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藍々の短編小説

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ごきげんよう、藍々です。 すぐ完結のオリジナル短編小説や詩はこちらですよ。
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記事一覧

小説 札幌駅前のチェーンのカフェにて

小説 札幌駅前のチェーンのカフェにて

 ムツキは落胆していた。都会の薄給が原因ではなかった。
 3年目の札幌で、彼女は11時からの派遣バイトの登録会まで時間を潰すため、チェーン店のカフェに入った。2月の比較的穏やかな週で、予報では久々のプラス温度だったが、雪がちらついていた。
帯広の田舎から出てきたムツキは、OLスーツのくたびれが似合うようになってきたら、どうでもいい空き時間をどこにでもあるチェーンのカフェで過ごすことに憧れていた。

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小説 時計仕掛けのパリピ

小説 時計仕掛けのパリピ

以下嘘である。

ふと、パリピを捕まえて拷問することにした。

彼らに罪はない。

だが誰しも、こう思ったことはないだろうか。
「パリピの虚無感ってのがあるなら見てみたい」
僕は時々思う。

彼らは隙を見せない。

彼らだって、朝家に帰って一人でベッドになだれ込んでから泥のように眠る前に、酔いが覚めるときがきっとある。
だがその時、彼らは一人。
次にパリピが人前に姿を現すとき、やはり彼らはパリピな

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小説 会えなくなった夢の中のあいつ

小さい頃良く見た夢。

本家のお屋敷の庭で、おれが一人で遊んでるとあいつが出てくる。

小さなゴブリンに猫のような耳が折れていて、目付きが悪い。

ハリー・ポッターのドビーを初めて見たときはビビった。そっくりで。
数年後、クリーチャーが映像化されたときはそれはもう衝撃だった。

まさしくあいつ。なぜだろう。

「20年も経てば君もここに住むんだろう?」

何も言ってないのにあいつは嫌なことを聞いて

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槍ヶ岳浪人回顧録

22歳の「私」と3人の仲間は、高校山岳部の同級生であり、在学中を含め北アルプスの槍ヶ岳登頂に悪天候が原因で2度失敗していた。物語は「私」がその高校山岳部の機関誌に寄せた回顧録という設定であり、以下は、彼らが三度目の槍ヶ岳登頂に挑み、山中で朝を迎える場面である。

〜本文〜二日目。一夜が明けた。暗いので明けてはいないが。ここ馬場平で朝を迎えるのは何度目だろう。
ここ馬場平で迎える朝は決まって雨音が聞

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