見出し画像

小説|よみがえるネコ

 その猫は短命で長生きでした。戦火の中で初めて生まれた時、子猫は兵士の腕の中で温かく、そして冷たくなります。子猫を守って兵士が負った傷から血が流れました。血を舐めた猫は、新たな命を得てよみがえります。

 別の地で、別の猫として生を享けながら、あの兵士を守りました。冷たい銃弾から彼をかばいました。兵士の行く手にあった地雷を先に踏みました。疲れ果てた彼が眠る町へ進む大きな戦車の前に立ちはだかりました。

 猫は何度も彼を守り、散ります。もう兵士が傷つかないように。もう彼が血を流さないように。気づいてもらえなくとも、また兵士と会えなくとも、かまいません。ただ、彼が無事でありさえすれば、それだけでよいのです。

 やがて訪れる平和。彼は妻と出会い、子どもも生まれました。数十年後、年老いた彼が床に伏した時。薬を置いて去ろうとした猫は、彼の腕に抱かれます。ありがとう、もういいんだよ。ふたりは冷たく、温かくなりました。






ショートショート No.245

_Twitterボタン5

昨日の小説

#ショートストーリー #短編小説 #物語 #読書 #ショートショートnote杯

いただいたサポートで牛乳を買って金曜夜に一杯やります。