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排泄運動

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日常の速記。食べて、咀嚼して、排泄する。
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#エッセイ

自分のために書けと友は言う

自分のために書けと友は言う

先日、最近仲良くなった女友達の家に遊びにいった。泊りだったので、夜から銭湯に連れだって行くことに。行きはわずかな小雨だったが、帰りは見事などしゃぶりだった。ビーサンの隙間に雨の水が入り込む。Tシャツが湿り気を帯びる。それは銭湯にいってきたという事実を無に帰すようなことだったが、なぜだか生きているという感覚がしたので、それだけで充分だった。

女友達との会合は気楽でよい。ままならない仕事のこと恋愛の

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平和がいちばん

平和がいちばん

ふと亡くなった佐野さんのことを思い出したのは、今日が原爆の日で終戦記念日も近いからかもしれない。

佐野さんは私が勤めるデイサービスに通所していた。昭和2年生まれ。私が出会ったときは90歳ちょっと手前。デイサービスの誰よりも年長者であることを誇りに思っていた。

佐野さんは腰がすごく曲がっていて、いつも前かがみで杖をついて歩いていた。後ろから見ると首無しおばけみたいで、数歩進んでは時々、周囲を見渡

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風邪と永続可能な関係性

風邪と永続可能な関係性

風邪をひくと世界でひとりだけ取り残されたような気分になる。

体調を崩したその日、私は車いすのおいちゃんの受診同行をしていてた。病院の入り口で検温があって、おいちゃんは何ともなかったけれども、私は37℃以上あったので隔離されてしまった。診察だけ同行して、おいちゃんの健康に何も問題ないことだけ確認した。診察室の去り際に「職員さんも頑張ってくださいね」と看護師さんから声をかけられた。帰りの車中でおいち

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30歳になった私が『街の上で』をみて感じたこと。

30歳になった私が『街の上で』をみて感じたこと。

街の上で今泉力哉監督の『街の上で』を見て、下北沢にはもう私の帰る場所はないと改めて悟った。今泉監督作品ならではの独特のテンポの群像劇が面白かったのはもちろんだが、何よりやられたのはあまりにもリアルすぎる下北沢のあの空気感だった。

画面では20代の役者さん達が焦燥不満絶望葛藤根拠のない自信を持て余しながらも、眩いほどにきらきらと輝いていた。全員あの街のどこかで会ったことがあるような気がして何だか懐

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愛とは「見えてるよ」と伝えること

愛とは「見えてるよ」と伝えること

結局このところのもやもや病の正体は自分が必要だと信じてやってること(ホームレス支援&シェアハウス運営)が、資本主義的価値観のなかでその価値が可視化されににくく、また現場での自分が使い捨て要員のように感じること。そして、そのことによって、漠然とした将来の不安に侵されたり、なぜかやってることへの自信まで奪われてしまっていたことだと気がついた。要は自分が心身削って取り組んでいることが、尊重されていないと

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博愛主義だなんていえない

博愛主義だなんていえない

救命救急の待合室で救急車で運ばれた81歳の奥さんの延命措置の選択を迫られている旦那さんをみている。数分おきに深いため息をつく彼の背中を見守ることぐらいしか私にはできない。

職業柄、突然の別れとか延命措置の選択とかお看取りとか何度も経験するけど慣れることなんかなくて、毎回身を切られるように辛い。それなのに、市井の人は親や伴侶でその辛さをいきなり経験するんだと思うと、さぞかし焦るし苦しいだろうと思う

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もう誰も死ぬな

もう誰も死ぬな

もう両手では数切れれないほどの死別を経験したけれども、どんなにベストを尽くしたとしても、遺された側は必ず「あのときああしてれば、こうしてれば」が残る。私に出来ることは限られていて、人を救うことなんて出来ないと頭では分かっている。だけど、心は正直で訃報が入った瞬間は背中をナイフで刺されたような感覚がする。確かにあったはずの楽しかった思い出も、その一瞬はすべてが哀しみで打ち砕かれる。人の死の前で私は無

