柳明広

小説……主に掌編や短編を書いています。◆近況はこちら。ツイッターhttps://twi…

柳明広

小説……主に掌編や短編を書いています。◆近況はこちら。ツイッターhttps://twitter.com/willow2199y

マガジン

  • 【短編】因果なアイドル【完結済み】

    「#創作大賞2023」の「#恋愛小説部門」に応募した作品です。  とある事情から、芸能事務所で働くことになった高校生・相川霧人。間近で見るアイドルの姿に、心を動かされていく。

  • 掌編(1~10枚程度)

    掌編をまとめています。

  • 短編(20~50枚程度)

    短編に相当する作品をまとめています。

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「因果なアイドル」第1話「マナとノゾミ」

【あらすじ】  父の友人を頼り、芸能事務所でバイトをすることになった少年・相川霧人は、人気急上昇中のアイドル・マナとノゾミのマネージャー補佐となる。  誤解があってマナに嫌悪されつつも、霧人は仕事に打ちこむ。だが、ドラマの主演をためらうマナの背中を押したことから、霧人とマナの仲は急接近する。マナの気持ちを感じとった霧人は、アイドルであるマナとどうつきあっていくべきか懊悩する。  そんな折、マナにスキャンダルが発覚する。対策を講じる事務所だが、霧人のうかつな発言が原因であること

    • 「因果なアイドル」第9話「渡る世間には鬼も仏もいる」 (最終話)

      第8話はこちら  二次方程式がわからないと知ったときの衝撃ははかりしれない。よくそんなことで高校に入学できたものだと霧人は思った。 「丸暗記したのよ、公式とか」マナは言った。「理屈なんてわからなくても、中学の数学なんてどうにでもなる」  胸を張って言うことじゃない。 「あはは、私もそのくちでした」ノゾミが引きつりぎみの笑顔で手をあげた。  冗談だろ、と霧人は暗澹たる気分になった。中学生レベルで色々ととまっている二人に、自分はこれから勉強を教えていかないといけないのか。 「…

      • 「因果なアイドル」第8話「記者会見」

        第7話はこちら  記者会見の会場は、思った以上に広かった。芸能人の謝罪会見をTVで見たことはあったが、まさかここまで広いとは思わなかった。  TVで見た芸能リポーターがいる。カメラを持った者がいる。大勢のメディア関係者が、これから谷川たちの発する言葉を待っていた。 「大丈夫?」霧人はマナとノゾミに声をかけた。 「平気よ。別に悪いことをしたわけじゃないんだし」マナはそう言ったが、身体がかすかに震えていた。 「私も大丈夫」ノゾミも言ったが、彼女が一番心配だと霧人は思っていた。「

        • 「因果なアイドル」第7話「暴かれた秘密」

          第6話はこちら  授業終了から喫茶店でのバイトの時間まで、霧人は図書室ですごした。何とか宿題はやったものの、予習までは手がまわらなかった。テーブルに突っ伏し、目を閉じた。  昨晩は本当に眠れなかった。まさかあそこまでマナのことを意識してしまうとは思わなかった。きつく目を閉じてマナの幻を追い払うと、今度は頭の中でマナの名前がこだまするのだ。こんなことははじめてだ。  喫茶店での仕事をかろうじてミスなくこなし、霧人は二階を素通りし三階の事務所に向かった。二階の稽古場からは音楽が

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        「因果なアイドル」第1話「マナとノゾミ」

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        • 【短編】因果なアイドル【完結済み】
          9本
        • 掌編(1~10枚程度)
          22本
        • 短編(20~50枚程度)
          5本
        • その他
          2本

