ほりごん

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記事一覧

【現代文】オレ呼んで 心を読んで 本読んで

 「なあ、最近はどんな本、読んだん?」「えっ?本?読んでないよ。」「サラリーマンって、本、読まへんの?ビジネス書とかも?」「いや~、本を読む人は多いんだろうけど…

ほりごん
2日前
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【現代文】宇田川に 不思議な春を 見つけたり

 二日酔いの理由は、飲み過ぎた事である。飲み過ぎた理由は、ずっと昔に痛も焦がれていた春子さんに再会した事である。馬券も車券も恋愛も、何だかんだ言って愉しめるのは…

ほりごん
9日前
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【化学】独り酒 人に混じりて 別の味

 男三人が居酒屋に集合すると、それだけで諸々の化学反応を生じせしめる。  この日、私は一人で飲んでいた。得意先の接待の席でもなく、上司や同僚との慰労の場でもなく…

ほりごん
2週間前
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【現代文】咲いたまま 千代に散らずに 続く春

 真夜中に小便で目を覚まし、再び床に入って眠りにつきかけたその時、玄関から鍵の回る金属音が響き、勢いよく母が帰ってきた。どうやらご近所さんと飲んでいたらしい。―…

ほりごん
3週間前
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【地学】酒・女・ 電車・会社に 揺さぶられ

 縄暖簾を潜る折には“軽く一杯”のつもりでも、大ジョッキでウーロンハイを二杯空にした頃には、すでにカネも終電も気にせずに注文し始めている。漸く網の端っこに焦げた…

ほりごん
1か月前
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【放課後】三年(みとせ)だけ 見惚れし姫は 箱の中

 「でも、ちょっと不思議じゃないですか?ああ、これ、一昨日の授業の続きです。大丈夫。土曜日の4時限目ですから、集中力が途切れても分かる話をします。」――業平先生…

ほりごん
1か月前
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【古文】違うのよ あなたと私の 脚本は

 『伊豆の踊子』の無味乾燥な読書感想文に“再会”した折、私は高校生当時から変わらず、恋愛を題材にした物語に感情移入できない人間だったことを思い知ったが、全部が全…

ほりごん
1か月前
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【英語】遠き夏 我が櫻花 咲きにけり

 「英語に比べたら楽勝だと思いますけどねえ、僕の古文の授業なんて。Now that you are 17 years old, you can study it by yourself.(君達はもう17歳なんだから、一人で…

ほりごん
2か月前
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【物理】味の無い 授業を変える? 調味料

 「いいか、爆発させるんだよ。俺達はこの会社の“核”になるんだ。既成概念を全て焼き尽くし、新しいビジネスの創始者になろうじゃないか。」――4月1日の本部長の訓示は…

ほりごん
2か月前
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【現代文】我ひとり 昔の人は いま伊豆こ

 「大丈夫。実りそうもない恋に貴様が四六時中胸を痛め続けるのは、今からせいぜい数週間、長くても数ヶ月程度のこと。安心したまえ。せいぜい数年、長くても十年経てば、…

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2か月前
4

【日本史】いまは京 むかし鎌倉 しのぶ春

 「あなたはどんな場面でストレスを感じますか?さっ、あまり深く考えずに、思い付いた場面をお手元の用紙にお書きください。」と促されるまま、私は「ワガママを言われる…

ほりごん
2か月前
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【美術】ローカルが あってナンボの グローバル

 高校時代の現代文の鬼教師による読書感想文の宿題。時系列は前後するが、その12作目の粗筋は、私の記述によると次のようなものだった。  「一六〇〇年代初期、鎖国中の…

ほりごん
3か月前
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【生物】至難なり 文句も言わず 生きるのは

 「いいか、世の中にはオマエたち以外にも色んな生き物がいることを頭に叩き込んどけよ!オマエたち、10代の今だって『あの授業が退屈だ』とか『この先生がイヤだ』とか不…

ほりごん
4か月前
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【漢文】高校や 予言は的中 好々爺

 これが春の匂いというものか。その匂いを全身で確かめる。まだまだ市街地の目抜き通りにまで雪の残る信州の如月に、いきなり汗ばむ日が襲来した。これでもう4年も奴隷の…

ほりごん
5か月前
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【現代文】青春を 信濃に偲ぶ 独り酒

 高校時代の鬼教師による読書感想文の宿題。その10作目の粗筋は、私の記述によると次のようなものだった。  「八才の良平は、毎日村外れへ軽便鉄道の敷設工事を見に行っ…

ほりごん
5か月前
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【地学】男でも 海の底では 役に立つ

 二日酔いで仕事をするのが、この歳になると徐々にしんどくなり、アルコール依存症気味の私でも平日はそれなりに節制するようになった。だが、その反動とやらなのか、とり…

ほりごん
5か月前
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【現代文】オレ呼んで 心を読んで 本読んで

