観月_KANGETSU

小説「観月 KANGETSU」#23 麻生幾

第23話  

参考人聴取(1)  

★前回の話はこちら 

「別府発最終の普通電車でしたので、杵築駅で降りた時間は、午後10時18分。何度か利用したことがありますので間違いありません」

 七海が間を置かずに答えた。

「で、まっすぐ自宅に向かわれた?」

 睨み付けるような雰囲気で正木が訊いた。

「はい」

 七海は正木の目をじっと見つめた。

 

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小説「観月 KANGETSU」#22 麻生幾

第22話 

 ガス橋殺人事件 (6)

★前回の話はこちら

 萩原はその意味を考えてみた。

 地方県警では、機動隊を運用する警備実施部門と、極左暴力集団などを摘発する公安や、外国のスパイなどを追及する外事(がいじ)部門は、警備部という組織の中でまとめられているので、マルガイがどこにいたのかは分からない――。

 だが水島課長はあっさりとその答えを口にした。

「大分県警に照会したところ、警備

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小説「観月 KANGETSU」#21 麻生幾

第21話 

 ガス橋殺人事件 (5)

★前回の話はこちら

「マルガイの真田の書斎に入った時、床の上に、カレンダーが伏せられてその上から雑誌が置かれていたこと、気づかれませんでしたか?」

 「いや、見てない」

 萩原の表情が一変し、険しいものとなった。

「自分、ふと気になって、恭子が箪笥から夫の衣服を出して萩原主任に説明を始めた時、そっと雑誌を動かしてカレンダーを見てみたんです」

「そ

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小説「観月 KANGETSU」#20 麻生幾

第20話

 ガス橋殺人事件 (4)

★前回の話はこちら

「具体的にはどちらの?」

 萩原が優しく語りかけた。

「大分県の関連施設です」

 その言葉もそれまでとは違い、毅然としていた。

「名称は分かりますか?」

「これまで、いろいろ、転々としましたので……図書館とか公民館とか……随分と昔の話ですから詳しくはもう記憶には……」

 そのたどたどしい雰囲気とは違い、言葉を口にする滑舌は素

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小説「観月 KANGETSU」#19 麻生幾

第19話 

 ガス橋殺人事件 (3)

★前回の話はこちら

警視庁 池上(いけがみ)警察署

「まず、鑑取(かんどり)捜査第1班、本部専従班、萩原警部補。池上署刑事課、砂川(すながわ)巡査部長――」

 捜査第1課長である水島警視正の言葉で立ち上がった萩原と砂川は互いに向かい合い、機敏な動作で深々と頭を下げた。

 椅子に戻った萩原は、壁を覆い尽くす模造紙に書き込まれた事件概要を見つめながら、

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小説「観月 KANGETSU」#18 麻生幾

第18話 

ガス橋殺人事件(2)

★前回の話はこちら

「マルガイの自宅に向かったキソウ(機動捜査隊)から今し方入った報告では、日課にしているウォーキングにいつもの時間に家を出たらしい」

 井村が説明した。

「その途中、何者かに襲われた?」

「恐らく」萩原の言葉に井村が頷いてから言った。「ただ、財布とその中身は取られていない」

「タタキ(強盗)ではないと……」

 萩原はそれ以上の詮索

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小説「観月 KANGETSU」#17 麻生幾

第17話

ガス橋殺人事件(1)

★前回の話はこちら

10月5日 東京

 まだ夜が明けきっていない空気を胸一杯に吸い込みながら久保田翔太(くぼたしょうた)が言った。

「10月にしては寒いな」

「これくらいがちょうどいいじゃん」

 ジョギング姿で併走する妻の美智(みち)が応えた。

「やっぱり、明日は、空が白んでからにしない?」

 夫が言った。

「ダメよ、そんな時間じゃ。この道、朝早

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小説 「観月 KANGETSU」#16 麻生幾

第16話

“オニマサ”(5)

★前回の話はこちら

 七海の脳裡に浮かんだのは、一人の男の顔だった。

 癖毛で浅黒い顔をした田辺智之(たなべともゆき)――。

 2ヶ月前、東京の私立大学から1年間の予定で研修に来ている38歳の独身の男だ。

 実は、彼が自分に好意を持っていることは薄々感じていた。

 仕事中にふと目を向けると、自分を見つめていた田辺がさっと目を逸らすことが度々あった。また、

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小説 「観月 KANGETSU」#15 麻生幾

第15話

“オニマサ”(4)

★前回の話はこちら

10月4日

別府国際大学

 数人の通勤、通学の乗客ともに、日豊本線の2両編成の始発電車から降り立った七海は冷たい空気をいっぱいに吸い込んだ。

 自宅を出た時から、予想もしていなかった肌寒さに、思わず、ひやっという声をあげた。

 いつもの10月初旬ならば寒風なんてまだ感じるはずもないわ、という先入観があったせいだった。

 午前6時42

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小説 「観月 KANGETSU」#14 麻生幾

第14話
“オニマサ”(3)

★前回の話はこちら

「すみません」

 涼は頭を下げた。

「そん、すまん、も止めろ。謝るくらいなら始めからするな」

 叱られた涼は思い出さざるを得なかった。

 正木警部補の存在を知らされたのは、2年前、別府中央署の刑事課に人事配置された直後に、指導係として就いてくれた先輩刑事からだった。

「コロシ(殺人事件)があったら、本部からん専従班と組まさるることにな

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