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アートのお部屋

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アートに満ちた小さな島

アートに満ちた小さな島

その日、ウサギは図書館の閲覧席でじっと画集を見つめていた。何度も手に取った画集なのに、見るたびに新たな発見があり、彼女はその度に心が躍るのを感じていた。

それでも本当のことを言えば、室内で静かに絵を見ているのは少し苦手だった。広い青空の下で元気に走り回るのが、彼女にとっては何よりも好きなことだったから。

「アートを観られる場所は室内だけじゃないんだよ」と、隣に座るカメが言った時、彼女の目がキラ

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法隆寺から未来の月へ

法隆寺から未来の月へ

その日、ウサギとカメは薄暗い「建築倉庫ミュージアム」の中で、建物の模型を見つめていた。精巧な模型は芸術作品のように、棚の上で肩を寄せ合っていた。

「見て、中目黒のスタバがあるわ。下北のボーナストラックも。建物の形なんてすっかり忘れていたけど、こんな感じだったのね」と、ウサギが小さく声上げた。

建築倉庫を一通り見て回った後、「法隆寺から宇宙まで」という展覧会の会場へと足を向けた。そこで最初に目に

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涼やかなガラスの絵

涼やかなガラスの絵

静かな図書館の書架の間を、ウサギは一人さまよっていた。何かを探し求めるように熱心に本の背表紙を眺めているところへ、ゆっくりとした足取りでカメが近づいてきた。

「何を探しているの?そんなに夢中になって」カメは優しく問いかけた。

「朝から暑くてたまらないわ。だから、涼しげなステンドグラスの写真でも見て気分を変えようと思ったの」ウサギはぼそりと呟きながら、そっと彼に視線を投げかけた。

「それなら、

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ひと足早く夏を先取り

ひと足早く夏を先取り

ウサギは図書館の窓辺で中庭をぼんやりと眺めていた。「もう七月も半ばなのに、毎日雨ばかりね」と、ため息混じりに呟いた。

「早く満開の向日葵に囲まれて、ぱあっと花咲く花火を見上げたいな」と、目を閉じて夏の景色を思い浮かべた。

「任せておいて。分類番号575.98の書架から花火の本を探してくるから」 目を開けると、カメが笑顔で隣に立っていた。

その日の午後、しとしと小雨が降る中、二人は「HANA・

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妖美な灯りと物語

妖美な灯りと物語

その日、ウサギとカメは百段階段の「おはなしの玄関」の前に立ち、御簾越しに灯りを見つめていた。ウサギがカメに囁いた。「今日はどんな物語に出会えるかしら?」その声には、どこか切ない期待が漂っていた。

歩を進めると、涼やかに揺れる風鈴の音の向こう側で、まるで何か秘密を知っているかのような猫が、二人を静かに見つめていた。

十畝の間に足を踏み入れると、そこは竹取物語の世界だった。無数の竹が放つ柔らかな光

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ようこそ猫会議へ

ようこそ猫会議へ

カメは待ち合わせ場所の福徳神社の鳥居を見上げていた。「ここが待ち合わせ場所ということは、まずおみくじを引くことになるんだろうな」と、カメは心の中で微笑んだ。

やがてカメの目に、遠くから駆けてくるウサギの姿が映った。「ごめん、待った?」と彼女は息を弾ませて言った。
「ちょっと行きたいところができたの。これから猫会議に参加するわ」

おみくじには目もくれず、彼女はカメの手を取って軽やかに歩き始めた。

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ギャラリーの二人展

ギャラリーの二人展

急用ができたカメと一旦別れたウサギは、待ち合わせまでの時間を持て余して東急プラザ銀座を一人で歩いていた。あてもなく歩き続けていると、ふとアートギャラリーの前で足を止めた。