【現代文】オレ呼んで 心を読んで 本読んで

 「なあ、最近はどんな本、読んだん?」「えっ?本?読んでないよ。」「サラリーマンって、本、読まへんの?ビジネス書とかも?」「いや~、本を読む人は多いんだろうけど、オレはビジネス書、苦手だなあ。」――むろん日頃の業務で活字に全く触れていないわけではないが、殊会話がここに辿り着くと、つくづく私は“文章なるもの”を読む習慣が皆無に等しい事に気付かされた。ビジネス書どころか、小説すら。雑誌どころか、新聞す

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【現代文】宇田川に 不思議な春を 見つけたり

【現代文】宇田川に 不思議な春を 見つけたり

 二日酔いの理由は、飲み過ぎた事である。飲み過ぎた理由は、ずっと昔に痛も焦がれていた春子さんに再会した事である。馬券も車券も恋愛も、何だかんだ言って愉しめるのは結果が判明するまで。若い時分には「当てよう」としていたけれど、亀の甲より年の功なるものを稀に実感するもので、今は精神の余裕というか、「当たらない可能性のほうが高いと知っているけれど、当たったらいいな」くらいの情調だ。結ばれそうで結ばれぬうち

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【化学】独り酒 人に混じりて 別の味

【化学】独り酒 人に混じりて 別の味

 男三人が居酒屋に集合すると、それだけで諸々の化学反応を生じせしめる。
 この日、私は一人で飲んでいた。得意先の接待の席でもなく、上司や同僚との慰労の場でもなく、仕事とは無関係にただゆっくりと引っ掛けたかったのだ。若い頃は一人で酒を飲みたいと思っても、あまり外へ出ることは無かった。料飲店で一人客を“演じる”というのは、年齢と共に人間それ自体が成熟していかないと、意外と居心地がよろしくないのである。

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【現代文】咲いたまま 千代に散らずに 続く春

【現代文】咲いたまま 千代に散らずに 続く春

 真夜中に小便で目を覚まし、再び床に入って眠りにつきかけたその時、玄関から鍵の回る金属音が響き、勢いよく母が帰ってきた。どうやらご近所さんと飲んでいたらしい。――是、親子であるが故、互いに赦し合えるのだろう。同じ同居人でも、夫婦となれば、何ら連絡も寄越さず“午前様”など、互いに不快の火種としかならないであろう。我が独身の自由な生活環境に妙な感謝をする。――それにしても随分と長い間、家を留守にしてい

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【地学】酒・女・ 電車・会社に 揺さぶられ

【地学】酒・女・ 電車・会社に 揺さぶられ

 縄暖簾を潜る折には“軽く一杯”のつもりでも、大ジョッキでウーロンハイを二杯空にした頃には、すでにカネも終電も気にせずに注文し始めている。漸く網の端っこに焦げたハラミが残り始めたのは、カルビとシマチョウを二人前ずつ平らげた後のこと。それまでは、焼けたら即座に胃袋へと放り込む前振りが暫し続いた。他にも、ハチノス刺、センマイ刺、厚揚げに煮込みまで頬張っている。喉も乾いていたが、腹も減っていたのだ。
 

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【放課後】三年(みとせ)だけ 見惚れし姫は 箱の中

【放課後】三年(みとせ)だけ 見惚れし姫は 箱の中

 「でも、ちょっと不思議じゃないですか?ああ、これ、一昨日の授業の続きです。大丈夫。土曜日の4時限目ですから、集中力が途切れても分かる話をします。」――業平先生はそう仰せであるが、土曜4限だからというよりも、物理→美術→英語と続いてからの古文という流れで、なかなか頭の切り替えが上手くいかない。否、私の頭など、所詮どんなコマの組み方だろうと切り替わらないではないか。無理にでも切り替えて乗り切る。それ

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【古文】違うのよ あなたと私の 脚本は

【古文】違うのよ あなたと私の 脚本は

 『伊豆の踊子』の無味乾燥な読書感想文に“再会”した折、私は高校生当時から変わらず、恋愛を題材にした物語に感情移入できない人間だったことを思い知ったが、全部が全部というわけでは無い。不幸で儚い恋愛に触れると、それが自らの境遇と重なり、逆に感情移入し過ぎて、滂沱たる泪と洟の後に暫し茫然とした時が流れる程に至る。
 例えば、映画だと『男はつらいよ』には全作没入した。あれだけのヒロインとあれだけの関係に

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【英語】遠き夏 我が櫻花 咲きにけり

【英語】遠き夏 我が櫻花 咲きにけり

 「英語に比べたら楽勝だと思いますけどねえ、僕の古文の授業なんて。Now that you are 17 years old, you can study it by yourself.(君達はもう17歳なんだから、一人で勉強できますよ。)However, I will help you study it.(けれど、先生がその勉強の手助けをしましょう。)そうですねえ、英語よりも難しいところかもしれ

