音邑音音 (おとむら ねおん)otomura neon

タブレットをカンバスに描く。社会に流される心が止まり木に寄り道して書く。日々の証の備忘…

音邑音音 (おとむら ねおん)otomura neon

タブレットをカンバスに描く。社会に流される心が止まり木に寄り道して書く。日々の証の備忘録。

マガジン

  • 視覚に囁く『小ご絵』

    いつも大きくて立派な扉ばかり見せられてきたように思う。 深く考えることなく、大きくて立派な扉ばかり追いかけてきたように思う。 だけどいつもうまく開けられるわけじゃない。 ある日、見立たぬ物陰の通用門に気づく。 扉は軽く、ふれただけで開く。 その先に同じものがあるかどうかはわからない。 だけど、中には入れる。 あと戻りもできるから、試しに入ってみたら……。 そんな思いで描いた「絵のことば」。

  • 楽譜が読めない人のピアノ・レッスン

    楽譜を図解で理解する、楽譜を読むのが苦手な方のためのピアノ・レッスンです。 独学でも「必ず弾ける!」ようになります。 敷居の低いピアノで、あなたもピアノを弾いてみませんか?

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イラスト集『函館Graffiti』(電子出版)第2刷発行!

【更新情報】2021年9月6日、第2刷をリリース。  お買い求めいただいた方は第2刷にバージョンアップしていただけます。  これに伴い、第1刷の販売は終了いたしました。  函館に旅をするためのものではありません。  函館の景色に、人に、出来事に、心がかすめたことがある方にこびりついた思いの軌跡、そんなはがすにはがせない瘡蓋みたいな燻りを、遠くに置き去りにしてきたみたいになっている思い出を、掘り起こし、今いちど手のひらに広げてみて、愛で、味わってもらえたらいいなあ、という思い

¥1,000
    • 諦観より達観。

       老いは、まだまだ現役と自負しているさなかに、暗闇からにゅいと顔を出すようにしてやってくる。ある日混じった白髪に、急ぐ足取りのちょっとした重さと遅さに、その顔が不敵に微笑んでいる。  キングカズはピークを超えてもなお上を見あげている。羽ばたきには黄金期ほどの力はないが、経年による劣化をおして浮力に喝を入れている。まだ下降するには早いのだよと、自身の魂に鞭を打つ。  名のある体操選手は10歳代で世界の表舞台から姿を消していく。キングカズのように意思で羽に力をこめても、自助努

      • 去っては打ち寄せる渚の小波みたいかな。

         自由し放題させ放題で寝ぐらと餌を与えられて奔放に育ったお向かいの子猫が親となり、子を連れて帰ってきてしばらく姿を見せないなと思っていた矢先、その子猫も親となり、またしても子猫を連れて戻ってきた。  その子猫(初代からすれば早いものでもう孫世代!)も成猫間ぢかとなり、イタズラの盛りも絶好調で怖いもの知らず。人には懐かないがイタズラの勇猛果敢ぶりは、黒と茶のラインはあるものの白を基調としたその容姿が手伝って、白のアーマーに身を包んだスターウォーズのストームトルーバーと重なってく

        • 〜愛されているのはわかるけど〜

           感情のどこを、あるいは理論的な思考のどれを言葉にするのか(自然に)、もしくはしているのか(意図的に)、人によって違っている。外見の作り方やしぐさ、所作もそうだが、発せられる言葉もまた人を知るうえで注意深く観察すべき重要な調査項目であるということだ。    太郎くんはいっつも内側から湧き出る感情を皮膚という外壁の内部に溜め、膨らませ、瞬時に放出し体現することで自己を安定させた。つながるよりも爆発と集約を繰り返すことで、結果として社会が彼をつなぎとめた。言葉は端的で抽象的で、意

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        イラスト集『函館Graffiti』(電子出版)第2刷発行!

