とみーず

猫とアートと文房具が好きなFP持ち。ついに読み専から脱却。おそらくここでも、世界の片隅で、路傍の石のごとくかすかに呟くことになるのでしょう。

とみーず

猫とアートと文房具が好きなFP持ち。ついに読み専から脱却。おそらくここでも、世界の片隅で、路傍の石のごとくかすかに呟くことになるのでしょう。

マガジン

  • 短い小説

    読み切りの短い小説をまとめました。

  • 小説 魔法の靴

    創作大賞2023に応募してます! 夢を追いかけている人も、夢なんてないやという人も、息抜きにお立ち寄りいただければと(文庫本1冊くらい、全22回の長編連載です)

  • この絵ここが好き!

    語りたいけどなかなか語れない、この絵のここが好き!ポイントを、どシロート目線で好き勝手につぶやきます。単なる「好き」!です。「正しい見方」はゆめゆめ期待なさいませんように

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魔法の靴① 会社がなくなりました!

【あらすじ】 会社員の香奈恵には「夢」がない。人生のんびりすごせればいいやと、24歳にして前に進むことを諦めていた。幼なじみでオーボエ奏者の夢を目指す希美がまぶしい。 ある日、香奈恵が勤める会社が倒産し、やりたい仕事もないままに再就職活動を始めることになる。 夢があるのに追いかけられない人もいる。夢を見つけられない香奈恵は、夢を追いかけられずに足踏みしている人と一緒に前に進むために、10年前の子供の死について調べ始める。 ちょっとミステリー風味の長編お仕事小説です。 【本編

    • あの海は当たり前の贅沢だった

      世にも贅沢な時間を過ごしていることを、その瞬間は気づかないものですね…… ワタクシの高校時代、当たり前の3年間がいかに贅沢で、いかに素晴らしい時間だったか、大人になって初めて気づきました。 高校は、神奈川県の藤沢と鎌倉を結ぶ江ノ電沿線にありました。沿線で唯一、海を臨むあの駅が、ワタクシの高校の最寄り駅でした。 今では駅近くの踏切が「聖地」となっており、観光客がたくさん訪れているようですが、当時はまだ母校を舞台にした作品もなく、とても静かな場所でした。 ドラマやCMのロケ地と

      • 小説 書く時間を大切に #シロクマ文芸部

        「書く時間を大切にしてくださいね。あなたを癒しもしますが、間違えれば呪いもします」 「スピリチュアル文房具」という看板をかかげたそのブースの女主人は、銀河を描いた紺色の爪が長い人差し指で萌音をまっすぐさした。 萌音は生唾を飲み込んだ。すると、女主人は紫のアイシャドーを刷いた目元をふとゆるめて、机の下から白い合皮張りの箱を取り出した。 「こちらが、お客様のパートナーとなるガラスペンです。夜空の色のインクの小瓶をおまけにつけておりますが、インクとノートはお好きなものをお使いくださ

        • 小説 食べる夜 鬼之庄で

          「食べる夜、っていう意味なんだって」 妻の夜香は、少し恥ずかしそうにクスッと笑って言った。 「24年に一度の、うちの村のお祭り、セックイエーっていうの。変な名前でしょ」 夜香の故郷は、中部地方の山深い奥地にある。鉄道からも高速道路からもとてつもなく遠く、ヤワな車では上るのに苦労する山道を延々と走らないとたどり着けないらしい。両側にそびえる山の斜面の角度がおかしいんじゃないかと感じるほどの急な谷あいを抜け、峠をいくつも越えるそうだ。もちろん観光客なんてほとんど来ない、まぎれも

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        魔法の靴① 会社がなくなりました!

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          創作大賞2023 「魔法の靴」あとがき 幸せになれよ!

          さてさて、前回は、酸っぱい葡萄的負け惜しみ成分強めの振り返りを書いてしまいました。 しかし、創作大賞に参加なさった書き手様の「あとがき」を拝読し……心が洗われる思いをいたしました……そして深く反省を…… ダメだったよ、え~ん! じゃ、ないよね。 まず書くべきは、作品への愛だろ、愛! かわいい「魔法の靴」のキャラたちよ、ふがいない作者でごめんね。 というわけで、順番が逆になってしまいましたが、あとがきです。 全22回を連日連打投稿した「魔法の靴」、全体で13万9千数百字

          創作大賞2023 「魔法の靴」あとがき 幸せになれよ!

