」を実際に観た人が、その虚構性がどのあたりかまで歴史背景をお知りになりたくなったら、この本に止めを刺します。


 理想化された騎士道の物語として観ても、これほどすばらしい映画は滅多にない。この「泥臭さ」があってこその騎士道。 

 馬上槍試合の描写、エル・シド在世当時と厳密には一致しないとしても、少なくともある時代の中世騎士道で理想化された作法の、実に忠実な再現です。アメリカで幅広く読まれていたという、ブルフィンチの「中世騎士物語 (岩波文庫)」を直接参考にしているのではないかと憶測します。

 エル・シドを知る上では、エル・シドの項は短いですが、以下の本も参考になります。

 図版満載の本なら。これ。私も持っています。


 ちなみに、Wikipediaの「エル・シッド」の項は、ひどい内容だったので、歴史科でもないのに、私が加筆・修正しています。

 エル・シド登場期を含む、スペインの古い歴史について非常に詳しいのは次の本。


 エル・シド伝説を元にした、マスネーの「ル・シッド」というバレエ音楽もあります。私のiPodにも入っていて、時々聴きます。


 どうも、TVシリーズもその後制作されたようですね。Amazon Primeですので、観てみようと思います。

 私は観ていませんが、日本のアニメにも、エル・シド題材のものがあります。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?