武内和人|戦争、社会、人間を学ぶ

政治学者。戦争に関する研究成果を紹介します。大学では政治学を教えていますが、人文科学、社会科学の研究全般に関心があり、軍事学も研究しています。この筆名で行っている活動は勤務先と無関係です。記事一覧はプロフィールにまとめています。

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    ウクライナ軍がロシア軍に反撃するために取り組むべき戦術的課題は何か?

    2022年2月24日以降、ウクライナ軍はロシアの軍事侵攻で大きな損害を被りましたが、依然としてロシア軍に占領された領土を取り戻すために戦いを続けています。ロシア軍はキーウの攻略に失敗し、ハルキウからも撤退を強いられましたが、東部戦線と南部戦線では軍事的優位を保持しており、ウクライナ軍が勝利を収める上でいくつかの課題を突き付けています。 英国王立防衛安全保障研究所(Royal United Services Institute)から発表されたJack WatlingとNick

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      • 論文紹介 フランス革命が戦争の歴史に与えた影響を統計的に検討する試み

        1789年のフランス革命の意義は単にフランスで君主制が崩壊し、共和制が成立しただけにとどまりませんでした。革命によって人民は国民へと再編され、国家は短期間で彼らを徴兵して戦地に送り、長期間にわたって大軍を配備、運用する能力を手にしたのです。プロイセンの軍人カール・フォン・クラウゼヴィッツは、この革命がヨーロッパの国際政治のあり方を一変させたと主張していました。 彼の説によれば、フランス革命が起こるまでのヨーロッパの戦争は限定的であり、決して全面的なものになることがありません

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        • 論文紹介 中国は本当に台湾を武力で統一しようとするのか?

          中国と台湾は70年以上にわたって本格的な武力紛争を避けてきましたが、これからも両者の間で武力紛争が起こらないとは限りません。中国は「一つの中国」として知られる見解を主張しており、「中華人民共和国が中国で唯一の合法的な政権」であることを理由に台湾を国家として承認しない姿勢を堅持しています。もし台湾が国家として独立することを宣言すれば、中国は武力によって台湾を統一することを辞さないでしょう。 ただ、中国が本気で台湾に侵攻するつもりなのか、疑問を覚える読者もいると思います。そこで

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          • メモ 経済制裁でEU市場を失ったロシアが中国依存を深める

            2022年2月にウクライナに侵攻したロシアは、北部での戦闘に敗退した後も、東部や南部に戦力を集中していますが、決定的な戦果を上げるには至っていません。この間にも、ロシア経済を支えていたエネルギー輸出は、一部の例外を除いて欧州連合(EU)加盟国の市場から着実に締め出されつつあります。 イギリスの国際戦略研究所(IISS)に所属するMaria Shagina氏は、ヨーロッパのエネルギー市場を失ったロシアが、アジア諸国の市場に活路を見出す必要に迫られていますが、これを実現するため

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            • 論文紹介 人々は1週間ほどで戦闘に慣れるが、4週間で精神の限界に達する

              19世紀以前の陸上戦では1日から2日の間に戦闘が終結することが一般的でした。しかし、20世紀以降では戦闘が1週間、2週間と続くことも珍しくなく、第一次世界大戦(1914~1918)では惨事ストレスなどで精神疲労を蓄積した兵士が戦闘不能になる事例が相次いで報告されました。このため、軍事学や軍事医学の研究者の間では、精神衛生が人的戦闘力の維持において極めて重要な課題であることを認識するようになり、調査が行われるようになりました。 1946年に出版された「戦闘神経症:戦闘疲労の経

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              • メモ 冷戦の最初期に書かれた核戦争の戦略論『もう時間がない』(1946)の紹介

                核戦略の分野でウィリアム・ボーデン(William Liscum Borden)の知名度はバーナード・ブローディに比べると劣っているかもしれません。少なくとも学部生向けの授業で彼の文献が取り上げられることは皆無に近いでしょう。ただ、研究史における彼の功績は決して小さなものではなく、核戦略の発展に関する見通しも的外れなものばかりではありませんでした。 ボーデンは冷戦が始まったばかりの1946年の著作『もう時間がない:戦略における革命(There will be no time

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                • 米国が台湾の防衛に慎重な姿勢を見せてきた理由を歴史的に考察する『米国の台湾海峡政策』(2012)の紹介

                  アメリカは中国と台湾に対する外交関係で「戦略的曖昧さ(strategic ambiguity)」として知られる立場を堅持してきました。この戦略的曖昧さは、中国が台湾を武力で統一するため、軍事侵攻に踏み切った場合、アメリカが台湾に派遣する戦力の規模や種類をあえて曖昧にする立場をいいます。 アメリカ政府がこのような立場を採用してきた理由については、政治学者ディーン・チェン(Dean P. Chen)が著作『米国の台湾海峡政策:戦略的曖昧さの原点(US Taiwan Strait

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                  • 冷戦期に対反乱戦略を編み出した『共産主義者の反乱を打倒する』(1966)の紹介

                    1945年に第二次世界大戦が終結すると、国家間で大規模な戦争が勃発する機会は減りましたが、それに代わって反乱の問題が注目を集めるようになりました。ロバート・トンプソン(Robert Grainger Ker Thompson, 1916-1992)は現在のマレーシアにおいてイギリス軍の対反乱作戦に幕僚として参加したイギリスの軍人であり、『共産主義者の反乱を打倒する(Defeating Communist Insurgency)』(1966)の第4章「対反乱の基本原則(Basi

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                    • 論文紹介 なぜ国家が国民を強く抑圧するほど、反乱軍に有利になるのか?

