小牧幸助|小説・写真

和む1分小説・写真の人。 コーヒーのおともにどうぞ。

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1分短編集|1周年記念

こんにちは。毎日和む1分小説を書く小牧です。 1年前の今日、私はnoteを始めました。 ここまで続けられたのはみなさまのおかげです。 いつも読んでくださり、ありがとうございます! 1年間で私が書いた作品の中から、 特に私自身が気に入っているショートショートを 7作品まとめましたので、お楽しみください。 空がくれたブランコ  靴を脱ぎました。夕暮れ時。彼女は高い建物の誰もいない屋上にいます。地上の人々が小さく見えました。ビル風に前髪が乱されます。これほど後ろ向きな前への

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    • 小説|秋色のジャム瓶を

       明けない夜があるなら秋の長い夜だろう。午前二時半の時計の音を聞きながら、彼女は寝床で薄汚れた天井を見上げます。二人で暮らしていた姉の年齢に追いつくまで眠れない日々が続くとは。誕生日になると彼女はジャム瓶を思い出します。  毎年、姉は彼女にジャムを贈ってくれました。十一月生まれの彼女にぴったりな秋色のジャムです。固いフタを姉に開けてもらうのが彼女は好きでした。開けるとリンゴやさつまいも、いちじくや柿のあたたかい香りがしたものです。  起き上がると彼女は今も捨てられずにいる

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      • 小説|まつぼっくりをポケットに

         からっぽな寒空の日、幼かった君は僕をポケットに入れてくれました。包まれる暖かさは忘れられません。いつのまにか君は僕を失くしましたね。ポケットに穴が空いていて。僕は今でも他のまつぼっくりと一緒にあの道ばたに転がっています。  君は歳を重ねるごとに、あまり僕のほうを見てくれなくなりましたね。けれど、僕は嬉しかった。下を向かず前を向いて歩く君の横顔を見上げていると、誇らしい気持ちになったものです。そうして君は大人になりましたね。  また僕は君の顔がよく見えるようになりました。

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        • 小説|負け犬とカツカレー

           夜勤明けの彼女には太陽が目に沁みます。負け犬。頭の中で彼女は呟きました。日差しから逃れ、路地裏の道を通って家に帰る途中、お腹が鳴ります。いい香りがするほうを見れば洋食屋の店がまえ。古い木の看板には店名代わりに犬の足跡。  真鍮の丸ノブを回した彼女を迎えたのは犬好きな店主ではなく、長いコック帽を被った犬でした。どう見てもパグ。「好きな席へお座り」と低い声を残して厨房へ消えます。薄暗い店内で彼女が席につくと水が置かれました。水滴に肉球の跡。 「待っていなさい」とパグ。口調は

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          小説|旅と写真と見えない町

           高台から海辺の町を見下ろします。田舎じみて惨めに見えました。彼女は、彼に嘘をつきます。私たちの町は美しいと。生まれつき目が見えない彼は、幼馴染みの言葉を信じたまま、風土病で亡くなりました。彼女は旅に出ます。  世界には僕らの町より美しい場所もあるのかな? 彼が遺した一言を胸に彼女はカメラを携えていくつもの橋を越え、海を越えて、国境を越えます。広大な花畑に風を送る風車を、夜を照らす摩天楼の明かりを、青く透き通る雪山を撮りました。  十五年後、彼女は故郷に帰ります。彼女もま

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          知らない街でラジオに出た話

          こんにちは。和む1分小説を書く小牧です。 七月某日、夜。 私は知らない街を歩いていました。 蔵前駅には初めて降りたのです。 私は一軒のお店を目指していました。 自由丁。 不思議な名前のお店です。 そのお店もまた初めて行く場所でした。 ラジオに出演するためです。 七月に「ものがたり珈琲」さんに 小説を寄稿したことがきっかけでした。 「ものがたり珈琲」さんが運営する ラジオに招待していただきました。 そのパーソナリティおよび レギュラーゲストが「自由丁」の方々で

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          小説|また遠足に行こうよ

           予定のない日。あなたは思いたちます。遠足に行こう。散歩でもなくランニングでもなく、遠足へ。近所の少し広い公園に行くのです。そうとなったら。あなたはスーパーに寄ります。まっすぐ向かったのはお菓子売り場でした。  三百円以内。バナナはおやつに入らない。頭のなかでそんなことを考えながら、あなたは今日のお菓子を探します。子どもの頃によく食べた駄菓子を二、三、手にとりました。準備は万端です。あなたは公園へ向かいました。  遠足では何をしていたんだろう。公園の木陰のベンチに座り、あ

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          書いた足跡は消えない

          先日、祖母が亡くなりました。 通夜で見た祖母は眠っているようでした。 幼い甥っ子は祖母を起こさないよう静かに歩いていたそうです。 父は祖母の書いた文章が印刷されたものを持ち込んでいました。 祖母はものを書く人だったと聞いてはいましたが、 その文章を私はほとんど初めて読んだように思います。 祖母は文章のなかで幼い頃の父を回想していました。 祖母が亡くなる数日前、私は祖父母の物語を書いていました。 偶然だとは思います。 何かここに意味があると考えるのは都合がよすぎるでし

