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あの海は当たり前の贅沢だった
世にも贅沢な時間を過ごしていることを、その瞬間は気づかないものですね……
ワタクシの高校時代、当たり前の3年間がいかに贅沢で、いかに素晴らしい時間だったか、大人になって初めて気づきました。
高校は、神奈川県の藤沢と鎌倉を結ぶ江ノ電沿線にありました。沿線で唯一、海を臨むあの駅が、ワタクシの高校の最寄り駅でした。
今では駅近くの踏切が「聖地」となっており、観光客がたくさん訪れているようですが、当時は
小説 書く時間を大切に #シロクマ文芸部
「書く時間を大切にしてくださいね。あなたを癒しもしますが、間違えれば呪いもします」
「スピリチュアル文房具」という看板をかかげたそのブースの女主人は、銀河を描いた紺色の爪が長い人差し指で萌音をまっすぐさした。
萌音は生唾を飲み込んだ。すると、女主人は紫のアイシャドーを刷いた目元をふとゆるめて、机の下から白い合皮張りの箱を取り出した。
「こちらが、お客様のパートナーとなるガラスペンです。夜空の色のイ
小説 食べる夜 鬼之庄で
「食べる夜、っていう意味なんだって」
妻の夜香は、少し恥ずかしそうにクスッと笑って言った。
「24年に一度の、うちの村のお祭り、セックイエーっていうの。変な名前でしょ」
夜香の故郷は、中部地方の山深い奥地にある。鉄道からも高速道路からもとてつもなく遠く、ヤワな車では上るのに苦労する山道を延々と走らないとたどり着けないらしい。両側にそびえる山の斜面の角度がおかしいんじゃないかと感じるほどの急な谷あ
創作大賞2023参加感想 ほぼ敗戦、より読まれるための気づき
はっはっはっはっは……(乾いた笑い)
創作大賞2023、大盛況の大盛り上がりでしたね。
noteの読み専を脱却した時には、参加しようなどと欠片も思っていなかったのですが、盛り上がりっぷりを拝見しているうちに、ついつい「もしかしたら…もしかすれば…ワンチャンあるかも!? いや踊らにゃソンソンでしょ、こりゃ」と、ナゾの阿波踊り精神がむくむくと湧いてきて、気づけば連日連打の投稿に走っておりました。
小説 消えた鍵と少年の涙 #シロクマ文芸部
「消えた鍵? そんな馬鹿な」
サンポール美術館のキュレーター、ショウは鼻で笑った。鍵が消えるなんてことがあるわけがない。なぜなら、その鍵は、400年も前に描かれたものだからだ。
サンポール美術館の5つある展示室の中で最も小ぶりなルーム3は、そっけない平らな壁だけで構成されたほかの展示室と違って、居心地がいい居間のようにしつらえられている。
床には暖かい色調のカーペット。照明を抑えた室内にロココ調
小説 街クジラと猫の狩り #シロクマ文芸部
街クジラが現れると、街から子供が消えるんだって。
これは有名なお話で、小さいころに街クジラの絵本を読んでもらわなかった子供は多分いない。街クジラがたくさんの子供を背中に乗せて、青空のかなたの雲になるラストシーンは、どんな子供も必ず目に焼き付いている。
「悪い子は、街クジラに連れていかれて雲になってしまうんだよ」と、いたずらをした子にお母さんは必ず言う。
……らしいね。僕は、お母さんからそう言わ
血沸き肉躍るアート本3選 #おすすめの美術図書
参加させていただいているメンバーシップ「オトナの美術研究会」様の月一お題企画、今月はぜひ書かねば! と思っていたら、もう月末じゃないですか~!!
トシをとると時間がたつのが速いと聞くが……なるほどこれが……ゴホゴホ
というわけで、ぎりぎりになってしまいましたが、6月のお題は #おすすめの美術図書 でございます!
美術の専門教育を受けたことがない知識浅薄などシロートアートファンのワタクシ、面白い
魔法の靴⑰親友にキレられました!
第九章
希美の演奏会は、都心から少し離れた駅前の大型ホールが会場だった。改札口で拓也と待ち合わせる。
拓也が見慣れない背広にネクタイ姿だったせいで、香奈恵は、本人が3メートル先にいるにもかかわらず、きょろきょろする羽目になった。拓也からスマートフォンに電話をもらうまで気づかなかった。
「拓也くん? 今、どこ?」
「目の前だっつの」
肉声が斜め前から聞こえて、ようやく拓也の存在に気づいた。香奈