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短編(20~50枚程度)

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短編に相当する作品をまとめています。
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記事一覧

【短編】狂乱する“賢い大人”たち

【短編】狂乱する“賢い大人”たち

*今回はちょっとだけ「あとがき」があります。 

 それが僕の町に現れたのは、ある日の夕方のことだった。
 放課後の教室で、いつものように友達とカードゲーム「マジシャンズ&ファイターズ」で遊んでいると、急に空が暗くなってカードの文字が読めなくなった。
「あれなんだ?」友達が手札を机に置いて、窓の外を見た。
 空に巨大なピザのようなものが浮かんでいた。僕が通っている小学校よりはるかに大きく、町全体を

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【短編】No

【短編】No

 二宮大輔が日が暮れる前にマンションへ帰ってくると、妻の二宮美沙はまだ帰っていなかった。
 カーテンを開けると、夕日がさしこんできた。それほど広くはない、しかし夫婦二人で暮らすには十分な広さのあるマンションだ。
 ──美沙さんは今日も残業か。
 スマートフォンを取りだし、連絡がないか確認する。時間は午後六時を少しすぎているが、連絡はない。おそらく忙殺されているのだろう。連絡がないならなくても構わな

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【短編】宇宙人だって怖いんです

【短編】宇宙人だって怖いんです

 またはじまったよ……。
 真島健吾は、ランドセルを背負いながらため息をついた。
「だから宇宙人なんていないって!」身体と声が無駄に大きい少年が叫ぶように言った。
「いやいるね。宇宙はこんなに広いんだから」小学六年生にしては小柄な少年が言葉を返す。
 最近流行っている、クラスでの宇宙人談議。最終的に喧嘩みたいになって終わってしまうのだが、今日もまた白熱しているようだ。
 宇宙人談議が始まったのには

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【短編】いつも凄いよな

【短編】いつも凄いよな

 浅倉はいつも凄いよな。
 浅倉慎吾は顔をあげた。柔軟体操を終え、バスケットシューズの紐を確認しているときだった。
 慎吾に声をかけたのは、バスケ部部長の六平健太郎だ。慎吾より背は低いが俊敏で、巧みなパスに定評があった。
「そんなことないですよ」慎吾は謙遜ではなく、思ったことを正直に口にした。
 いやいや、そんなことはない、と健太郎は笑った。「一年で浅倉ほど上手い奴はいないぞ」
「そうですか。早川

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【短編】打倒すべき相手

【短編】打倒すべき相手

「実は、彼女ができた」
 高浜明彦のスプーンから、学食のカレーがぼろっとこぼれ落ちた。「うわっ」あわてて白いカッターシャツに目を向けた。さいわい、カレーははねていない。
 目の前にいる友達……桜木幸司は、大きな身体を丸め、恥ずかしそうにしている。高校に入ってできた友達だが、豪胆で知られる柔道部員のこんな姿を見たのははじめてだ。
「え、何で?」明彦は間抜けな返事をしてしまう。
「俺の方から、つきあっ

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