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絲山秋子の「神と黒蟹県」

絲山秋子の「神と黒蟹県」

 絲山秋子の著書「神と黒蟹県」を読みました。

 絲山秋子という作家は、「海の仙人」でもそうでしたが、とぼけた神を描くのが実にうまいと感心しましたが、この小説でもその持ち味を存分に発揮しています。

 通常、八百万の神はほとんどひっそりと存在しているそうですが、この小説に登場する半知半能の神は、人間として暮らしてみたい、神のままでは味わえないことを知りたいと思って、いろいろな人になってこの世に現れ

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芥川賞受賞作「サンショウウオの四十九日」と「バリ山行」

芥川賞受賞作「サンショウウオの四十九日」と「バリ山行」

 わたしはこの小説を読んで、純文学という器がなんでも包摂してしまう奥行きのある大きな構造を持っていることを知り驚嘆しました。
 なんとこの小説に登場する父親は、赤ちゃんであった兄の体内にシシャモのように存在していた胎児が手術によって産み出された胎児内胎児なのです。
 さらにその父親の娘である主人公の姉妹、杏と瞬の身体は右側が瞬であり、左側が杏でそれが合体して一体になっているが一人でないという結合双

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墓泥棒と失われた女神

墓泥棒と失われた女神

 この映画は少し変わった映画です。
 世間からはみ出たアウトローの泥棒集団のピカレスク(悪漢物語)かと思っていたら、ギリシャ神話でオルフェウスが毒蛇に噛まれ亡くなった妻を連れ戻すためにを地下の冥府に下ったが、冥界の王との約束を破って後ろを振り返ってしまい、望みを果たせなかった悲劇を下敷きにした、はるかな古代への崇敬と現代資本主義文明批判、風刺した奥行きのある映画のようなのです。

 映画は刑務所か

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めくらやなぎと眠る女

めくらやなぎと眠る女

 この映画は、音楽家でアニメーション作家のピエール・フォルデス監督が、村上春樹の「めくらやなぎと、眠る女」「かえるくん、東京を救う」「バースデイ・ガール」「ねじまき鳥と火曜日の女たち」「UFOが釧路に降りる」「かいつぶり」の6つの短篇を再構成してつくったアニメ映画であり、実写をアニメ化するライブ・アニメーションという手法を使って、アヌシー国際アニメーション映画祭や新潟国際アニメーション映画祭で受賞

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メイ・ディセンバー ゆれる真実

メイ・ディセンバー ゆれる真実

 この映画は、グレイシーという36歳の既婚女性が12歳の中学1年生のジョーとペットショップの倉庫で情事におよび、警察に逮捕され、獄中で子供を出産、出所後、夫と離婚したグレイシーはジョーと結婚という、実際あったスキャンダラスな実話をもとにしているという。
ちなみに、題名のメイ・ディセンバーとは、親子ほど年の離れたカップルを指す言葉だそうだ。

 事件から24年の歳月が流れ、アメリカ南部のジョージア州

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なんと、樋口一葉の兄、絵師虎之助(奇山)の作品が横山美術館で展示‼️

なんと、樋口一葉の兄、絵師虎之助(奇山)の作品が横山美術館で展示‼️

 名古屋の横山美術館の企画展「海外で愛された薩摩様式のやきもの サツマの輝き」展(8月25日まで開催)展に行ってまいりました。

 会場には、マルコ・ポーロの「黄金伝説」になぞられて、金彩の輝く薩摩焼が、上絵金彩の白薩摩の本薩摩に始まり、みやびな京薩摩、さらには加賀、大阪、神戸、名古屋、横浜、東京、長崎など各地の薩摩様式の作品が一堂にならべられ、その違いが丁寧な説明がついていてとても分かりやすく展

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映画「ちゃわんやのはなしー四百年の旅人ー」

映画「ちゃわんやのはなしー四百年の旅人ー」

 この映画は薩摩焼の歴史とともに400年を生きてきた沈壽官家の話である。

 豊臣秀吉が明を征服するために30万の大軍で朝鮮出兵したという、文禄・慶長の役(1591年〜1598年)は、当時の東アジアにおける大戦争であり、最大の激戦地となった全羅北道・南原では多くの死者が出たという。

 織田信長以来の御茶湯御政道で茶入ひとつが一国一城に匹敵する時代に、高麗物といわれた朝鮮の焼物を作るほどの技術を持

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パレスホテルビルで錦光山作品を見つけました!

