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書評(小説・映画)・コラム

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バスは○○の○○側に座れ。《事故率、車酔い、観光の観点から》

バスは○○の○○側に座れ。《事故率、車酔い、観光の観点から》

2024年4月30日本日、GWを満喫する予定だったであろう乗客数十人を乗せた高速バス2台が那須塩原の東北自動車道で衝突事故を起こした。

エンジントラブルで路肩に停めていたバスに対し、後ろから来たバスが前方不注意で気付くのが遅れたという。走っていたバスの左前と止まっていたバスの右後ろが衝突し、2台に合わせて80名乗っていた乗客の内、5名が重軽傷を負ったとのこと。

今回怪我を負った5名がどの座席に

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「塔」は男性名詞か?女性名詞か?

「塔」は男性名詞か?女性名詞か?

芥川賞を受賞した『東京都同情塔』という作品を読んだ。
本作において「塔」が作中の世界観を象徴する重要なシンボルとして描かれる。
この塔はある男性によって構想され、ある女性によって形にされるのだが、果たして「塔」は男性か、女性か、ふと気になった。

(作品を読んでいただければ本題の疑問にも納得いただけるはずだ。)

「塔」は男性名詞か?女性名詞か?

フランス語やドイツ語には「男性名詞」「女性名詞」

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「犯罪者が刑務所で幸せに暮らす未来」東京都同情塔 九段理江 | 書評 

「犯罪者が刑務所で幸せに暮らす未来」東京都同情塔 九段理江 | 書評 

2024年4月1日 読了  

個人的評価 ★★★★☆

あらすじ (ネタバレなし)

建築家の牧名沙羅(マキナ・サラ)は東京に建つことを予定されている「シンパシータワートーキョー」のコンペに向けて構想を練っていた。この建築物の用途は「刑務所」であり、ここに”居住”する犯罪者は出自や環境によって犯罪を強いられたケースが多いため同情されて然るべきであって、幸せな刑期を送るべきというコンセプトがある。

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空っぽな奴ほど詩を書きたがる。

空っぽな奴ほど詩を書きたがる。

ほんとそうだよな。ほんとそうだよな。

私の人生を支えてくれたロックバンド、amazarashiの一曲「空洞空洞」の一節。

はじめこの歌詞を聞いた時は私自身に向けて言われているようで目が泳いだ。共感してしまったという事実から目を背けたかったのだ。またそれを事実と思ってしまったことが恥ずかしく、とにかく逃れたかった。
その結果辿り着いたのが小説や詩だった。どうあがいても空っぽの自分からは逃れられな

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『ボーはおそれている』公開日に行ってみた。【映画感想】

『ボーはおそれている』公開日に行ってみた。【映画感想】

個人的評価★★★☆☆

あらすじ

ボー(おじいさん)の住む街は危険であふれており、全身タトゥーの男が走って追いかけてきたり、隣人が斧をもって家に押しかけてきたりするアパートに暮らしながら、常に怯えながら生きている。
ある日セラピストに聞かれる。「ママが死ねばいいと思う?」
まさか。ママに対してそんな感情など持ったことはないし、明日だってわざわざ飛行機で会いに行くんだ。セラピストは「罪(Guilt

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セクシー田中さん 芦原妃名子さん(原作者)に非がないとは言えない。

セクシー田中さん 芦原妃名子さん(原作者)に非がないとは言えない。



コンテンツ自体はドラマ・漫画どちらも良かった。

セクシー田中さん騒動が起きた昨日から、私も物語を書く身として一つの才人が亡くなってしまったことが辛く、浮き足立っていた。作品こそ知らなかったものの、悲しく、虚しくもあった。
ただ、メディアやⅩで様々な論争がされる中、内容を知らずしてこの件を考えるべきではない。まず真実を知るべきという思いで、漫画7巻とドラマ10話をすべて視聴した。

まず単純に

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あまりに怖くて席から立ちあがれなかった。「TALK TO ME(トーク・トゥー・ミー)」【ホラー映画紹介・感想】

あまりに怖くて席から立ちあがれなかった。「TALK TO ME(トーク・トゥー・ミー)」【ホラー映画紹介・感想】

TALK TO ME(トークトゥーミー)視聴。
今この瞬間も思い出すと身震いが止まらない。脚本・演出ともに完成度の高さににやけてしまうくらい、久しぶりに全身でホラーを食らった気がした。

あらすじ

母親を若くして亡くしたミア(主人公)は母親の追悼式へ行った帰りで寂しい思いをしていた。そんな中、仲間内で話題の「降霊術」パーティに参加することに。
方法は簡単。その「手」を握ってこれを唱える。
「Ta

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山羊(ヤギ)=悪魔の象徴?