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仕事じゃない仕事を大切にしたい。

仕事じゃない仕事を大切にしたい。

ナースコールで呼び出されたので、Kさんの部屋に駆けつける。十中八九なんともないのだけど、なんかあったら嫌だからとりあえず階段を駆け上がる。

部屋につくとKさんはすっかり癇癪を起こしていた。あーまたか、という気持ちで正直いっぱい。とりあえず怒りを受け流す。すると今度は足が痛い、頭がくらくらする、背中が痒いの怒涛の訴えがはじまる。これも共感しつつ受け流す。次に始まる病院連れてけ、救急車呼べコールに備

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食欲、睡眠欲、それから会話

食欲、睡眠欲、それから会話

朝起きるのが苦手。6:30から5〜6分ごとにアラームとスヌーズが交互に鳴って、それでもどうしても起きられないみたいな毎日を送ってる。

でも、今日はシェアメイトの布教で最近ハマりつつあるBTSのMVを重い頭でぼーっとみた。そしたら、彼らのあまりの美しさと尊さに、ある瞬間でぱっと目が覚めた。イケメンの力は偉大である。

洗面所に行くと、ちょうどシェアメイトが歯を磨いているところだった。泡を口に溜めて

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福祉の現場で働き続けることの焦りと葛藤

福祉の現場で働き続けることの焦りと葛藤

たぶんまともに働けない最近の悩みといえば専ら福祉の現場で働き続けることへの焦りと葛藤だ。

たぶん、私は資本主義社会の中だとまともに働けない。新卒でちょっとだけ勤めた不動産会社では、シェアハウスの管理業務を行っていたのだが、家賃の仕組みに納得が行かなかった。何故すでに富のある大家さんのために収益をあげなきゃいけなくて、経済的精神的弱者の方の入居はお断りしなきゃいけないんだろう、大家さんは(物件提供

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ヤンキーとはんぺん

ヤンキーとはんぺん

「地元のヤンキーからカツアゲにあったときは、斜め上を向いて『はんぺん』と3回唱える」

と教えてくれたのはN君だった。中学生の頃、相手をビビらせる方法として必死に考えて導き出した答えらしい。

N君はフランスの大学院でアートを勉強して帰国した同世代の男の子で、地元であるこの街に戻っている間に友達になった。

どちらかというと寡黙でいつも控えめな笑顔を浮かべている彼には夜と静寂がよく似合った。服装、

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シェアハウスってバンドみたいだ

シェアハウスってバンドみたいだ

バンドという集合体はとてつもなく不自由で思い通りにはいかない。

シェアハウスってバンドみたいだよなぁ。 GEZANのマヒトの新メンバー募集のステートメントを読んで、ふとそう思った。

他人だった別の人生同士が交差して、衝突し、それでも同じ夢をみる。わたしはバンドのこの一点に焦がれている。起こし続ける当たり前という名の奇跡。テクニックの寄せ集めじゃない。もう一度バンドという存在と必然を信じてみたい

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落ち込むこともあるけれど、私、この町が好きです

落ち込むこともあるけれど、私、この町が好きです

光の方へ久々に朝からひどい落ち込みの波に引きずられて目の前が真っ暗になった。けれども、かわいいシェアメイトが「苺食べる〜?」といつものように朗らかに聞いてくれたので、はっと気持ちが光の方へと向いた。舌から苺の甘酸っぱさが染みわたり、重い身体にかすかな電流が走った。

先日、門司港にアジールをつくりたいという主旨の記事を投稿したが、結局のところアジールをいちばん必要としているのは他でもない私自身なの

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君は古文なんか読まない(あいみょん風)

君は古文なんか読まない(あいみょん風)

古典学習は必要か問題学生時代の友人から「ツベ様(国際基督教大学教授・ツベタナ先生)がabemaTVでてるよ」と連絡が来た。

古文・漢文学習は必要かという、取るに足らない議論だったので流しながらみたが、ツベタナ先生の場面だけはしっかり拝見させていただいた。生きていくうえでの、古文を学ぶ必要性を真っ向から熱く訴えるツベタナ先生は相変わらず格好よくて痺れた。

恩師との出会いツベタナ先生に出会ったのは

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