パレスホテルビルで錦光山作品を見つけました!

 たまたまパレスホテルビルの地下に入ってみましたら、朝日堂さんの支店がありました。

 京都の清水寺の近くにある朝日堂さんの本店には何回か行っているので、入ってみますと、抹茶茶碗などが並べられていたのですが、奥の棚を見て見ると偶然にも私の祖父、七代錦光山宗兵衞の作品が展示されていました。

 「瑠璃雲錦詰人物図」、錦光山窯の天才的絵師・素山絵付けの「花蝶人物風俗図」、「絵皿祭行列図」、「小花瓶一対

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皇居三の丸尚蔵館「皇室のみやび」拝観記

皇居三の丸尚蔵館「皇室のみやび」拝観記

 皇居三の丸尚蔵館の第4期、「皇室のみやびー受け継ぐ美」展に行ってきました。
 最初に展示されていたのは文字と絵で物語をつづる絵巻の「春日権現験記絵」でした。
 この絵巻には職人の働く姿とともに春日明神による夢でのお告、夢告の場面があり、竹林に座す貴女、明神と夢告をうける人の寝顔が描かれていて、いとおかし、という気分になります。

 次いで圧巻的なのは、伊藤若冲の「動植綵絵」です。順番に、老松孔雀

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伊藤潤二の”富江”的世界

伊藤潤二の”富江”的世界

世田谷文学館の「伊藤潤二」展に行ってきました。

 伊藤潤二さんのことは詳しくは知りませんが、解説によると、
歯科技工士をしていたころ、ホラー漫画誌「月刊ハロウィン」に投稿して、『富江』での「楳図賞」を受賞してデビューしたそうです。

 『富江』というのは、圧倒的な美貌と傲慢な性格で男たちをとりこにし、彼らに殺してでも自分のものしたいという欲望を抱かせるが、なんど殺されても生き返るらしいです。

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変身するカフカ展

変身するカフカ展

早稲田大学の村上春樹ライブラリーの
「変身するカフカ」展に寄ってみました。

いくつか展示があるなかで
心に残った言葉がありました。

本というのは、僕らの内なる凍った海
に対する斧でなくてはならない

フランツカフカが1904年に友人に宛てた
手紙の一部だそうです。

村上春樹さんが紹介していました。

○©錦光山和雄 All Rights Reserved
#カフカ #変身するカフカ  

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錦光山窯の天才的絵師・素山の正体とは⁉

錦光山窯の天才的絵師・素山の正体とは⁉

 ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館には錦光山宗兵衛の作品が数点ありますが、そのなかでも、わたしは「色絵金彩山水図蓋付箱」という小さな作品がとても好きです。
 蓋(ふた)の表面には静謐な筆で山水図が描かれ、蓋の縁は花尽くしが描かれ、箱の四面には鶏や鹿、孔雀、鶉などの動物が描かれ、蓋をあけた内部には鴛鴦(おしどり)が、蓋の裏には鴨が描かれています。
 それはまるで美しい宝石のようです。
 ヴィ

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おもろ九谷焼、名品九谷焼

おもろ九谷焼、名品九谷焼

 能美根上にある能美市九谷焼美術館と九谷陶芸村に行ってきました。
 そこで焼物はこんなにも多彩で面白いものかと感心しましたので、この場をお借りして、いくつかご紹介したいと思います。余談ですが、能美市はこの日は曇り空で見えませんでしたが、晴れた日には雪をいただいた白山が望めるそうです。

 最初におもろ九谷焼です。
 能美根上の駅前に展示されていたウルトラマンシリーズとのコラボ作品です。ウルトラマン

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青春18×2 君へと続く道ーせつない青春映画

青春18×2 君へと続く道ーせつない青春映画

 許光漢演じる18歳のジミーが、台南のカラオケ店でバイトしていた、ある日、清原果耶演ずる日本人女性のアミが財布をなくしたのでここで働かせてほしいと訪ねてくる。

 旅にゴールはないと言い、ところどころ気に入った風景を水彩でスケッチして旅しているアミは、いつまでも旅を続けたいと言う。アミは美人で可愛いいので、それが評判を呼び、カラオケ店は大繁盛する。そんなアミにいつのまにか恋してしまったジミーはシャ

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