                      国内で武装集団が組織され、反乱を起こしたのであれば、国家は断固とした手段でその脅威に対処することを余儀なくされるでしょう。しかし、このときに国家が講じた強硬な手段が、かえって反乱の勢いを増すことになりかねないことも指摘されています。 例えば、ブラジルの共産主義者カルロス・マリゲーラは、市街地を拠点に置く都市ゲリラの部隊運用において、警察や軍隊が積極的に武器を使用するように誘導することの重要性を説いており、弾圧が強まるほど、政府に対する国民の支持を低下させる効果があると予想し

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                      • メモ フォーカル・ポイントとは何か、なぜ戦略の研究で重要なのか?

                        フォーカル・ポイント(focal point)とは意思の疎通がまったく不可能な状況下において、相互に影響を及ぼす各個人が自然に選択しがちな行動の組み合わせから成り立つ状況をいいます。 これはゲーム理論の研究でトーマス・シェリングが提唱した概念ですが、その重要性はゲーム理論の領域にとどまるものではありません。交戦国間で武力行使に一定の限度を設ける限定戦争(limited war)でどのような行動を選択すべきかを考える際にも、このフォーカル・ポイントの概念が役に立ちます。 シ

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                        • 論文紹介 政治家が国内の有権者に約束したことは、外交的な意味を持つ

                          外交交渉では自国の譲歩を最小限にとどめ、相手国から最大限の譲歩を引き出すことで、有利な合意をまとめることが求められます。このような場面で、指導者はあえて国民に成果を約束し、自国が譲歩すれば、自分の評判を傷つける状況を創り出すことがあります。政治学の研究者は、これには戦略的な効果があると考えており、それを説明するために観衆費用(audience cost)という概念を使っています。 観衆費用とは、国内で観衆となる有権者が、対外政策の実行に失敗した指導者に課すであろう費用として

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                          • 冷戦期の米潜水艦の秘密作戦に迫った『潜水艦諜報戦』(1998)の紹介

                            アメリカとソ連の冷戦で潜水艦が果たした役割については、まだ多くの謎が残されています。これは潜水艦の能力や活動について秘密にすべき事項が他の艦艇に比べて多いためです。特に長期にわたって潜航し続ける能力を持ち、核攻撃能力を備えた原子力潜水艦の運用の情報は特に厳格な保全の対象となります。 しかし、冷戦時代の情報が次第に公開されるにつれて、アメリカ海軍の潜水艦がどのような作戦を遂行していたのかについては、少しずつ明らかになってきています。『潜水艦諜報戦(Blind Man's Bl

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                            • 論文紹介 戦力で劣る国を抑止できない3つの要因

                              現代の世界では、抑止戦略が戦争を防止し、平和を維持する基本的な手段となっています。しかし、それが成り立つためには、相手に戦争を思いとどまらせるような軍事態勢を確立しなければならなず、しかも最適な軍事態勢を確立できたからといって、必ずしも抑止が成功する保証はないのです。 今回は、抑止したい相手よりも軍事的能力で優る国家であっても、抑止戦略に失敗することがある理由を検討した論文を紹介しようと思います。 Wolf, Barry. 1991. When the Weak Atta

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                              • 欺騙の行い方を分析した軍事学の研究『計略(Strategem)』(1969)の紹介

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                                • 勢力移行論を確立し、世界情勢を予見した古典的著作『世界政治』(1958)の紹介

                                  国際政治学の研究領域では、各国の勢力関係の優劣が大きく変化することを勢力移行(power transition)と呼んでおり、これが大きな戦争を引き起こす原因になると認識しています。イタリア出身の政治学者オルガンスキー(A. F. K. Organski)は、このメカニズムをいち早く特定した先駆者であり、1958年に発表した著作『世界政治(World Politics)』は勢力移行論の古典的な業績として今でも高く評価されています。アメリカの大学では、長らく国際政治学の教科書と

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                                  • メモ ソ連軍は米軍の潜水艦発射弾道ミサイルをどう見ていたのか?

                                    前回の記事(なぜ潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)が抑止に役立つと考えられているのか?)で、ソ連軍の弾道ミサイルの脅威に対応するため、アメリカ軍が潜水艦発射弾道ミサイルを使った抑止戦略を模索するようになったことを紹介しましたが、ソ連軍はこれにどのように反応していたのでしょうか。 1962年に出版され、1963年に改訂された『軍事戦略』は当時のソ連軍がアメリカ軍の抑止戦略をどのように認識していたのかを知る上で興味深い資料です。この著作は国防省監察総監だった軍人ワシーリー・ソコ

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