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映画の感想

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#洋画

2024年上半期ベスト映画 トップ10

2024年上半期ベスト映画 トップ10

映画館に見に行く本数は減ってしまったけれども、配信などで食らいつくことができたと思う。結論をすぐ出さない、"揺らぎ"のある映画たちを10本。

10位 アメリカン・フィクション

本年のアカデミー賞作品賞ノミネート作。海外の作品を見始めたのはここ数年だけど、“真っ当”なものとして見てきた傑作にもこのコメディが刺そうしている目線があるのでは?と思わせるような毒と説得力があった。戯画化された正しげな配

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自由だったはずの世界/ヨルゴス・ランティモス「哀れなるものたち」【映画感想】

自由だったはずの世界/ヨルゴス・ランティモス「哀れなるものたち」【映画感想】

ヨルゴス・ランティモス監督がアラスター・グレイの小説を映画化した「哀れなるものたち」。自殺した妊婦にその胎児の脳を移植した人造人間ベラ(エマ・ストーン)と、それを取り巻く男たちを描く奇怪な冒険譚である。

上の記事では原作小説の感想を書いており、どう映像化されているのかという期待を高めていた。実際、映画を観てみると登場人物のバックボーンを描くことを排したことによる寓話性の高まり、そして映像で見せる

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ここは無秩序な現実/アリ・アスター『ボーはおそれている』【映画感想】

ここは無秩序な現実/アリ・アスター『ボーはおそれている』【映画感想】

「へレディタリー/継承」「ミッドサマー」のアリ・アスター監督による3作目の長編映画『ボーはおそれている』。日常のささいなことで不安になる怖がりの男・ボー(ホアキン・フェニックス)が怪死した母親に会うべく、奇妙な出来事をおそれながら何とか里帰りを果たそうとするという映画だ。

本作は上記記事で監督自身が語る通り、ユダヤ人文化にある母と子の密な関係性、そして"すべては母親に原点がある"というフロイトの

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トラウマを抱きしめ合える町/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME 3』

トラウマを抱きしめ合える町/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME 3』

※ネタバレ感想です

ジェームズ・ガンが監督するマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の一角をなす「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズ。その完結編である「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME.3」は、1つの愛すべきシリーズに決着をつけるという点でこれ以上ない大団円をくれた。

現在MCUはフェイズ5の真っ只中だ。フェイズ4〜6から構成されるマルチバースサーガとなる予

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『ザ・ホエール』/あと数歩だけ光の方に

『ザ・ホエール』/あと数歩だけ光の方に

“ひきこもり”と“過食”の映画COVID-19で自宅療養した昨夏、最初は久々の長期休暇!などと考えていたが隔離期間が1週間を過ぎると無性に寂しさが募った。映画やアニメを楽しんでいたはずが、世界から隔絶された気分に陥った。部屋に閉じこもり、生のコミュニケーションを断つことは相当の忍耐が必要であり、"ひきこもり"は覚悟がなければ成立しないことを実感した経験だった。そして、それほどの苦痛を越えてでもひき

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セラピーとしての「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」/多元宇宙というナラティブ・アプローチ

セラピーとしての「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」/多元宇宙というナラティブ・アプローチ

3/3公開の「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」。大好きな死体泳ぎ映画「スイス・アーミーマン」のダニエルズ監督作で、シャンチーの叔母さんが多元宇宙を行き来してカンフーで闘うという概要からしてワクワクしていたのだが、内容は実写版ボボボーボ・ボーボボと言うべきハジケ勝負のオンパレードだったし、久々に劇場で声を出して笑った映画だった。

数年前までほとんど邦画して観てこなかったので米国

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マウント、思考停止、そして敵意〜『イニシェリン島の精霊』

マウント、思考停止、そして敵意〜『イニシェリン島の精霊』

自分が巻き込まれるのはまっぴらごめんなのだけど、遠くから眺める揉め事というのはどうも見応えがあるものだ。「水曜日のダウンタウン」のおぼんこぼん騒動は正直やっぱり面白かった。人と人とが己の意思でぶつかり合う様は、良くないと分かりつつ見入ってしまうし、そしてどこかで自分の心と重ねて観てしまう。ケンカを覗き込む時、ケンカもまたこちらを覗いているのだ。

