墓泥棒と失われた女神
この映画は少し変わった映画です。
世間からはみ出たアウトローの泥棒集団のピカレスク(悪漢物語)かと思っていたら、ギリシャ神話でオルフェウスが毒蛇に噛まれ亡くなった妻を連れ戻すためにを地下の冥府に下ったが、冥界の王との約束を破って後ろを振り返ってしまい、望みを果たせなかった悲劇を下敷きにした、はるかな古代への崇敬と現代資本主義文明批判、風刺した奥行きのある映画のようなのです。
映画は刑務所から出所したらしいイギリス人の男、アーサーがイタリアのトスカーナ地方の田舎町にもどり、行方不明になっている婚約者の母が住んいる古びた大きな家を訪れるところからはじまります。
このアーサーは、なぜか紀元前の古代エトルリア人の墓を発見できる特殊な能力を持ち、幻想(キメラ)を追っています。
彼は地元の罰当たりで悪どい七人の墓泥棒と墓を発見し、その墓から埋葬品を掘り出し、スパルタコ動物病院のなぞの人物に売って小銭を稼ぎます。小銭を稼いだ墓泥棒たちは、安酒を飲みながらカーニバル的な祝祭空間で歌をうたっり、ダンスを踊ったりして、浮世のうさを晴らします。悪党と粋がっている彼らも巨大な闇のアート市場のちっぽけな手先に過ぎなかったのです。
ある夜、海辺でアーサーたちは古代エトルリアの地下墓所を発見し、そこには見事な壁画や亡くなった人の魂を癒すための埋葬品としての動物の像とともに大地母神の彫像があり、仲間の一人が運び出すために女神の頭部を切りとってしまいます。
そこにスパルタコ動物病院の裏の稼業である闇の巨大なアート組織であり、盗掘品の掠奪と搾取を行う密売集団の手先が襲ってきて、頭部が失われた大地母神を運びさり、動物病院のトップ、美人のスパルタコが豪華船のなかで金持ち相手に売りさばこうとします。
そこに乗り込んだアーサーの取った行動はとても強烈で印象的なのですが、ネタバレになるのでここでは触れません。この辺りは、古代へのファンタジーが、現代のカネまみれの世界と結びつくところでたっぶりと風刺が効いているといえましょう。
最後に仲間からはずれたアーサーは、他の一味に頼まれて廃墟のような場所で何かを感じ、そこを掘り起こすとトンネルのようなものがあり、アーサーが中に入ると土が崩れてきて出入り口が塞がってしまいます。蝋燭の灯りを頼りにアーサーは前に進んで行きます。そして、そこでアーサーが、本当に求めていたものが明らかになります。それは、赤い糸にむすばれた、目に見えないものですが、悲しい結末なのかそうでないのかは、視聴者の判断に任されているようです。
この映画の監督はフェリーニ、ヴィスコンティなどの系譜を引き継ぐ女性監督のアリーチェ・ロルヴァケルだそうですが、この映画は彼女の生と死、空想と現実の境目を自在に行き来する自由な才気と少し掘れば工芸品の破片が出てくるトスカーナ地方の土地柄だからできた、失われたものこそ美しいという寓話をふくむファンタジーといえるのではないでしょうか。
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