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東原そら
2021年11月14日 19:45
私は薬指に殺虫剤をはめている。 効果絶大だ。 戸籍にバツがつく書類を提出した途端、虫がぶんぶん寄ってきた。 新しいパートナーも考えたが、暫く一人を満喫したい。 友人に相談すると殺虫剤を提案された。 おかげで毎日穏やかだ。 いつか殺虫剤の役目が変わればなと、今は少し思っている。
2021年11月13日 13:32
父はよく本を読んでくれた。 外で遊んでもらったことはない。 思い出深いのは白雪姫だ。「私が眠ったら、パパが起こしに来てね」 その時の父の顔は複雑だった。 行きたいけど、行けない。 そう思っていたのだろう。 今日は父の十三回忌。 パパ。今年から白血病の研究のため医学部にいくよ。
2021年11月12日 18:09
ポタリ、ぽたりと滴が落ちる。 落ちるたび滴が跳ねる。 それはまるで、子供がはしゃいでいるようだ。 くすっ、はしゃいでいるのは私か。 ドリップされる珈琲を眺めて、私はうきうきしている。 珈琲の雨にうたれたいと、一度彼に話した。 火傷しそうだなと笑った彼と、私は今日、式を挙げる。
2021年11月11日 11:13
私、訴えます。 先生、聞いてくださいまし。 お恥ずかしいけれど申し上げます。 私、おかされたのです。 ええ、相手は同僚の男性ですわ。 いつ? おとといのことらしいですわ。 どういうこと? 夢で、私が同僚に迫ったらしいのです。 肖像権の侵害ですわ。 私、憤慨してますの。 え?帰れ?
2021年11月10日 17:22
油がごきげんに跳ねている。 思わず、耳たぶに指を添える。 あつあつのフライパンの上で、少しずつからだが固まる。 黄身は半熟が、彼女のリクエストだ。 明るく丸いそれは、まるで太陽だ。「やったぁ~!今朝も目玉焼き~!」 鼻をくんくんさせて、布団から出たかな。 いつも明るい"きみ"が好きだ。
2021年11月10日 16:58
世は第三次魔法少女ブームが来た。 学生の希望職業ランキングでも堂々の二位だ。 養成所は数を増やし、卒業生達は街で悪を成敗している。 彼女達の収入源はもっぱら握手会だ。 イベントには多くの人が列を作る。「皆さん。今日も魔法でたっぷりとお布施もらってください」「はい!所長!」
2021年11月10日 17:08
人はついに死を克服した。 如何なる病も、たとえ心臓が停止しても、新たな身体を作り、心を移植する技術を確立した。 殺しても死なない。 それは人の倫理観を壊した。 犯罪は急増し、経済は崩壊した。 死の存在が、人の愛を育む。 狂った世界は滅びねば。 核使用の大統領令に私は調印した。
2021年11月10日 17:13
結婚後、初の失態を犯した。 威厳ある夫であるための奮闘が、全て水泡に帰した。 処分したはずの、昔の恋人との写真が発見された。 とても、その構図は人様には言えないものだ。 妻がわなわなと震えている。「あははははは!」 怪我とはいえ、女性にお姫様抱っこされた一枚。 男の威厳が…
2021年9月29日 20:51
我思うゆえに我あり。 有名なデカルトの言葉だ。 懐疑的なものばかりでも、それを疑う自分は紛れもなく存在している。 そう、僕はいる。 僕はここにいるんだ! でも誰も僕を認知していない。 だから僕は訴える。 身体を使って渾身の力で。 そして、僕は飛び込む! バチン!「また蚊か…」
2021年9月29日 20:42
海は広いな、大きいな。 子供の頃、よく口ずさんだ。 月が昇り、日が沈む。 いつからだろう。 一日中、海を眺めるようになったのは。 海は大波、青い波。 揺れてどこまで続くの? 海にお舟を浮かばして、行ってみたかった他所の国。 着いたのは無人の島。 嗚呼、発見されるのいつなのか~。
2021年9月26日 19:49
好きな人ができた。 来年は五十だ。 年甲斐もないと自覚している。 女房とは若い頃に別れ、娘とも長いこと会えていない。 このまま、ゆっくり歳を重ねると思っていた。 待ち合わせの場所に彼女は急ぎ足で現れた。「じいじ~」 パタパタと駆けてくる姿は娘にそっくりだ。 年甲斐もない男だ。
2021年9月26日 19:31
怒ってないよ。 そう口を動かしながらも、表情は冷たい。 楽しいね。 そう声を発しながらも、口角は下がっている。 人の表情と裏に潜む感情の不一致に、いつも戸惑う。 僕がおかしいのかな。 足元に猫がすり寄る。 彼らは気まぐれだけど裏表がない。 人を怖いと思う僕は失格者なのだろうか。
2021年9月22日 20:21
彼と別れて、1000回眠った。 私は日課のコンビニに向かう。 冷たくないコーラを開け、人気のない店を出る。 道の死骸はすっかりと消えた。 空は青く、鳥もいるのに、人だけがいない。 土地も店も好きにできるけど、嬉しくない。 誰かとコーラを飲みたい。 それが、いまのささやかな願いだ。
2021年9月7日 18:08
まずっ!食えるか、こんなもん! 隣の席の男が吠えている。 味は普通だけど。 贅沢だな、と私は思った。 七日後、世界は戦争になり生活が一変した。 瓦礫を背にして、見たことある男が佇んでいた。「水を分けてくれ…」「泥水でよければ」 拒否した男がどうなったか、その後私は知らない。