河合正澄

日々本と触れ合う中で、想ったこと、感じたことを書いていきます。 https://twi…

河合正澄

日々本と触れ合う中で、想ったこと、感じたことを書いていきます。 https://twitter.com/KawaiMasazumi 何卒よろしくお願い申し上げます。 無断転載は禁じております。

マガジン

  • 図書館司書の短編小説紹介

    図書館司書として多く本を扱って来た中で、一人でも多くの方と楽しみや感動を共有したいと感じた短編小説を紹介しています。

  • 昭和的感覚の随筆・エッセイ

    昭和生まれの氷河期世代が令和の今をなんとなくの感覚でつかみ取った、あるいはつかみ損ねた事柄をつらつらと書き綴ります。

  • 読書感想・随想

    本を読んだ感想、あるいは本を読んで思い出したことなどを書いています。

記事一覧

「マッチ売りの少女」(講談社文芸文庫『性の根源へ』所収)野坂昭如著:図書館司書の短編小説紹介

 ホストに貢ぐために体を売ることを厭わない。  そんな女性たちが新宿の大久保公園に、立ちんぼとして集まっているという。  中には、月に百万円以上稼ぐ人もいるという…

河合正澄
1か月前
1

「鯉」火野葦平著(講談社文芸文庫『自然と人間』所収)火野葦平著:図書館司書の短編小説紹介

 筑後川で鯉を素手で捕まえ、それを見世物にしている名人があった。  土地の大地主である佐々木の旦那が、小さな頃から水練と漁が好きだった彼の技術を職にまで引き上げ…

河合正澄
1か月前
7

スマートフォンのなかった時代を思い出す

このところ、腕を骨折した母の病院通いに付き添って行っている。 朝一番に予約が入っているので、九時前には総合病院の受付を通るようにしている。 診察に呼ばれるまでカ…

河合正澄
2か月前
5

『検閲官』山本武利著(新潮新書):図書館司書の読書随想

検閲は、これをしてはならない 日本国憲法21条2項の条文にそうある。 表現の自由を確保するための、基礎となる条件だ。 けれどそれを隠然と、後には公然と実行していた…

河合正澄
2か月前

「道」(新潮文庫『道・ローマの宿』所収)井上靖著:図書館司書の短編小説紹介

 著者は庭で飼っている二頭の犬が、丈の低い植込みの間を何度も通り、独特な道を作っているのに注目する。  そこには駆け易い場所だけでなく、体がやっと通れるような窮…

河合正澄
3か月前
4

気まずい朝

ここ十年ほど、健康と目覚ましのために早朝の散歩を続けている。 大体朝五時前後に家を出て、十分程度住宅街を回るだけなのだけれど、早朝の空気の中を歩くのは気持ちがい…

河合正澄
3か月前
2

生きづらさ

数少ない大学時代の友人からメールで年始の挨拶があった。 やはり同じ大学の、共通の友人の消息も伝えてくれた。 死んだ、と。 自殺だった。 更に、そのメールをくれた…

河合正澄
3か月前
5

ドストエフスキーの視点からロシアを見て

ロシアとウクライナの戦争が始まってから来月で二年になる。 欧米諸国で支援疲れが起きている中、ロシアはまだまだ意気軒高のよう。 あのアメリカがついているのだから、…

河合正澄
3か月前
3

「当麻」(小林秀雄著)について

美しい「花」がある、「花」の美しさという様なものはない。 小林秀雄の小文「当麻」を読んだ時、この一文が頭から離れなくなった。 文としては簡単なものだ。 けれど、…

河合正澄
3か月前
1

 『ワイルドスワン』ユン・チアン著(講談社文庫):図書館司書の読書随想

 第二次世界大戦前後から一九八〇年台までの、中国における著者の一族の歴史を描いた大作。  祖母は軍閥将軍の妾となり、娘ともろくに会えない不遇の生を送る。  そし…

河合正澄
3か月前
2

【対AGA討伐】リザレック、続けています【うすよう】

十月から始めた対AGA薬のリザレック。 今も続けています。 三十日分のはずなのに、年も改まった一月七日現在も容器に半分ほど残っている。 三か月弱経過しているのだけど。…

河合正澄
4か月前

哀しさのスイッチ

先月の頭に祖母を亡くして、その後お通夜や告別式や何やかやで慌ただしい時が過ぎ、いつの間にか師走の中盤を迎えていた。 目の前にある手続きや仕事を片付けるだけで精一…

河合正澄
4か月前
3

数円の成長

普段使っているものではない銀行口座が一つある。 親が、私の子ども時代に作ったものだ。 そこには私の貰ったお年玉などが入れられてあった。 よく「子供には大きすぎる…

河合正澄
5か月前
1

しか問題

この頃、特にネットの記事やSNSの書き込みで、「~~しかない」という表現をよく見る。 この頃というか、二三年前からか。 ~~しかない、というのは、例えば誰かにとて…

河合正澄
6か月前
3

【対AGA討伐】リザレック、始めました【うすよう】

Andro genetic Alopecia ギリシャ語で「男性」を意味するAndro。 英語で「遺伝的」を意味するgenetic。 同じく英語で「脱毛症」の意であるAlopecia。 通称AGAと呼ばれ…