        記事

          「因果なアイドル」第6話「壁ドンに……」

          第5話はこちら  土曜日は社長命令で休むように言われている。休まなければ学業に支障が出るうえ、仕事の効率もさがるとのことだ。そういうわけなので、霧人は土日曜日はぐっすりと眠ることにしていた。  だが、これまでは勉強とバイトの疲れで、ベッドに入った途端眠りこんでしまったのだが、マナのことを考えてしまうと、眠れなくなってしまった。  アイドルがマネージャー補佐を「意識」するなんておかしいだろう。人気急上昇中のエタニティにとって、下手をすると大きなスキャンダルになってしまう。  

          「因果なアイドル」第6話「壁ドンに……」

          「因果なアイドル」第5話「そこまで鈍感じゃない」

          第4話はこちら  放課後、霧人が喫茶店「エタニティ」にやってくると、「CLOSED」の看板がかかっていた。時間は午後六時前。閉めるにはまだ早い。  事務所へ行ってみたが、鍵がかかっていた。谷川も植田も田中も、いないようだ。  二階ではマナがひとり、ダンスの練習をしていた。 「……ノゾミは?」  霧人がたずねると、「風邪だって。今朝、疲れてるって言ってたし」とマナは言った。「疲れじゃなくて、具合が悪かったみたい。無理してたのね」 「じゃあ、社長たちは?」 「急に出ていった。植

          「因果なアイドル」第5話「そこまで鈍感じゃない」

          「因果なアイドル」第4話「名前」

          第3話はこちら  翌日、霧人は授業が終わるとすぐに学校を出て、マナとノゾミが待つ事務所に向かった。今日は事実上、バイトが休みのため、勉強をする時間は確保できると踏んでいた。 「あ、来た来た」マナがビルの前で手を振っている。 「今日はよろしくお願いします」ノゾミは頭をさげた。 「役に立てるかどうかわからないけどね……で、どこで買うの?」 「近くのショッピングモール」マナは言った。「品揃えが豊富だから、色々選べるし。去年のお酒もそこで買ったから」  ショッピングモールには、徒歩

          「因果なアイドル」第4話「名前」

          「因果なアイドル」第3話「誕生日」

          第2話はこちら  ショッピングモールでのミニライブでは、植田が用意した数名のバイトとともに、霧人は裏方として忙しく働くこととなった。  舞台からはマナとノゾミの歌声が聴こえてくる。これは最初にヒットした曲、ある深夜アニメの主題歌だ。霧人は見たことがなかったが。  ちらりと客席をのぞくと、意外にも大人の客が大勢いた。昔はアニメを見るのは子供かオタクかと言われていたらしいが、それも昔の話だと母から聞いたことがある。  こっちからは見えないけど、マナのやつ、もの凄くいい笑顔で踊っ

          「因果なアイドル」第3話「誕生日」

          「因果なアイドル」第2話「因果」

          第1話はこちら  マナとのつきあいは、一筋縄ではいかなかった。野良猫を手なずける方が簡単かもしれない。  霧人は放課後、午後六時から八時まで、ビル一階の喫茶店「エタニティ」で働くことになった。ここはシューティングスターが経営しており、数名のバイトでまわしている店だ。驚いたことに店長として料理を作っているのは、谷川だった。 「ピラフ、できたぞ。三番テーブルに」 「あ、はい」霧人は慎重に料理を運んだ。  接客云々について訊かれたのは、これが理由だったようだ。  「エタニティ」は

          「因果なアイドル」第2話「因果」

          【掌編】死者を殺す

           中学校が取り壊される、と友人が連絡してきた。俺たちが通っていた中学校だ。取り壊される前に中を見に行こうという話が持ちあがっているらしい。  拒否しようと思った。中学校にはいい思い出がない。それは友人も同じはずだが、四十歳になる節目の年に取り壊されるのは何かの縁だと言われた。  縁。にわかに、胸のむかつきをおぼえた。スマホを持つ手が汗ばんでくる。行くなという声と、行かなければならないという声が、頭の中で争っている。行こう、という声は最後まで聞こえなかった。  気は進まなかった

