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#読書

渋沢敬三の主宰していたアチック・ミューゼアムの意外な来訪者

渋沢敬三の主宰していたアチック・ミューゼアムの意外な来訪者

 先日、民俗学研究者・澤田四郎作の日記の翻刻もされている磯部先生のTwitterで渋沢敬三が運営していたアチック・ミューゼアムの来訪者リストがウェブで閲覧できるということを知った。

この来訪者リストは以下のページより閲覧ができる。

この来訪者リストは、アチック・ミューゼアムの例会の日付とその際の参加者が記載されているが、リストを確認しているとアチックと関連があったとよく言及される人物、私の知ら

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Gift from the Sea Re-opened

Gift from the Sea Re-opened

あまりに有名な、アン・モロー・リンドバーグの『海からの贈りもの』を最初に読んだのは、20代だったと思う。
1950年代に出版されたものだが、長く読み継がれている。

最後の一章は、1975年に再び本人が書いている。
題名が『「海からの贈りもの」を、いまふたたび開いて・・・・・。』である。
この新しく加えられた一章を載せたい、と落合恵子が訳し、1994年に出た。
帯のコピーは、今の時代なら違うものに

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悪者図鑑/トキワエイスケ

悪者図鑑/トキワエイスケ

世の中で起こる悪いことのすべてはすくなからず自分のせいでもあるというのを中高生の頃からずっと思って生きてきた僕にとって、この『悪者図鑑――なぜ、「悪者」はいなくならないのか』でトキワエイスケさんが、

もちろん、あなたも悪者を生み出している張本人です。

と書いているのをみても、驚きは何もなく、そうそう、そうだよねと共感するばかりだった。

自分が悪を生みだすことに加担しているという僕にしてみれば

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不完全性定理

不完全性定理

"つまりこの論争には、真の勝者はいない(中略)もう一つ注意しておきたいことは、1960年代以後の地道な数学基礎論研究により、この論争には真の敗者もいなかったことが実証されつつあるということだ。"2006年発刊の本書は、不完全性定理論文の歴史的経緯を10年以上の調査で丹念に解説した良書。

個人的には『数学基礎理論の重要定理』として引用などを通じて名前だけは知ってはいたものの中身については全く知ら

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社会学者・下出隼吉と明治文化研究会

社会学者・下出隼吉と明治文化研究会

 昭和初期に活動していた下出隼吉は社会学の研究者として知られており、吉野作造、尾佐竹猛、小野秀雄、藤井甚太郎などが参加していた明治文化研究会にも所属していた。『下出義雄の社会的活動とその背景』(唯学書房, 2018年)に収録されている「下出書店と杉原三郎」朝井佐智子によると、隼吉の父・下出民義は明治文化研究会に資金援助していたようである。下出民義は愛知県を中心に活動していた実業家で、貴族院議員もつ

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つながりきれない社会の中で~デモステネス『弁論集 6』

つながりきれない社会の中で~デモステネス『弁論集 6』

先日の記事で、本書の面白さについておおいに語った。

本稿では主に、弁論集第6巻で扱われる具体的な裁判記録を手引きとして、当時の法体系とそれを支える思想、そこから垣間見える古代ギリシアの価値観について、具体的に触れていきたい。

2,000年以上前の文化と現代の文化の間に横たわる大きな断絶と比べると、両者の法制度の間にある共通点の多さがよほど目を引く。上の記事で書いたのは、そうした側面だった。

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逃走論

逃走論

"男たちが逃げ出した。家庭から、あるいは女から。どっちにしたってステキじゃないか(中略)とにかく、逃げろや逃げろ、どこまでもだ。"1986年発刊の本書は偏執型(パラノ)から分裂型(スキゾ)へ、ドゥルーズ=ガタリ。マルクス、ケインズと時代を感じさせつつも縦横無尽に語っている知の良書。

個人的にはドラマ『ヴィレヴァン!』で、遠藤賢一演じる店長が紹介していたのをキッカケに『構造と力』に次いで、手に

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合法的だった戦争が違法化された歴史を辿った『逆転の大戦争史』を紹介する

合法的だった戦争が違法化された歴史を辿った『逆転の大戦争史』を紹介する

国際法の歴史をさかのぼると、かなり長い時期にわたって戦争が合法的な行為であると考えられてきたことが分かります。「国際法の父」とも称されるオランダの法学者フーゴー・グロティウス(1583~1645)は、戦争は権利の侵害に武力で対抗する手段として許容されなければならないことを著作『戦争と平和の法』(1625)で論じていました。

国際法で戦争が初めて違法であると宣言されたのは、この著作が出されてから3

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【作家・麻耶雄嵩氏の推薦コメント公開!】エラリイ・クイーン『十日間の不思議〔新訳版〕』2月17日発売!