          創作大賞2023参加感想 ほぼ敗戦、より読まれるための気づき

          はっはっはっはっは……(乾いた笑い) 創作大賞2023、大盛況の大盛り上がりでしたね。 noteの読み専を脱却した時には、参加しようなどと欠片も思っていなかったのですが、盛り上がりっぷりを拝見しているうちに、ついつい「もしかしたら…もしかすれば…ワンチャンあるかも!? いや踊らにゃソンソンでしょ、こりゃ」と、ナゾの阿波踊り精神がむくむくと湧いてきて、気づけば連日連打の投稿に走っておりました。 参加作品はこちら。夢がない香奈恵ちゃんが、ミステリー風味な事件に巻き込まれつつ、

          創作大賞2023参加感想 ほぼ敗戦、より読まれるための気づき

          小説 消えた鍵と少年の涙 #シロクマ文芸部

          「消えた鍵? そんな馬鹿な」 サンポール美術館のキュレーター、ショウは鼻で笑った。鍵が消えるなんてことがあるわけがない。なぜなら、その鍵は、400年も前に描かれたものだからだ。 サンポール美術館の5つある展示室の中で最も小ぶりなルーム3は、そっけない平らな壁だけで構成されたほかの展示室と違って、居心地がいい居間のようにしつらえられている。 床には暖かい色調のカーペット。照明を抑えた室内にロココ調のソファが置かれ、正面には暖炉がある。その上の壁は深いグリーンに塗られており、た

          小説 消えた鍵と少年の涙 #シロクマ文芸部

          魔法の靴 最終回 ありがとう、そしてさよなら!

          翌日、香奈恵は希美の実家の門の前をうろうろしていた。希美の家は広い。敷地には門から緩やかな上りの傾斜が付いており、まず開けた庭園がある。その奥に母屋と離れと蔵が建っている。離れが希美の音楽室で、グランドピアノが置いてあるはずだ。幼いころから、遊びに来ると必ずピアノの音が響いていたが、高校に上がると、いつの間にか聞こえるのはオーボエばかりになっていた。希美の笑顔は変わらなかったけれど、振り返れば、そのころに大好きなピアノを諦めて、オーボエに転向したのだろう。 今も、離れからは

          魔法の靴 最終回 ありがとう、そしてさよなら!

          魔法の靴㉑親と子って何なんでしょうね?

          香奈恵は、品川駅での、小倉少年との別れ際を思い出していた。 「ねえ、慎太くんに、あの神様の話をしたのは、誰なの?」 香奈恵は、歩きながら小倉に問いかける。 「いま、思い出しました」。小倉がかすれた声を出す。 「絵本じゃなかったです。慎太は、あの話を、直接教えてもらったそうです。誰にも内緒の話で……男と男の約束だぞって言われたから、内緒なんだって」 「男と男の約束?」 香奈恵は立ち止まった。小倉も立ち止まる。 「あれは、お母さんに読んでもらった絵本じゃないの?」と、

          魔法の靴㉑親と子って何なんでしょうね?

          魔法の靴⑳まさかのあの人に秘密がありました!

          第十一章 次の休みは、よく晴れた。空の青さが、もう夏だ。 香奈恵は、誠一と二人で、また湘ガ浜駅に降り立った。 初めてこの駅の改札を通ったときは、長袖のブラウスにカーディガンを着ていた。今は半袖だ。狭い駅構内を行き交う人数が段違いに増えている。 潮の匂いが濃くなった気がする。国道沿いの松の緑が、ほとんど黒く見える。日差しが強い。 誠一は、一言も話さない。 数日前、香奈恵はこんなLINEを誠一に送った。 「誠一さん作の靴をプレゼントしたい人がいる。あたしが希美からも

          魔法の靴⑳まさかのあの人に秘密がありました!

          魔法の靴⑲頼りない目撃者を発見しました!

