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記事一覧
『建色家』(第二回かぐやSFコンテスト応募作品)
バスに乗っていると、ふと、緑のビルが目に入った。僕はそれを見て思い出すことがある。僕が恋した人は緑色が好きだった。だから僕は緑色のプレゼントを渡した。そのプレゼントたちがどうなったかは知る由もない。ただ、なんとなく思い出して、なんとなく物思いにふけてみただけだ。
『次は…… 』
バスが次の行き先を告げる。僕は慌てて降車ボタンを押した。
21世紀も半ばを過ぎた頃、無機質な色をしていたビルの群
小説|よみがえるネコ
その猫は短命で長生きでした。戦火の中で初めて生まれた時、子猫は兵士の腕の中で温かく、そして冷たくなります。子猫を守って兵士が負った傷から血が流れました。血を舐めた猫は、新たな命を得てよみがえります。
別の地で、別の猫として生を享けながら、あの兵士を守りました。冷たい銃弾から彼をかばいました。兵士の行く手にあった地雷を先に踏みました。疲れ果てた彼が眠る町へ進む大きな戦車の前に立ちはだかりました
短編小説『時代遅れ』
結婚式の司会の仕事をしている方に聞いたが、近頃は新郎新婦の馴れ初めが「マッチングアプリ」ということが実に多いらしい。41歳の私は「マッチングアプリ」といえば、何やらいかがわしいものと思ってしまうが、10歳も下になると、もっとカジュアルに捉えているものらしい。そのうち、人と人がお付き合いをするためには、いきなり直接話しをすることのほうが「はしたない」と言われるような時代が来るのかもしれない。
※
【掌編】夢みたいなこと
それは、突然やってきた。
俺が恋人の加奈子と、オープンカフェで他愛のない話をしていると、テーブルが小刻みに揺れはじめた。
日本人の本能か、俺たちだけでなく、周囲の会話も一瞬とまる。
続いて、突き上げるような震動が来た。間違いない、地震だ。
「ひっ!」加奈子が短い悲鳴をあげた。女性は「きゃーっ!」という悲鳴をあげるイメージがあるが、本当におそろしいことが起こったときは、声もほとんど出ないよう
幼き時代の恋のメロディ。
思い出の君はすでに霞んでいて、輪郭よりずっと奥のほうで蠢いていた味わいだけが音階の調べとして小さく流れている。上辺は惑わしで虚の騙し絵。その表皮が風化して、君の在るべき姿が本質として浮かび上がる。
君は色彩に塗れながらも惑わされずにそこにいて、照り返しの眩しさに沈んだふうを装いながら、それでいて、染まらぬその顔を見せつけてくる。
残念ながら幼き初恋はとうの昔に死んでしまったけれど、留恋の