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【現代文】オレ呼んで 心を読んで 本読んで
「なあ、最近はどんな本、読んだん?」「えっ?本?読んでないよ。」「サラリーマンって、本、読まへんの?ビジネス書とかも?」「いや~、本を読む人は多いんだろうけど、オレはビジネス書、苦手だなあ。」――むろん日頃の業務で活字に全く触れていないわけではないが、殊会話がここに辿り着くと、つくづく私は“文章なるもの”を読む習慣が皆無に等しい事に気付かされた。ビジネス書どころか、小説すら。雑誌どころか、新聞す
もっとみる【現代文】宇田川に 不思議な春を 見つけたり
二日酔いの理由は、飲み過ぎた事である。飲み過ぎた理由は、ずっと昔に痛も焦がれていた春子さんに再会した事である。馬券も車券も恋愛も、何だかんだ言って愉しめるのは結果が判明するまで。若い時分には「当てよう」としていたけれど、亀の甲より年の功なるものを稀に実感するもので、今は精神の余裕というか、「当たらない可能性のほうが高いと知っているけれど、当たったらいいな」くらいの情調だ。結ばれそうで結ばれぬうち
もっとみる【現代文】咲いたまま 千代に散らずに 続く春
真夜中に小便で目を覚まし、再び床に入って眠りにつきかけたその時、玄関から鍵の回る金属音が響き、勢いよく母が帰ってきた。どうやらご近所さんと飲んでいたらしい。――是、親子であるが故、互いに赦し合えるのだろう。同じ同居人でも、夫婦となれば、何ら連絡も寄越さず“午前様”など、互いに不快の火種としかならないであろう。我が独身の自由な生活環境に妙な感謝をする。――それにしても随分と長い間、家を留守にしてい
もっとみる【地学】酒・女・ 電車・会社に 揺さぶられ
縄暖簾を潜る折には“軽く一杯”のつもりでも、大ジョッキでウーロンハイを二杯空にした頃には、すでにカネも終電も気にせずに注文し始めている。漸く網の端っこに焦げたハラミが残り始めたのは、カルビとシマチョウを二人前ずつ平らげた後のこと。それまでは、焼けたら即座に胃袋へと放り込む前振りが暫し続いた。他にも、ハチノス刺、センマイ刺、厚揚げに煮込みまで頬張っている。喉も乾いていたが、腹も減っていたのだ。
【美術】ローカルが あってナンボの グローバル
高校時代の現代文の鬼教師による読書感想文の宿題。時系列は前後するが、その12作目の粗筋は、私の記述によると次のようなものだった。
「一六〇〇年代初期、鎖国中の日本で、キリスト教は大きな迫害を受けていた。そこで、日本の信徒を救い、ポルトガルのイエズス会が派遣したフェレイラ教父の消息を探るため、三人の若い司祭は立ち上がった。しかし、一人は病に伏せ、澳門で日本人・キチジローを見つけ、日本の漁村・トモ