河合正澄
6か月前
2

黄金の滝

 はじめは子供たちがいたずらで、おもちゃか何かの粉を辺りに振りまいているのかと思った。    公園に沿った道を歩いていた時のこと。突然私の体の横に、金色の粉が雪崩…

河合正澄
6か月前
4
「マッチ売りの少女」(講談社文芸文庫『性の根源へ』所収)野坂昭如著:図書館司書の短編小説紹介

「マッチ売りの少女」(講談社文芸文庫『性の根源へ』所収)野坂昭如著:図書館司書の短編小説紹介

 ホストに貢ぐために体を売ることを厭わない。
 そんな女性たちが新宿の大久保公園に、立ちんぼとして集まっているという。
 中には、月に百万円以上稼ぐ人もいるという。
 日本では、売買春が売春防止法という法律で禁じられているので、捕まれば罰金もあるし懲役もあるし前科も付く。
 でも、そういった方面に疎い自分でさえ知ることになったというのだから、もはや公然と売買春が行われているといっても過言ではないと

もっとみる
「鯉」火野葦平著(講談社文芸文庫『自然と人間』所収)火野葦平著:図書館司書の短編小説紹介

「鯉」火野葦平著(講談社文芸文庫『自然と人間』所収)火野葦平著:図書館司書の短編小説紹介

 筑後川で鯉を素手で捕まえ、それを見世物にしている名人があった。
 土地の大地主である佐々木の旦那が、小さな頃から水練と漁が好きだった彼の技術を職にまで引き上げてくれたのだ。
 そのお蔭で彼は、死んだ父の借金を返し、家族を養うこともできた。
 戦前の観客は、趣味人や数寄者といった裕福な人が多く、彼は誇りを持って漁をしていた。
 けれど、戦時中は威張りかえった軍人や役人の観覧に供せられ、そこに言語を

もっとみる
スマートフォンのなかった時代を思い出す

スマートフォンのなかった時代を思い出す

このところ、腕を骨折した母の病院通いに付き添って行っている。

朝一番に予約が入っているので、九時前には総合病院の受付を通るようにしている。

診察に呼ばれるまでカウンター前の椅子に座ってしばらく待つのだけれど、何となく懐かしく安らいだ気持ちになる。

病院といえば、心身に不調を来した患者が集まる場所で、そこの景色になごむというのもおかしな話だ。

なぜなのか。

それとなく周りを見渡して、すぐに

もっとみる
『検閲官』山本武利著(新潮新書):図書館司書の読書随想

『検閲官』山本武利著(新潮新書):図書館司書の読書随想

検閲は、これをしてはならない

日本国憲法21条2項の条文にそうある。

表現の自由を確保するための、基礎となる条件だ。

けれどそれを隠然と、後には公然と実行していた機関があった。

連合国最高司令官総司令部、通称GHQだ。

戦後、日本において民主主義が行き渡っているかを確かめるために、手紙や電報、雑誌や新聞、脚本や小説などの出版物に至るまでほぼすべてを検閲にかけていたという。
電話も盗聴して

もっとみる
「道」(新潮文庫『道・ローマの宿』所収)井上靖著:図書館司書の短編小説紹介

「道」(新潮文庫『道・ローマの宿』所収)井上靖著:図書館司書の短編小説紹介

 著者は庭で飼っている二頭の犬が、丈の低い植込みの間を何度も通り、独特な道を作っているのに注目する。
 そこには駆け易い場所だけでなく、体がやっと通れるような窮屈なところも何か所かあることを興味深く感じ、獣道ならぬ犬道と呼ぶようになった。
 嫁いだ長女が家に来た時に犬道のことを話すと、彼女の六歳になる娘もやはり幼稚園からの帰り道などで、大人が通らないような道ともいえない道を通るのだと教えられる。