【作家・麻耶雄嵩氏の推薦コメント公開!】エラリイ・クイーン『十日間の不思議〔新訳版〕』2月17日発売!

◎巨匠エラリイ・クイーンの代表作がついについに新訳版で登場!
 大変お待たせいたしました。今月17日、早川書房ではミステリ界の巨匠エラリイ・クイーンの『十日間の不思議〔新訳版〕』(訳=越前敏弥)をハヤカワ・ミステリ文庫より刊行いたします。

 ながらく新訳版刊行が待ち望まれていた、エラリイ・クイーン円熟期を代表する傑作です。

◎作家・麻耶雄嵩氏の推薦コメント紹介!
 この度の刊行に際して、作家・

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プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明/武邑光裕

プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明/武邑光裕

「わたし」はどこへ向かうのか? 「わたし」はどんな風に変わってしまうのか?

このところ、ずっと考えてきているのは、

・わたし(たち)が今後もわたし(たち)自身の権利をもって、これからも生きていくためには、わたし(たち)自身が新たにどのような意識をもつ必要があるのか、
・また、わたし(たち)自身が生きていくために、生きる糧として必要なさまざまな財とどのような関係を築き、維持していけばよいか、

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作家・麻生幾「闇の中で生きる矜持を伝えたい」 小説『観月 KANGETSU』が描き出す日本社会の“光と闇”

作家・麻生幾「闇の中で生きる矜持を伝えたい」 小説『観月 KANGETSU』が描き出す日本社会の“光と闇”

『外事警察』などで知られる作家の麻生幾さんが〝日本警察史上最大の作戦〟に取材した社会の「光と闇」を問うた圧巻の警察小説『観月 KANGETSU』が誕生した。

大分県杵築市で毎年行われる幻想的な光に包まれる「観月祭」。今年も無事に迎えられるはずだった。しかし、祭りの一週間前、突如として七海を怪しい影が襲う。その翌日には七海が幼いころからお世話になっているパン屋の奥さんが絞殺体で発見された。さらには

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学校も病院も行くことを禁じられた少女の壮絶な半生の回想『エデュケーション』/大原ケイ書評

学校も病院も行くことを禁じられた少女の壮絶な半生の回想『エデュケーション』/大原ケイ書評

ビル・ゲイツ、ミシェル&バラク・オバマらが絶賛して全米で130週以上ベストセラーリストにランクイン、400万部超を売り上げたノンフィクション、タラ・ウェストーバー/村井理子訳『エデュケーション――大学は私の人生を変えた』(原題:Educated: A Memoir)とはどんな本なのか? アメリカの出版事情に精通する大原ケイさんが紹介します。

よくアメリカは「自由の国」と言われるが、そもそもなんの

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拠点が自分の居場所をつくる!『地方でクリエイティブな仕事をする』(笠原徹)

拠点が自分の居場所をつくる!『地方でクリエイティブな仕事をする』(笠原徹)

長場雄さんのイケてる表紙の雰囲気からして、やわらかくも感覚的でセンス重視の内容と思いきや、至極まっとうなクリエティブ論でした。ファンベース的でもある。

ちょっとでも地方の仕事に興味ある方にはオススメの一冊。

著者にとってクリエイティブとは、感情を動かす仕掛けをつくること。人の心をゆさぶるということは、使う誰かのことを想ってものをつくることともいえる。

そのためには顧客と自分と向き合う必要があ

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教育の今、子どもたちの未来~『質問する、問い返す』名古谷隆彦

教育の今、子どもたちの未来~『質問する、問い返す』名古谷隆彦

――主体的に学ぶということ (岩波ジュニア新書)

久々のジュニア新書。考え方や問いの立て方を子供にも読めるようにやさしく解説する本かと思ったら、やや毛色が違った。本書は、学校教育の現場を長年取材してきた記者による、子どもたちが自主的に考える力を養うための教育のあり方を豊富な事例とともに考察していくマイルドな教育論である。ジュニアを対象に書かれているわけではないが、それでもやはり読みやすく、若い世

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