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金扇

1-5

 北鎌倉駅についた頃にはもう八時を回っていて、夏の夜が訪れていた。暑さは退いて、涼しい風だった。雲間から月が出ていて、月光に道が青かった。
 家に帰る道中、何匹か白い犬にすれ違った。月の色に染まって、犬の毛は青い火の指先だった。夜になると、緑の色が濃くなって、山や森が大きくなったように思える。木菟の鳴き声が聞こえて、秋の夜のようだった。
 潺の音が聞こえて、渠を超えると、家の灯りが見える

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金扇

1-4

 練習が終わり、事務所に向かうと、佐山のデスクの後ろには、大きな絵が飾られていた。小磯良平の『踊子』だった。その絵を観ているうちに、また公武の胸に、幼い頃の弓子が迫るようだった。西洋画の『踊子』は生々しい肉体で、触れれば、肉体の感触がありそうだった。
 佐山が事務所に戻ってきて、公武を認めると、ソファに座るように促した。公武は頷いてソファに腰掛けると、佐山と向かい合って、
「小磯良平がお

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金扇

1-3

 公武と弓子の住む屋敷は、北鎌倉にあって、山を背にして、前を水路ほどにも広い渠が流れている。こうして縁側に出てみると、その渠を流れる清らかな水音が聞こえるのだけれども、さっきは海鳴りに紛れて、この渠のことを忘れていた。
 別荘を持つ人間が多いからか、辺りには古びた西洋の洋館じみた屋敷が軒をつらねている。公武の家も古い普請で、まだ三十そこそこの男には、高い買い物であったけれども、住み慣れた

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金扇

1-2

 田中一村は、五十を超えてから、奄美に移住して、そこで南画に極彩色の花鳥風月を取り入れて、新しい日本画を産み出した画家である。しかし、無名で、染色工として働いて、六十九歳で果てた。
 館内は人も疎らで、公武も、弓子も、それぞれ好きな絵の前に立って、眺めていた。公武は、静かに絵を見つめながら、その絵の色のあざやかさが心に迫って、震えるほどだった。このような、美しい不世出の絵を描いても、認め

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金扇

1-1

 波音に目を覚ましたが、ここは渚ではない。白い巻き貝の殻の海の声だった。
 毎朝の弓子の悪戯である。公武は目を覚まして、弓子の方を振り返りもせずに、手を伸ばして襖を開けた。かすかに開いた襖から、朝露で湿った草花が見えた。
「起きましたか?」
弓子の息が、公武の耳たぶにかかって、それも海の声だった。
「まだ少し寝たりないね。」
弓子は天井を向いた公武の肩に頤を乗せると、公武と共に、庭を見つ

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和風ウインナー卵とじ丼

こんちは!最近涼しいですね。サウナのような暑さだった夏がなんだか懐かしいです。

僕の大好きなウインナー 料理。
一番白飯いけるやつ。

ウインナー 好きな本数
卵 1個
めんつゆ 大さじ2
かつお節 お好みで
胡椒 お好みで

ウインナーと卵焼きながら調味料入れて最後にかつお節振っておわり。
簡単かつ美味い。

子供も大人も大喜び料理。
ウインナー=ケチャップ
確かにこれも美味いが、和風にするの

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心まで整いました(ありがとうございます)
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片しぐれ

1-7

 人形が仕上がるにつれて、計の仕事の量は増えていって、日々に忙殺されるばかりだった。
 計は、下鴨の寺に何度か訪れて、打合せを重ねながら、その会場に置く人形を併せて持ち込んでは、レイアウト作りに余念がなかった。
 屋敷には、計の選んだ人形のいくつか、美登利、薫、春琴に加えて、細雪の雪子や、雪国の葉子も加えられて、日本文学の部屋になっていった。それらは全て、公武と、景の愛する物語の女性たち

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片しぐれ

1-6

 計が離れの景の部屋に入り浸るようになってからしばらくすると、計に人形を発注している、東京のメーカーの営業である服部が屋敷を訪れた。服部は幸子に離れに通されて、意外な顔をした。
「お父様の仕事場ではないんですね。」
「はぁ。坊ちゃんも、お嬢さまも、今は離れでほとんど寝食を共にしておられます。」
「お嬢さんと?」
「なんでも、お嬢さまのお人形を拵えるそうで……。」
「妹さんの人形ですか。倒

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