山羊(ヤギ)=悪魔の象徴?

「羊」と聞いてどう思うだろう?
ベージュの毛がもふもふしていて後ろ向きに巻かれた角がキュート。
なんとなく「可愛らしい」という印象を持つのではないだろうか。

では、「山羊(ヤギ)」は?

・・・手紙をむしゃむしゃ食べてしまうドジなやつ?

正直、筆者はヤギについて特にこれといった印象を持っていなかった…。
だが、どうやらヤギという動物は、歴史的にあまり良いイメージを持たれていないようだ。

こん

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遺族が悲しまなかったら本当に罪は軽くなる?~遺族の被害感情について~

遺族が悲しまなかったら本当に罪は軽くなる?~遺族の被害感情について~

きっかけ(永山事件)

ふと永山事件について調べていた。

犯人の永山則夫の生い立ちから犯行に至るまでの経緯が、思っていたより悲惨で非常に壮絶な事件であったと知った。
この事件の詳細だけでもテーマとして取り上げるに値するに充分なものなのだが、今回は永山事件ではなく、死刑制度に関連するテーマである。

というのも、この永山事件というのはその後の死刑制度について大きな影響を与え、また議論されつづけ、そ

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「風が吹けば桶屋が儲かる」に関するもう一つの考察

「風が吹けば桶屋が儲かる」に関するもう一つの考察



「風が吹けば桶屋が儲かる」 由来

・・・ある事象が一見すると全く関係のないところにまで巡り巡って影響が及ぶということの喩えである。
由来は江戸時代の「世間学者気質(カタギ)」という書物にて書かれた話だという。
要約すると以下のような流れだ。

まったくこじつけにも程があるだろうと感じただろう。
私もその一人である。

現代版一つ作ってみた

という訳で、風が吹いてから桶屋が儲かるまでの流れ

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出ない声を書く選択をした。

出ない声を書く選択をした。

声が出なくなった。
長引く咳がきっかけで、声を出そうとすると咳き込むようになってしまった。
仕事の都合上、人と話さない訳にはいかないのでとても焦っていた。
それにこのご時世でこほこほと咳をされては、取引先も黙ってはいられない。私は黙ってしかいられないのに…。

まだ笑い話に出来るほどの段階ではないのだが、一旦そんな訳で職場での役立たずレベルが1上がった私は只今絶賛休職中である。

家族や友人と居て

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推しを推すということ。【『推し、燃ゆ』宇佐見りん】

推しを推すということ。【『推し、燃ゆ』宇佐見りん】

第164回芥川賞を受賞した『推し、燃ゆ』は宇佐見りん(敬称略)の二本目の作品だった。受賞時、彼女は21歳で、現在大学在学中。なんと歴代3番目という驚異の若さで受賞に至った。

『推し、燃ゆ』あらすじ「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。」

この一言で始まるこの小説は、あるアイドル真幸(マサキ)の熱狂的ファンであるアカリが、推しを推すことに命を懸けながら自らを消耗し、燃え尽きるように推し続ける話。

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Tea Dunkingを見ながら思い出したこと。

Tea Dunkingを見ながら思い出したこと。

映画「アメリ」の主人公アメリが訪問の際に出されたクッキーを紅茶に浸して食べるシーンに衝撃を覚えた。

欧州人が紅茶とクッキーを食べるときは、硬いクッキーを紅茶に浸して食べる習慣がある。Tea Dunking(ティーダンキング)というらしい。

日本人特有の美徳的観点からすると、飲み物の中に食べ物を入れることはいつ何時でも耐えがたい行為である。
隣に座っている外国人が躊躇なくTea Dunkingを

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全身にタックルを受けたような重くて鈍い衝撃と妙な解放感を覚えた【『破局』遠野遥】

全身にタックルを受けたような重くて鈍い衝撃と妙な解放感を覚えた【『破局』遠野遥】

第163回芥川賞を受賞した『破局』は、昨年2019年に文藝賞を受賞してデビューしたばかりの新人小説家、遠野遥(とおの はるか)によって書かれた。

破局は彼の第二作目にあたり、二年目にして芥川賞まで受賞してしまった。注目すべき作家が増えて心底嬉しい。

未読の方へ向けて簡単なあらすじ 主人公の陽介は、ラグビー部のOBとして後輩を指導しながら公務員試験を控える大学4年生。彼は規範を重んじ、自分にも厳

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