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          小説|忘れられた日々に

           台風の夜。ひとりで住むには広すぎる古い家で、彼は窓に打つ雨粒の音を聴いています。かつて一緒に暮らしていた祖父母の家でした。けれども、彼は亡くなった祖父母の顔さえ覚えていません。まだ彼が物心つくまえのことだったからです。  雷の音が胸に響きました。彼にとっては知らない街のようなものでした。大学が近くなければ、この場所は空き家のままだったことでしょう。馴染みのない土地。慣れない講義。初めての一人暮らし。強い風に家が鳴ります。  気分を晴らそうと彼は部屋を片づけはじめました。

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          小説|めをふいて

           悲しいときは上を向く。その木から少女が教わったことです。近所の公園で空へ向かって青々と茂っていた木は、少女にとっては口数の少ない先生のようでした。昨夜の嵐で折れてしまった先生に小さな手を触れて、少女は上を向きます。  いじめられた日の放課後、少女は木に登りました。飼っていた金魚を看取った夜、少女は木に登りました。親友が転校してしまった日、少女は木に登りました。上を向いて先生に登れば、涙はこぼれなかったから。  木の上で吹く風と木漏れ日は少女の瞳を乾かしました。地面から離

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          小説|朝色スカーフのおまじない

           朝を迎えるのが辛い夜に彼女は小さな親友を抱きしめます。二十年以上も連れ添ったクマのぬいぐるみ。首に巻かれた水色のスカーフを見るたびに、お姉さんのおまじないを思い出します。親友を救ってくれたおまじない。  子どもの頃、彼女は風邪をこじらせて数週間入院したことがありました。クマと一緒でも心細かった彼女を支えてくれたのが、近くの病室で入院していた名前も知らなかったお姉さんです。頭にスカーフを巻いていました。  入院中、彼女が強く抱きしめてクマの頭から綿が飛び出た時、お姉さんは

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          Instagramはじめました

          こんにちは。和む1分小説を書く小牧です。 冷やし中華はじめました。 まちがえました。 Instagramはじめました。 Instagramでは過去noteに書いた小説を 画像に載せて公開していきます。 最近はなかなか新作を書けていないので、 代わりにお楽しみください。 以下のような雰囲気です。 こちらは以下の小説をもとにしています。 アカウントをお持ちの方は ぜひこちらからフォローをお願いします! #エッセイ

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          小説|架け橋を折る夜に

           梅雨の夜。じいちゃんは命に代えて、少年を救いました。氾濫した川で、溺れる孫を助けたのです。少年は岩に腕を打ちつけて骨折こそしたものの、命に別状はありません。あの人らしい最期だと、ばあちゃんは泣きます。  少年とばあちゃんは、二人暮らしになりました。金もないのに金を貸し、人のためなら土下座も厭わなかったじいちゃんを想って、ばあちゃんは塞ぎ込みます。自分のせいだと折れそうになる夜を越え、少年は上を向きます。  明日は七夕。例年、蚊に刺されながらじいちゃんが山で刈ってきてくれ

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          告知|ものがたり珈琲をあなたに

          こんにちは。和む1分小説を書く小牧です。 とつぜんですが、プレゼント企画です! 先日、noteをフォローしてくださる人が 4000名を超えました。 日頃から小説を読んでくださるみなさまへ 感謝の気持ちを込めまして! プレゼントさせていただくのは、 小説と珈琲です! 先日「ものがたり珈琲」さんに 再び小説を寄稿しました。 (以前の寄稿についてはこちら) 「ものがたり珈琲」とは 小説と珈琲が毎月届く、体験型定期便。 (公式サイトより) 私は7月の小説のひとつを担当し

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          小説|おかえり駅にて

           小さな駅のホームで、旅人は古びた本を読んでいる老人に話しかけます。「おかえり駅とは変わった名ですが、由来をご存知ですか」と。老人は本の表紙をゆっくりと撫でてから、とつとつと旅人に語り始めます。  昔、汽車に住む男がいた。物心ついた頃から、車内で本を売って暮らしていた。汽車の旅は長いゆえ、本はよく売れた。けれども、男の暮らし向きが良くならなかったのは、貧しい孤児たちに絵本を贈っていたからだ。  男は故郷を欲したが、生涯を汽車で過ごした。六月の星夜のこと。車中で病に倒れ、男

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          小説|人だからさ

           十年ぶりに彼女は町へ帰ります。知らない土地に思えました。古い建物の屋根は焼け落ちており、土壁には銃痕。支援金で建てられた新しい家々には知らない人々が住んでいます。夜に沈む町は変わりました。そして彼女も。  十年前。彼女と病弱な幼い弟は、町の飯屋で無口な店主から軍人の残飯をもらいました。姉弟が急いで食べるかたわら、店主の腹が鳴ります。店主の痩けた頬を見て「なぜ、くれるの?」と彼女。店主は答えませんでした。  飢えから家族を守るために彼女は軍に入り、身の丈ほどの銃を整備して

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