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        • 視覚に囁く『小ご絵』
          1,470本
        • 楽譜が読めない人のピアノ・レッスン
          8本

        記事

          理知的驚きとプライド。

           驚きは瞳孔を開かせ、目を点にさせる。  心臓が縮む思いになることもある。    飼い猫が他所から借りてきた猫と対面したとき、目を点にした。猫を見るのは初めてだとでもいうような顔で、借りてきた他所の猫を前に瞼を見開きなまこを点にし顎を引いて止まっている。  興味深げに見入るようなことも、逃げ腰であとずさるようなこともなかった。ただ我を失い、呆然と(立ちづくすならぬ)座りづくすだけだった。  彼の記憶に同族の顔はなかったのだろう。その表情は雄弁で「なにこのひと?」と問いかけてい

          100年生きる猫。

           人間じゃなくてよかった。  人間だったら、大騒ぎしているところだ。人様のものをかすめ盗ろうなんざ不届き千万、時代劇中なら叩っ斬る大役を仰せつかっていたかもしれない。  おいらが大人であったことも幸いしている。若いうちは動くものすべてを追いかけていたからな。ミクロな生き物はおいらの肉球ひと粒でプチッ、だったよ。  ゆとりをもって生きていなけりゃ、こんな寛容生まれはしない。今じゃ生き物みな兄弟の精神さね。  次郎長じゃないけれど、カリカリ食いねえ、持ってきねえ。おまえさんた

          杞憂が希望の灯火にかわるとき。

          「それでは、第一回、地域の書店を盛り上げよう、夜の秘密会議を開催したいと思います。僭越ながら、最年少のわたくしが最初に音頭をとらせていただきます。今後、正式に議長を決め、わたくしたちの書店をもりあげていこうじゃありませんか」  会議は時間どおりにはじまった。街を行き交う人の姿は途絶え、忘れたころに家路をたどる車が路面との摩擦音をたてるだけの閑散。街をおおう夜もまどろんでいるようだったし、早朝労働者はすでに寝床へもぐりこもうとしているはずだ。  メンバーはみな自由意思で集まった

          杞憂が希望の灯火にかわるとき。

          それでもこれはわたしの問題。

           書店経営が簡単ではないことは最初からわかっていた。それなりに調べてきたんだもの。  最初に予測していたよりもずっとたいへんだったのは、頭で理解するたいへんと、暮らしにのしかかってくるたいへんとでは生身に受ける衝撃が桁違いに大きかったということだ。  定価2000円の書籍が売れても利益は2割の400円。10冊売れても4000円にしかならない。4000円という金額は、図書館勤務の時給換算でおよそ4時間分。もし1日に10冊しか売れなかったら、生活の立場からすると図書館勤務のほうが

          それでもこれはわたしの問題。

          作戦会議へ向けて。

           お客さんのひとりに、出版社に勤めておられる方がいて。営業部で、現場仕事から管理の側にまわって、デスクワークもすっかり板についてしまってと頭を掻くところにあどけなさを残していて。すっかりロマンスグレーのおじさまだけど、気さくさに無駄のないところなんか、やり手を思わせるところがあって。  現場で仕事をしていたころは、自社発刊書籍の動向を書店の担当の方に尋ねてまわっていたんですよ、と、若かりしころを思い出してか、近所にできた小さな書店(うちのことね)を偵察しに来られた。 「そう

          書店店主のつぶやき。

           貴女は図書館員になるものだと思ってた、と友は口をそろえる。  わたしもそうよ、とわたしは口を尖らせる。  本が好きで本の案内人を目指していたし、てっきり雇ってもらえるとばかり思っていた。いや、雇ってはくれた。ただし、時給1000円のアルバイトとしてなら。  2年の月日を費やして、真剣に取り組んだ勉強の結果がこれ? 社会の現実にというより、自分自身の甘さに愕然とした。大学で学んでも、知識は実践の場を前に空転しているだけだった。学びは社会で役にたつものではなく、終わったものの事

