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映画評

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映画、ドラマなどについて自論を交えつつレビューします。
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日常の絶え間ない忘却へのささやかな抵抗

日常の絶え間ない忘却へのささやかな抵抗

 普段は開けない戸棚の奥底には、中学生の頃に書いた読書感想文の原稿がしまわれていた。色褪せた応募票の題名の欄には、『記憶には残らないもの』と書かれている。上記の文章はその冒頭の部分である。
 幼い頃、記憶を失うこと、忘れてしまうことへの恐怖心が強かった。幸福な記憶は長くは続かず、つらい記憶は歪められて変質し、生々しい感情は時間というヴェールに包まれて薄く淡くなっていき、やがて消えていく。そのことが

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【映画評】ドライブ・マイ・カーが描くコミュニケーションの断絶

【映画評】ドライブ・マイ・カーが描くコミュニケーションの断絶

 京都の出町座で映画『ドライブ・マイ・カー』を見たのだけれど、余韻からなかなか抜けられないので、記憶が鮮明なうちに感想を記しておきたいと思う。

村上春樹の原作について

 原作の『女のいない男たち』に収録されている『ドライブ・マイ・カー』は1~2年前に読んで、「確か男の人が車を運転できなくなって、不本意ながら女性のドライバーを雇う」みたいな話だったな、というあいまいな記憶のまま足を運んだ。

 

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【映画評】まるで絵画のような映画。「ざくろの色」と「911」の類似とその芸術性

【映画評】まるで絵画のような映画。「ざくろの色」と「911」の類似とその芸術性

 京都みなみ会館で上映されていた「ざくろの色」を、昨年12月に観に行った。この映画を観たきっかけは、Lady Gagaの「911」のMVが、本作品のオマージュであるということを知り、興味を持ったからである。

 このMVは短編映画といえるほど高いクオリティを担保しており、彼女の歴代のMVの中でも最高傑作と言っても過言ではないだろう。ひとまず本記事を読む前に動画をみて欲しい。

まず、参照元である

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【映画評】「13th -憲法修正第13条-」で描かれる構造的な人種差別

【映画評】「13th -憲法修正第13条-」で描かれる構造的な人種差別

 ようやくNetflixのドキュメンタリー「13th -憲法修正第13条-」を見たので、忘れないうちにまとめと感想を記しておきたい。アメリカ建国時から続く黒人差別問題について深く掘り下げたドキュメンタリーである。

13th -憲法修正第13条-のまとめ
 このドキュメンタリーは、以下のような衝撃的な出だしで始まる。

「統計上アメリカの人口は世界の人口の5%だが、受刑者数は世界の25%と化してい

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