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個人的な栞(しおり)として皆さまの作品をピン留めしております。ヒマなときに見てもらうと、ひょっとしておもしろいかも。
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#エッセイ

詩の価値について

詩の価値について

してきたことの総和がおそいかかるとき
おまえもすこしぐらいは出血するか?

堀川正美
『新鮮で苦しみおおい日々』

詩とは何なのでしょうか。

僕は詩が何であるか、その答えを知りません。詩は、近づけば離れていってしまい、離れれば突然迫りくるような運動です。そのため僕は、永久にそれが何かを知ることはできないでしょう。そんな得体の知れないものに、何故か惹かれてしまうのは、殊に現代においては、詩に対して

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【エッセイ】ミクシ病(2006年に書いたものを掘り起こした)〜或いは交流病

【エッセイ】ミクシ病(2006年に書いたものを掘り起こした)〜或いは交流病

ミクシ病(ネット)

書こうと思ったんだったかな。
雑記だったんだが。書こうと思ったものは。

忘れること自体が凄いな。ほんの一瞬前に思ったことだ。

思い出した、ミクシ病だ。

ミクシ日記をつけている人間は、人によってはミクシ病になる。
足跡機能が引き起こす快感にはまるのだという。

俺は多分ミクシが嫌いだ。
ICQが流行し始めた最初、俺はそれを試した。
オンライン機能は俺には邪魔だった、足跡機

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13 雑然の命│随想詩

13 雑然の命│随想詩

ぼくの命は雑然としている。

何もかもが中途半端であり、とっ散らかっている。

おそらく一生このままだろう。

と思ったが、そう思うのはやめる。

この野放図にばらけていくぼくの関心が、ある日、美しく白き雪の結晶へと向けて、空気中の微塵の埃のひと粒から、軽々と成長を始めないとも限らないからな。

けれど一生このままでもいいのだ。この現状肯定こそがすべての基礎なのだ。今ここでの現実を認識しないことに

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タルホと月⑧ 地上とは思い出ならずや

タルホと月⑧ 地上とは思い出ならずや

『きらきら草紙』は稲垣足穂の掌編小説である。
これも都合何回か改訂されたり、タイトルの変更があった。

足穂の作品は内容は掲載誌や掲載本が変わるに従い、度々改訂される。つまり、複数のバージョンが存在し、全集だけでは捕まらないのである(全集未収録作品もあるため、全て読んだ人間は恐らくは作者の足穂だけ)。
タイトルも同様であり、作品とは生きているもので、姿かたちを変えていく。

さて、『きらきら草紙』

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大人げのない文人たち

大人げのない文人たち

 文章が人格をあらわすとすれば、書き表したものは年相応の経験が反映されて然るべきだ。若書きという言葉があるように、若い頃は思いが表現に先行して筆が滑りがちになる。私自身、若いころは論理性のかけらもない、わけのわからない文章ばかり勢いで書いていた。若い芸術家であれば舌鋒鋭く、感性を思うがままにぶつけることができる。しかし、尖ったロックミュージシャンも、中年壮年になればたいがい、やさしく丸い音、愁いを

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そして人は詩に立ち戻る

そして人は詩に立ち戻る

 いつも、詩を書きたいと思いながら文章を連ねている。
 しかし、どういうわけか形式としての抒情「詩」は、現在の自分の表現方法としてはしっくりこない。そのかわりに、自分が書くいかなる文章にも詩的精神を宿したいという、青臭いような身構えが、自分のうちにはある。   「青臭い」というのは、そういう詩的精神の面構えの内心に、誰にでも伝わる形で素直に書けない気恥ずかしさがあるからだ。しかも、「詩を書きたい」

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堀江敏幸『雪沼とその周辺』《砂に埋めた書架から》51冊目

堀江敏幸『雪沼とその周辺』《砂に埋めた書架から》51冊目

 堀江敏幸を知ったのは、白水Uブックスの『郊外へ』を手に取ってからだった。

 私はその随筆のような味わいのする創作の文章を読んだ。滋味豊かな落ち着いた日本語、しかもフランス文学を専攻している作家独特の癖のようなもの(それは魅力でもあるのだが)が、文章の香りとして立ち上っていた。