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【物理】味の無い 授業を変える? 調味料

【物理】味の無い 授業を変える? 調味料

 「いいか、爆発させるんだよ。俺達はこの会社の“核”になるんだ。既成概念を全て焼き尽くし、新しいビジネスの創始者になろうじゃないか。」――4月1日の本部長の訓示は原子力の如きエネルギーに満ち溢れたものだった。
 「来年の3月31日には絶対に100億を達成する!中途半端な売上はこの事業本部には求められていない!繰り返す!我が部の存在意義は100億!無駄を省きながら、石に齧り付いてでも達成するんだ。過

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【現代文】我ひとり 昔の人は いま伊豆こ

【現代文】我ひとり 昔の人は いま伊豆こ

 「大丈夫。実りそうもない恋に貴様が四六時中胸を痛め続けるのは、今からせいぜい数週間、長くても数ヶ月程度のこと。安心したまえ。せいぜい数年、長くても十年経てば、いま貴様が好きで好きでたまらないその人に対しても『私って、どうしてこんな人を愛していたのだろうか』と感じざるを得ない日が必ずやってくる。だから、いつも通り独り酒を呑んだならば、ひと晩、ふた晩だけ、誰も居ない部屋の中で気持ちを吐き出して、思い

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【日本史】いまは京 むかし鎌倉 しのぶ春

【日本史】いまは京 むかし鎌倉 しのぶ春

 「あなたはどんな場面でストレスを感じますか?さっ、あまり深く考えずに、思い付いた場面をお手元の用紙にお書きください。」と促されるまま、私は「ワガママを言われる場面」と書く。引き続き「それは、例えばどんな場面ですか?」との問いに対し、「私にとってどうでもいい無関係な話を長々と聞かされる場面」と書き、「もう少し具体的に書くと?」と言われ、「気付くや否や自分で解決したほうが早く済むくらいの瑣事にも拘ら

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【美術】ローカルが あってナンボの グローバル

【美術】ローカルが あってナンボの グローバル

 高校時代の現代文の鬼教師による読書感想文の宿題。時系列は前後するが、その12作目の粗筋は、私の記述によると次のようなものだった。
 「一六〇〇年代初期、鎖国中の日本で、キリスト教は大きな迫害を受けていた。そこで、日本の信徒を救い、ポルトガルのイエズス会が派遣したフェレイラ教父の消息を探るため、三人の若い司祭は立ち上がった。しかし、一人は病に伏せ、澳門で日本人・キチジローを見つけ、日本の漁村・トモ

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【生物】至難なり 文句も言わず 生きるのは

【生物】至難なり 文句も言わず 生きるのは

 「いいか、世の中にはオマエたち以外にも色んな生き物がいることを頭に叩き込んどけよ!オマエたち、10代の今だって『あの授業が退屈だ』とか『この先生がイヤだ』とか不平不満ばっかり垂れ流してるだろ。それな、20代・30代になっても変わらないぜ。人と場合によっては悪化するかもしれない。『あの仕事が退屈だ』とか『この上司がイヤだ』とか、そんな感じで死ぬまで文句言ってる。動物は文句を言わず、ただ生きている。

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【漢文】高校や 予言は的中 好々爺

【漢文】高校や 予言は的中 好々爺

 これが春の匂いというものか。その匂いを全身で確かめる。まだまだ市街地の目抜き通りにまで雪の残る信州の如月に、いきなり汗ばむ日が襲来した。これでもう4年も奴隷の如き――まあ元来サラリーマンとは賃金奴隷であるからして当然なのだけど、奴隷の如き――営業をさせられて、4月になれば5年目に突入か。それを想像するだけで憂鬱だった。正確に言えば、営業が嫌なのではない。時折、顔や手足が痙攣する程の長時間労働が嫌

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【現代文】青春を 信濃に偲ぶ 独り酒

【現代文】青春を 信濃に偲ぶ 独り酒

 高校時代の鬼教師による読書感想文の宿題。その10作目の粗筋は、私の記述によると次のようなものだった。
 「八才の良平は、毎日村外れへ軽便鉄道の敷設工事を見に行った。トロッコを用いた土の運搬作業を見ているうちに、彼は自分も土工になりたい、そして一緒にトロッコに乗りたいと思うようになる。ある日、願いがかなって、良平は若い二人の土工と一緒に、本線を行くトロッコに思う存分触れることができた。しかし、押し

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【地学】男でも 海の底では 役に立つ

【地学】男でも 海の底では 役に立つ

 二日酔いで仕事をするのが、この歳になると徐々にしんどくなり、アルコール依存症気味の私でも平日はそれなりに節制するようになった。だが、その反動とやらなのか、とりわけ土日と祝日を含む三連休前の金曜あたり、箍の外れ方が寧ろ以前より荒くなっている気もする。酔い潰れて何処ぞの誰かに迷惑の及ぶような失態は演じないまでも、適量というか、限界というか、「今日の楽しさ」という売上が「明日の苦しさ」という費用を下回

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