          【掌編】死者を殺す

          【掌編】安っぽい

           深夜番組があまり好きではない。低予算であることが見え見えで、“安っぽさ”がぬぐえないところが、みていられない。  俺は仕事柄、夜中に帰ってくることが多い。出社時間も退社時間もおそいという、世間一般とは時間が少しずれた生活を送っている。よくみるTV番組といえば、昼ごろのニュースか、深夜番組だと決まっている。  ワンルームのせまい部屋に腰をおろし、TVをつけた。テーブルにはコンビニで買ったカップ酒と焼き鳥。仕事が終わったあと、扇風機を最大風量でまわしながら、冷たい酒で肉を流しこ

          【掌編】安っぽい

          【短編】狂乱する“賢い大人”たち

          *今回はちょっとだけ「あとがき」があります。   それが僕の町に現れたのは、ある日の夕方のことだった。  放課後の教室で、いつものように友達とカードゲーム「マジシャンズ&ファイターズ」で遊んでいると、急に空が暗くなってカードの文字が読めなくなった。 「あれなんだ?」友達が手札を机に置いて、窓の外を見た。  空に巨大なピザのようなものが浮かんでいた。僕が通っている小学校よりはるかに大きく、町全体をすっぽりと覆ってしまいそうだ。  気づいたのは僕たちだけではなかった。運動場を見

          【短編】狂乱する“賢い大人”たち

          【短編】No

           二宮大輔が日が暮れる前にマンションへ帰ってくると、妻の二宮美沙はまだ帰っていなかった。  カーテンを開けると、夕日がさしこんできた。それほど広くはない、しかし夫婦二人で暮らすには十分な広さのあるマンションだ。  ──美沙さんは今日も残業か。  スマートフォンを取りだし、連絡がないか確認する。時間は午後六時を少しすぎているが、連絡はない。おそらく忙殺されているのだろう。連絡がないならなくても構わないと大輔は思っていた。  連絡がおくれるのはいつものことだし、それをとがめたこと

          【短編】No

          【掌編】僕はいつまで恵まれているのか

           空を見ると、たくさんの宇宙船が飛び立っていく姿が見えた。安井裕彦(やすい・ひろひこ)は立ちどまり、じっと船を見つめた。 「裕彦、早く来なさい」母が車の前で呼びかけた。  今日は裕彦の十歳の誕生日で、高級レストランでお祝いをしたところであった。  両親に祝ってもらい、プレゼントをもらい、おいしい料理を食べ……それが「普通」の生活なのだと、裕彦は一週間前まで、信じて疑わなかった。  車のウィンドウからもう一度夜空を見上げる。宇宙船はもうどこにも見当たらなかった。 「もう会えな

          【掌編】僕はいつまで恵まれているのか

          【掌編】わたし

           眠れないとき、安藤さつきは起きることにしている。それがたとえ夜中の一時で、学校に行かなければならない日だとしてもだ。  さつきは県内の高校に通う女子生徒である。電車で一時間もかかる高校へ通うには、六時には起きなければならない。  眠らずとも、横になっていれば疲れはとれる。しかし、さつきにはそれができなかった。自分の中でうずく、いつもの「アレ」を解消しないと、眠れないどころか、授業に身が入らないことを知っていたからだ。  ベッドから出ると、さつきは椅子に座り、机の明かりをつけ

          【掌編】わたし

          『ザ・ゴール』──中高生に読んで欲しいビジネス書

           改善、という言葉を聞いたことがない人はいないだろう。  社会人に限らず、中高生も勉強や部活動などで、改善を無意識のうちに行っているはずだ。  私自身が製造部門、またはそれに近い部署で働いている期間が長いせいか、製造部門でよく使われる言葉であるように思う。  本書では、閉鎖を宣言された工場を立てなおすまでの改善の過程が、小説という形で描かれている。  これまでの基準と照らし合わせれば、順調に稼働しているように見えた工場だが、実情はちがう。慢性的な納期遅れが発生し、赤字の状態が

          『ザ・ゴール』──中高生に読んで欲しいビジネス書