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過去、現在、未来の音楽。どこを見るか。

「昔は良かった。それに比べて、現代は……」

手垢にまみれ、目に焼き付き、耳にタコができるほど、よく使われてきた表現です。こういった表現はいつの時代でもあり、どの世代の人も、もう一つ上の世代から言われる言葉だと思いますが、もしこの言葉が本当にそうだとしたら、人類の文化はただただ劣化の一途を辿ってることになります(笑)。そんなはずはありませんので、このような言い回しに根拠は一切無く、ただの老人のノスタルジーでしかないということは明らかでしょう。

ちなみに、紀元前ギリシャの哲学者プラトンでさえ、「近頃の若者はなってない」というようなことを言ったらしいですし、真偽不明ですが、古代エジプトの壁画にもそのような意味の文が書いてある、という都市伝説すらあります。いつの時代も、上の世代が下の世代を蔑み、昔を美化して懐かしんでいるのです。

しかし、そのような言説が、さも科学的根拠をもって正当化されてしまっているように感じるのが、音楽の分野だと思います。

20世紀初頭のアメリカに大衆文化が登場し、消費社会の商品として音楽が流通するようになったことを、それまでのクラシック音楽の主な消費者であったブルジョアジー達は憂い、蔑みました。19世紀に"美学"を武器にして「クラシック文化の正当性」を仕立て上げた"音楽の本場"ドイツにはフランクフルト学派という社会学の一派が登場し、アドルノを筆頭とした「音楽社会学」において、誹謗中傷に近いポピュラー音楽批判が繰り広げられ、現代まで批評に引用され続けています。

また、20世紀半ばに登場したロックンロールも、若者の音楽として人気となり、その上の世代から蔑まれたことはよく知られていますが、当時の若者はそのような旧来の音楽の権威に反抗してきたはずです。しかし、ロックの商業主義批判もいつしか、ロックより新しい音楽やポップスに対して向けられるようになり、「あの頃は良かった、近頃の音楽は面白くない」というふうなノスタルジーの言い訳にすり替わってきていないでしょうか。

ビートルズの登場に始まり、20世紀後半は楽器やサウンドの革命的な変化が目覚ましかった。それに比べ、21世紀に入ってからは同じような音楽ばかりで、停滞している…。

というような意見は、非常によく見る言説だと感じます。しかし、僕からすれば、21世紀に入ってからのほうが、リズムマシンやシンセサイザーの発達からパソコンのDTMによる音楽制作の普及、ソフトシンセやエフェクトのプラグインの爆発的な発展など、加速度的に音楽の変化が進んでいるように感じますし、フォーマットの多彩さや自由度が増していると思います。それに比べて20世紀後半の音楽は、大半が同じようなバンド編成であるのに、数年単位の微細な変化にいちいちイデオロギーを重ね合わせて○○ロック、△△メタル、というふうにサブジャンルをカテゴライズして権威化されているようにさえ感じてしまいます。

オペレッタからミュージカル、ジャズ、ジャンプブルース、ロックンロール、ブリルビルサウンドやモータウンの登場からソウル、ファンク、R&B、ヒップホップ、ハウスやテクノ、EDM、そしてポストEDM、と、俯瞰で見れば19世紀から21世紀まで常に止まらずに一定の速度で音楽の発展は進んできているとも十分言えるでしょう。

1つ前の記事では、20世紀の価値観を相対化し、俯瞰で見ようとしたばかりに、少し大きく捉えすぎたかもしれません。古代を始点に据え、22世紀や23世紀のことまで考えても仕方ありません。

僕らが生きていくのは21世紀です。

2000年代の音楽、2010年代の音楽、色とりどりの選択肢が広がり、どれも素晴らしいと思います。2020年代、2030年代……と、どんどんテクノロジーも進化し、新しいものが生まれてくる期待にワクワクします。

そしてストリーミング時代に入り、歴史の文脈云々関係なく過去の音楽も横並びになったのです。

僕が音楽史を調べるきっかけとなったのは、歴史を知りたいからではなく、ジャンルを知りたいからだったはず。

音楽史をまとめた図表は、歴史の資料である以上に、21世紀の今現在における音楽ジャンルの一覧、という意味合いが大きくありたい。

少なくとも音楽史を調べる前に漠然と感じていた感覚はそういうことだったことを、思い出しました。

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