          その夜、半身浴から上がると、拓也からLINEが届いていた。希美のことかと焦ったが、意外な内容だった。希美抜きで香奈恵に会いたいという。翌日の夜、品川駅の駅ナカのカフェで、待ち合わせることになった。 拓也はすでにカフェについており、先に気づいて手を振ってくれた。その大きな体の横に、比較すると子供みたいな細い影があった。うつむいた頭は黒髪の七三分けで、メガネをかけている。 思い出した。頼りなく薄い体は、小倉少年ではないか。前回会ったのは、横浜駅の地下街で、拓也と希美と一緒だっ

          魔法の靴⑲頼りない目撃者を発見しました!

          小説 街クジラと猫の狩り #シロクマ文芸部

          街クジラが現れると、街から子供が消えるんだって。 これは有名なお話で、小さいころに街クジラの絵本を読んでもらわなかった子供は多分いない。街クジラがたくさんの子供を背中に乗せて、青空のかなたの雲になるラストシーンは、どんな子供も必ず目に焼き付いている。 「悪い子は、街クジラに連れていかれて雲になってしまうんだよ」と、いたずらをした子にお母さんは必ず言う。 ……らしいね。僕は、お母さんからそう言われたことがないけどね。何しろ僕は、お父さんとお母さんの自慢のいい子で、悪い子だっ

          小説 街クジラと猫の狩り #シロクマ文芸部

          魔法の靴⑱それでも仕事がありました!

          第十章 希美とぜんぜん連絡がつかない。LINEは返って来ないし、電話はどうやら着信拒否されているようだ。 香奈恵は途方に暮れた。 希美と別れた最後の場面を何度も反芻する。演奏会のあとの短い会話。香奈恵の言葉は、希美の心を逆なでするものだったのは、間違いない。ソロを担当すると聞いていた後半に、希美の姿がステージになかった時点で「よかったよ~」と言ってはいけないことに気付くべきだった。 きちんと謝りたい。でも、希美が鉄の壁の向こうに引きこもってしまうと、香奈恵は途方に暮れる

          魔法の靴⑱それでも仕事がありました!

          血沸き肉躍るアート本3選 #おすすめの美術図書

          参加させていただいているメンバーシップ「オトナの美術研究会」様の月一お題企画、今月はぜひ書かねば! と思っていたら、もう月末じゃないですか~!! トシをとると時間がたつのが速いと聞くが……なるほどこれが……ゴホゴホ というわけで、ぎりぎりになってしまいましたが、6月のお題は #おすすめの美術図書 でございます! 美術の専門教育を受けたことがない知識浅薄などシロートアートファンのワタクシ、面白いアート本は大好物です。「関連本は全制覇してるぜ! へへっ」というところまで極めて

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          魔法の靴⑰親友にキレられました!

          第九章 希美の演奏会は、都心から少し離れた駅前の大型ホールが会場だった。改札口で拓也と待ち合わせる。 拓也が見慣れない背広にネクタイ姿だったせいで、香奈恵は、本人が3メートル先にいるにもかかわらず、きょろきょろする羽目になった。拓也からスマートフォンに電話をもらうまで気づかなかった。 「拓也くん? 今、どこ?」 「目の前だっつの」 肉声が斜め前から聞こえて、ようやく拓也の存在に気づいた。香奈恵が90度の最敬礼で謝ると、拓也はひらひら手を振って笑ってくれた。 「見違える

          魔法の靴⑰親友にキレられました!

          魔法の靴⑯夢をかなえにいく夢を見ました!

          第八章 空を見上げる。 黒い。夜空だ。 白くて明るい大きな月が、今夜はどこにもない。あるのは、ガラスのかけらをぶちまけたみたいな、星の小さな輝きだけ。 ここはどこだろう。どこかに行く途中なんだ。どこに向かっているのだっけ? ざざーん、ざざーん…… 遠くで波の音がする。ううん、そんなに遠くない。すぐそこだ。 ざわわわ…… 風が吹く。真っ黒な固まりが、身をよじらせる。海を隠している、松の林だ。夏が終わっても、松の姿は変わらない。深緑の針のように固い葉を全身にまとって

          魔法の靴⑯夢をかなえにいく夢を見ました!