          夜の作戦会議。

           巷の書店は本が売れないと嘆き、多くは明るくない未来に歴史のページを閉じていくけれど、消費者は消費者で使えるお金の分配が変わってしまって、昔を知る人は戸惑っていると思う。レコードがCDに置き換わったとき、時代は変わったんだよと冷めた目で現実を見すえたように、書店がスマホショップに姿を変えても、それも時代の趨勢さとさらり流していくようになる。跳ねたピンポン玉はテンポをあげつつもついには息をしなくなり、動かなくなったピンポン玉はだれにも見向きされない。  ピンポン玉の嘆きを聞い

          揺らぐ時間。

           相手の顔色をうかがいつつ、無理に話をする必要のない揺らぐ時間が好き、と彼女は常連と思しき客に話していた。おしゃべりは苦手ではないが、高揚にまかせて蒸気船の蒸気のようにぽっぽぽっぽと話題を継ぐと、息を吸い忘れたランナーが倒れるように密な会話から解放されるととたんにぐったりしてしまう。一日をそこで終えるなら就寝に直行するところだが、24時間ごとに区切られたリズムは、めんどうに思ったことでもそこだけ避けて通らせてはくれない。家に帰ってご飯もつくらなければならないし、湯船にだってつ

          売れた本が書店から消える日。

          「本は買いますが、しばらくここに置いておいていただけませんか」とその学生は言った。家に持ち帰るにはかさばる大判の書籍ではあったが、いちど持ち帰ればいつでも好きな時に開くことができる。なぜ購入した本を彼はわざわざ書店にとどめておきたいと考えたのかしら?  わたしは少し思案をめぐらせてから、彼の事情なるものを逡巡してみた。よんどころなく、口にできない隠伏せざるをえない理由があるから? うちの書店は図書館的に利用できるからかもしれない。試し読みの閲覧席でする読書は、効率がよさそうだ

          売れた本が書店から消える日。

          それでいいの?

          「またしても談合が候補者を当選させる裏事情が暴露されて、『清き一票』がカモフラージュにすぎなかったことに落としてきた肩をさらに落とす」 『彼らはそれでも《国民のためだから》と言って、間違ってはいないことを(納得してもらうのではなく)刷り込もうとしてくる』 《選挙活動のときは平身低頭、よろしくお願いしますと頭を下げるのに、当たったら手のひら返し、ふんぞり返りの上から目線。みんながみんなそうだとは言わないけれど、裏金問題で記者を罵倒したあのおっさん、いい加減にしろよってきぶん

          幸せってどこにある?

          「幸せってどこにある?」  みんな同じことを訊いてきます。  今日偶然に出会った3人も、開口いちばん同じことを訊いてきたのです。ちんどん屋じゃあるまいし、『幸せの場所知ってます』なんて看板、首から下げちゃいなかったのに。  昨日も、ただ一人を除いて同じことを訊かれました。『幸せの場所知ってます』ってもしかして顔に書いてある? そう思って透けてるトイレに駆け込んで、透けないトイレにしてから(鍵をかけたってことね)鏡を覗いてみたけれど、文字どころかニキビひとつありゃしません。

          犬猿の仲? いいえ、猫猿の関係。

           猿とは違う。  猫は猿に対して知恵の高さでは負けるが、プライドの高さでは負けない。  猿はみごとに猿真似をやってのける。社会を形成し、和の鉄則を徹頭徹尾守ろうとする。よけいなことは見ない、聞かない、言わない。さすが、知恵もの。  かたや猫は非懐古主義で、現代の欲望表現者の象徴のようにも見える。古今東西、二六時中、初心、終身、食う・寝る・遊ぶ。ケ・セラ・セラも立派な哲学と、生き方の芯を曲げることはない。  どちらの生き方が理想か、ですって? そりゃ、訊くまでもないでしょ

          犬猿の仲? いいえ、猫猿の関係。