 読むうちに格好いいと思えてきて、それ以来私はすっかり好きになってしまった。

 本書はその題名が示すとおり、「雪沼

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海亀湾のプルーフ(自己紹介的な何か)

海亀湾のプルーフ(自己紹介的な何か)

 自己紹介を書くべきか迷う。何を紹介すればいいのだろう。
 唯一確かなことは、この記事を読んで下さる方から、私は多少なりとも関心を持って頂けた、ということである。これは本当にありがたいことだ。

■投稿しているもの
 私はこのnoteという場に、昨年(2018)から参加し、書き溜めていた「短編小説」を投稿している。パソコンやHDDのフォルダに死蔵されたまま、いずれ消滅する表現物を、どのような欲求に

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注文を聞かない料理人

注文を聞かない料理人


Entrée
「遅いですね。」

「そうなるよね。」

「分かってたんですか?」

「俺、ベテランだもん。」

なじみのホテルのメニュー撮り。撮影台の上には何も乗っていない角皿が鎮座している。実際に使用されるのと同じ皿を置いて構図とライティングを決め、料理が来たら、空の皿と料理の乗った皿を取り替え撮影開始である。

準備は終わった。あとは料理だ。アシスタントのミッチーと一皿目を待つ。予定の時間を

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【書籍レビュー】愛着障害  子供時代を引きずる人々

【書籍レビュー】愛着障害  子供時代を引きずる人々

今年は読んだ本の整理も兼ねてレビューをしていこうかなと思っています。単なるレビューというか、自分なりにどう消化したかという点でまとめていくつもりです。

早速ですが、今回は岡田尊司著「愛着障害 子供時代を引きずる人々」を取り上げたいと思います。

読もうと思ったきっかけは子供が初めて生まれるということで、Twitterのタイムラインに流れてきた発達心理学という言葉に興味を持ち始めたところ、愛着の発

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ナイルの水を飲んだから

ナイルの水を飲んだから

「ナイルの水を飲んだ者はナイルに戻ってくる」
Once you drink from the Nile, you will come back again.

اللي يشرب من النيل لازم يرجع له تاني
読み方:イッリー・イシュラブ・ミン・ニール・ラーズィム・ヤルガア・ラフ・ターニー

エジプトには、
そんなことわざがあります。

実は、エジプトは私の初めての海外

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父と京都

父と京都

3月に89才で亡くなった父は、京都が大好きだった。

それは父が京都の立命館大学出身で、アパートに一人暮らしをしながら青春を過ごした特別な場所だったからに違いない。

京都出身の作家 水上 勉を愛読し、地図が大好きだった父の脳内には京都の碁盤の目のような地理が全てコピーされたように詰まっていた。

私も若い頃、2度目の結婚をしてすぐの頃に娘が幼稚園の2年間、京都の桂というところに住んでいたことがあ

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かな入力で書いてます。#わたしの執筆スタンス

かな入力で書いてます。#わたしの執筆スタンス

おや、タイトルにハッシュタグ入れようとした時点で、企画の趣旨を間違えていることに気がつきました。#わたしの執筆スタイル ではないのです。だいすーけさん、どないしよ。

かまへん、かまへん、書きたいこと思いついて書き始めたんやったら、どこか途中でつじつま合わせたらいいんや。書きたいこと書く方が大事やで。よく高層ビルを建てるとき、基礎部分でほんの数ミリの差が出ていても、そのまま上階を積んでいって、最後

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「作家になる」とはどういうことか?

「作家になる」とはどういうことか?

「小説、書いてみたいんですよ」
 飲み屋かなにかでたまたま話すことになったおっちゃんのひとことに、ある作家はこう返したという。
「じゃあ、あなたが持っているそのiPhoneで今から書き始めたらいいじゃないですか」
 今日の話は、いってしまえばこのやりとりのことを何度も繰り返すだけだとはじめに書いておく。



 社会人1年目のとき、ものかきになるための「社会経験」として会社に入った。会社に勤めた

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