もっとみる
気まずい朝

気まずい朝

ここ十年ほど、健康と目覚ましのために早朝の散歩を続けている。

大体朝五時前後に家を出て、十分程度住宅街を回るだけなのだけれど、早朝の空気の中を歩くのは気持ちがいい。

今日一日の準備運動も兼ねていて、もし寝坊や他の用事で散歩できなかった時は、その日ずっと調子が狂ったような感じになってしまう。

気温が氷点下だったり、雨が降っている時は出掛けるのを多少億劫に感じることはあるけれど、思い切って歩き始

もっとみる
生きづらさ

生きづらさ

数少ない大学時代の友人からメールで年始の挨拶があった。

やはり同じ大学の、共通の友人の消息も伝えてくれた。

死んだ、と。

自殺だった。

更に、そのメールをくれた友人も脳出血によって体に障害が残る状態になっているという。

氷河期世代が生きるにはあまりに厳しい時代なのではないか。

そんなことをふと思った。

全世代が厳しいのかもしれないけれど。

どうしてこんな風になってしまったんだろう。

もっとみる
ドストエフスキーの視点からロシアを見て

ドストエフスキーの視点からロシアを見て

ロシアとウクライナの戦争が始まってから来月で二年になる。

欧米諸国で支援疲れが起きている中、ロシアはまだまだ意気軒高のよう。

あのアメリカがついているのだから、ウクライナの勝利は揺らがない、最初は多くの人がそう思っていたのではないだろうか。

けれど、あのアメリカ、というものが揺らいできているようにも思える。

一方で、ロシアは最初から譲らないことについては一貫している。

国内事情を見るに、

もっとみる
「当麻」(小林秀雄著)について

「当麻」(小林秀雄著)について

美しい「花」がある、「花」の美しさという様なものはない。

小林秀雄の小文「当麻」を読んだ時、この一文が頭から離れなくなった。

文としては簡単なものだ。
けれど、考えれば考えるほどに余計わからなくなってくる文でもある。

主に能について書かれた一文なので、「秘すれば花なり。秘せずば花なるべからず」といった世阿弥の花伝書の言葉を下敷きにしているのはわかる。

けれど、それが理解の助けになるかという

もっとみる
 『ワイルドスワン』ユン・チアン著(講談社文庫):図書館司書の読書随想

 『ワイルドスワン』ユン・チアン著(講談社文庫):図書館司書の読書随想

 第二次世界大戦前後から一九八〇年台までの、中国における著者の一族の歴史を描いた大作。

 祖母は軍閥将軍の妾となり、娘ともろくに会えない不遇の生を送る。
 そして、将軍が病死すると地方医師の妻となり、日本の満州統治時代、国民党支配時代を貧しいながらも、妾時代よりはささやかながら自由で幸福の時を過ごすようになる。
 
 やがて娘、著者にとっての母が成長し、国民党と対立する共産党の活動に邁進するよう

もっとみる
【対AGA討伐】リザレック、続けています【うすよう】

【対AGA討伐】リザレック、続けています【うすよう】

十月から始めた対AGA薬のリザレック。
今も続けています。
三十日分のはずなのに、年も改まった一月七日現在も容器に半分ほど残っている。
三か月弱経過しているのだけど。
使い方を間違っているのだろうか。

それで効いていなければ問題だけれど、多分効果は出ている。
最初の三週間ほどは、ちょっと脱毛が多かった気がする。
ミノキシジル含有薬品に多いという初期脱毛があったのだと思う。
けれど、四週間目から髪

もっとみる
哀しさのスイッチ

哀しさのスイッチ

先月の頭に祖母を亡くして、その後お通夜や告別式や何やかやで慌ただしい時が過ぎ、いつの間にか師走の中盤を迎えていた。

目の前にある手続きや仕事を片付けるだけで精一杯になり、ゆっくりとできる時がなかった。

今もそうなのだけれど、それでも忙しさの峠は越えたように思う。

そんな時、シャワーを浴びている時に東京の町の道路が頭をよぎった。

大きな通りから細い通りへ、急な坂道を下り終えると和菓子屋があり

もっとみる
数円の成長

数円の成長

普段使っているものではない銀行口座が一つある。

親が、私の子ども時代に作ったものだ。

そこには私の貰ったお年玉などが入れられてあった。

よく「子供には大きすぎる金額だから、私が管理しといてあげる」と言って、親がそのまま失敬してしまうというネタがある。

うちはそのパターンには当てはまらず、きちんと管理しておいてくれたわけだ。

大きい金額とは言っても、所詮は子供が貰うものだから何百万といった

もっとみる
しか問題

しか問題

この頃、特にネットの記事やSNSの書き込みで、「~~しかない」という表現をよく見る。

この頃というか、二三年前からか。

~~しかない、というのは、例えば誰かにとてもよくしてもらって、「感謝しかない」という風に使う。

心からの感謝、混じりけのない感謝だから、「~~しかない」というのもわかる。

「ただただ感謝するばかりです」という表現もあるし。

でも、昨今の「~~しかない」の使い方は、例えば

もっとみる
【対AGA討伐】リザレック、始めました【うすよう】

【対AGA討伐】リザレック、始めました【うすよう】

Andro genetic Alopecia

ギリシャ語で「男性」を意味するAndro。

英語で「遺伝的」を意味するgenetic。

同じく英語で「脱毛症」の意であるAlopecia。

通称AGAと呼ばれるこの語の意味は、男性型脱毛症。

二十歳前からずっと戦ってきた。

そして敗北を喫し続けてきた。

出来得る限りの抵抗はしたけれど、通用しないままに枯れ地が広がるばかり。

そんな中、広

もっとみる
黄金の滝

黄金の滝

 はじめは子供たちがいたずらで、おもちゃか何かの粉を辺りに振りまいているのかと思った。
 
 公園に沿った道を歩いていた時のこと。突然私の体の横に、金色の粉が雪崩れるように降って来た。
 
 けれど、公園と歩道との間に生け垣のように並ぶ木立の向こうに、子供の姿どころか人の気配もなかった。
 
 足元に顔を向け、落ちて来た黄色のものをよく見てみると、それが米粒よりひと回りほど大きい金木犀の花弁だと気

もっとみる