不安と退屈マーティン・マクドナー監督の新作映画『イ

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旧作の感想メモ(2022年11,12月)

旧作の感想メモ(2022年11,12月)

11月は間違えて1か月延長したアマプラの作品などを一気に見て、12月に久々にレンタル屋を利用した結果、突如としてシャマランブームが到来。

未来世紀SHIBUYA(2021)

僕らの白石晃士監督がHuluで撮ったドラマ。2036年の渋谷を舞台にWeTuber正義マン(金子大地と醍醐虎太郎)がのし上がっていこうと危険なミッションを動画配信するうちに、いつしかこの世界の陰謀に巻き込まれていく、、とい

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MCUフェイズ4・最後の4作を観た(ブラックパンサー ワカンダフォーエバー/シーハルク/ワーウルフ/アイ・アム・グルート)

MCUフェイズ4・最後の4作を観た(ブラックパンサー ワカンダフォーエバー/シーハルク/ワーウルフ/アイ・アム・グルート)

初めてリアルタイムで追うことができたマーベル・シネマティック・ユニバースのフェイズ4も遂に完結。一貫してアベンジャーズたちのそれぞれの決着と次世代への継承、そして新ヒーローの登場という、2度目のフェイズ1に相応しいスタートダッシュ期間。集結が楽しみでならない!

ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー

主人公ブラックパンサーを演じたチャドウィック・ボーズマンが2020年に急逝。代役を立てず、脚

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ポッドキャスト『海月の人々(((通信)))』#9.SFは一軒の家から〜『四畳半タイムマシンブルース』『アフター・ヤン』

ポッドキャスト『海月の人々(((通信)))』#9.SFは一軒の家から〜『四畳半タイムマシンブルース』『アフター・ヤン』

第9回は映画感想回。原作:森見登美彦、脚本:上田誠、監督:夏目慎吾の「四畳半タイムマシンブルース」と監督:コゴナダ、主演:コリン・ファレルの「アフター・ヤン」について。どちらも1軒の家を中心にしたSF作品。一方はタイムトラベル、一方はAIロボットということでジャンルは違うのだけど、どちらも“今”を描く作品になっているのが最高だった。

トークトピックスは以下。

SFのイメージ
ROTH BART

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最近観た旧作の感想メモ(2022年9、10月)

最近観た旧作の感想メモ(2022年9、10月)

9月はアマプラ月間だったので全てアマプラで配信中の作品でまとめてみた。

THE BOYS season1

大企業ヴォートに所属する腐敗しきったヒーロー集団と、そのヒーローたちに恨みを持つTHE BOYSの戦いを描く作品。まぁ~~面白い!!こんなにスイスイ観れる海外ドラマ、初めてかもしれない。この2年間、マーベル映画に浸ってきたので前フリは充分。なのでアメリカ国旗を背負ってる奴が1番イカれてると

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『LAMB』〜不安なのに笑っちゃう/笑っちゃうのに不安、の心理

『LAMB』〜不安なのに笑っちゃう/笑っちゃうのに不安、の心理

映画『LAMB』を観た。アイスランド・スウェーデン・ポーランドの合作で、"禁断のネイチャースリラー"とコピーが打たれている。第74回カンヌ国際映画祭のある視点部門で《Prize of Originality》を受賞し、アカデミー賞国際長編部門アイスランド代表作品にも選出されるなど高い評価を受けた。

「ミッドサマー」を送り出したA24が配給、という触れ込みが至るところに書いてあるので、とんでもない

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最近観た旧作の感想メモ(2022年8月)

最近観た旧作の感想メモ(2022年8月)

8月はNetlix月間だったで、「悪魔のいけにえ」以外はNetflixで配信中の作品でまとめてみた。

マリグナント 狂暴な悪夢

ジェームズ・ワン監督作品。人を殺す悪夢に悩まされる女性、しかしそれは正夢で、、という触れ込みではあるが、大仕掛けによってあえなくその前提は覆されていく。キャッチーで人に薦めたくなる魅力たっぷりの面白すぎるホラーサスペンスアクション、あと個人的にはダンスバトル映画だとも

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