創造主の介入(短編小説 過去作品と同内容)
人を殺した。
突き飛ばしたら動かなくなった。頭から血が出ていて、脈ももうなかった。
フローリングに倒れているそれは、もう人ではない。ただの塊なのだ。さっきまで動いていた人は、ただのそれになってしまったのだ。
僕は何も考えられなくなった。何も考えたくなかった。けれど、この世界にもういたくない事。それだけは分かった。
目の前にナイフがある。僕はそれを掴んでー。
「ちょっと待って!」
目の前にいたのは、知らないおじさんだ。どこから入ってきたのだろう?僕は恐ろしくなった。
「どこから入ってきた?何を言ってるんだ?俺は創造主だぞ!」
「そ、創造主?というか、僕は質問なんか…。」
「お前の考えてる事なんて、お見通しなんだよ!俺が作った世界なんだからな!それでお前、今何をしようと?」
「え、自殺ですけど…。」
「困るんだよなあ!この世界で勝手に自殺されちゃあ!君はメインキャラクターなんだから!来週からストーリー変わっちゃうでしょ!」
「え?何を…。」
「まだ分からない?君は想像上の人間。この世界は、毎週月曜20時から放送中のドラマ『知りすぎた隣人』の中なんだよ。で、君は主人公の橋本アラタ。そこで死んでるのが、ヒロインの松永シュウコ。君たちに死なれると、来週からの枠がおかしくなるからさあ。何とかしてもらいたい訳よ。」
「え、でも、彼女死んでますし…。」
「それはこっちで何とかするから。で、なんで松永と喧嘩したの?」
「え、なんか、早く寝ろって言われてイライラして…。そこから口論が始まった感じですね…。」
「あー、松永ちゃん口悪くしたから。でもさあ、君も真に受けて突っかかる必要ないのに。ちょっと、子供っぽいんじゃない?」
「あー。確かに。」
「君が子供っぽいのは知ってるけどさ。ここまでだとは思わなかったよ。今回は松永、生き返らせてあげるからさ、今後はもうちょい気をつけなよ?俺も軌道修正しとくからさ。」
「は、はい。ありがとうございます。」
「んじゃあ、俺はもう帰るから。松永さんはそのうち目覚める。あんたはもう、部屋に戻った方がいい。橋本君、もう後3話くらいだけどよろしくね。君のおかげで視聴率も悪くないし、感謝してるよ。後3話、松永の面倒を見てやってくれ。」
「は、はい。ありがとうございます。あの、創造主さん。」
「ん?なんだい?」
「あの、俺も松永は、今後どうなるんですか?」
「あー、それはね、後2話したら分かるよ。だから、教えらんない。ごめんね。」
気がつくと、創造主は居なくなっていた。松永はスヤスヤと寝息を立てている。寝ていると、可愛いのに。
ごめんな。今度はもう殺さないから。そう心で呟いて、俺は部屋を出た。
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