ギャラリーには、二人の画家による絵画が飾られていた。それぞれの世界観で丁寧に描かれた作品をひとつひとつ眺めていると、画家のプロフィールが目に留まった。

「uraraさんは、画家になる夢を抱きながらも、一度は大学で法律を学ぶこ

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宙を飛ぶ大きな猫

宙を飛ぶ大きな猫

その日、ウサギとカメはGINZA SIXの広々とした吹き抜けの下で足を止めた。二人の目は、天井から吊り下げられた大きなオブジェに釘付けになっていた。ウサギはカメの袖をそっと引いて、小さな声で囁いた。

「ねえ、見て、あれ…。私の目には岡本太郎の太陽の塔に見えるんだけど?」

カメは目を細め、その大きなオブジェをじっと見つめた。しばらくの間、二人の間に静かな時間が流れた。

やがて、彼は穏やかに口を

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天の川に寄せる想い

天の川に寄せる想い

その日、ウサギとカメはそごう美術館の「KAGAYA 天空の贈り物展」を訪れていた。星空の写真に囲まれ、その幻想的な世界に引き込まれた二人は、瞬きさえも忘れ、その美しさに心を奪われていた。

作品の中では四季の星座が優雅に瞬き、またある時は、空に浮かぶ月が日本の風景に穏やかに溶け込んでいた。その光景は、どこか夢のような神秘を帯び、まるで物語の一幕のようだった。

「これは北海道のハルニレの木なのね。

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国芳の粋な団扇たち

国芳の粋な団扇たち

しとしとと雨の降る中、ウサギとカメは太田記念美術館を訪れていた。狭いロビーを通り抜け、右手の展示コーナーに入ると、そこは別世界のような団扇の空間だった。

ウサギはじっと展示に見入っていたが、ふと笑顔を浮かべると、「国芳の絵って本当に面白いわね。見て、この猫ちゃんたち!影絵になっているの」と、そっと指差した。

「奈良や平安時代に貴族のものだった団扇は、江戸時代になって庶民の間でも使われるようにな

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不完全という美学

不完全という美学

「おはようございます。ウサギのティースプーンのお時間です」小さなラジオブースの中で、ウサギはいつものように元気な声で番組を始めた。その日もリスナーからの質問に答えるコーナーが設けられていた。

「次の質問は、ラジオネーム『完璧にこだわるカメさん』からです!」彼女はマイクに向かって明るく話し始めた。「『ウサギさんは日頃から完璧を目指していますか?』という質問をいただきました」

「私、先日『茶の湯の

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北斎のビッグウェーブ

北斎のビッグウェーブ

「この絵だわ」
すみだ北斎美術館の一角で、ウサギとカメは一枚の浮世絵に目を奪われていた。白い水しぶきを纏った大波が、今まさに、小舟を漕ぐ人の頭上に襲いかかろうとしていた。

遠くに見える富士山が、波間からその様子を静かに見守っている。言わずと知れた、葛飾北斎の描く富嶽三十六景の神奈川沖浪裏だ。

絵の中の波はまるで生きているかのように、今にも額縁から飛び出してきそうだった。
「流石は北斎のビッグウ

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いつだって最先端

いつだって最先端

カレッタ汐留の展望台から地上に降りると、高層ビルが再びウサギとカメを取り囲み、その高さから二人を見下ろしていた。

「未来的な景色が目を引くけれど、このあたりには歴史の息吹も感じられるんだよ」と、カメは穏やかに話し始めた。

「たとえば、1872年に日本初の鉄道が走った新橋駅が復元されているんだ」と彼は続け、
二人は旧新橋停車場に向かって歩き出した。

「当時は西洋建築が珍しくて、日本初の鉄道ター

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竹久夢二とうさぎ

竹久夢二とうさぎ

弥生美術館から続く廊下を渡り、ウサギとカメは竹久夢二美術館へ足を踏み入れた。夢二といえば美人画が頭に浮かぶが、その印象とはまた別に、そこには夢二が描く動物の世界が広がっていた。

「竹久夢二といえば、猫を抱いている女の人の絵のイメージがあるけれど、こんなにかわいい動物の絵も描いていたんだね」とカメが話し始めた。

「こんなにもいろいろな動物を描いていたなんて、ちっとも知らなかったわ」と、ウサギは微

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