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木の子のこの子

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随想、散文だけど、自分の指針
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その予感を知るために私は再び外に出ることにした。

その予感を知るために私は再び外に出ることにした。

七月も終わりの夏だった。私はいつの間にか夏が始まっていることさえも知らなかった。「そりゃそうだろ」と言われてしまえばそれまでなのだが、それを知っているのはこの街の人達だけなのである。

「土曜日、16時30分に関内駅で待ち合わせでお願いいたします」

会社の後輩に終業後に突然言われた。実際には数ヶ月前からプロ野球観戦に誘われていたことを忘れていた。そして私はオーケーの返事をしたことも自分の手から溢

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創作大賞感想 自分への記録と記憶

創作大賞感想 自分への記録と記憶

創作大賞が終わりました。自分の気持ちは、何一つ後悔が無いと言い切れます。何にも意味がないことに全力を尽くしました。

何より、何も意味がないことを一緒に楽しんでくれた人達に感謝しています。

意味がないことを皆で、意味あるものへと創り出したと思っています。

会ったことも、話したこともない世界中にいる人が「なんのはなしですか」の一つの言葉で一緒に全力で遊んでくれて本当に感謝しています。

この言葉

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この街のアキナイ

この街のアキナイ

タカハシは、商いを求めていた。それは、この街ではどんな悩みも解決してくれる商いと言われていた。

タカハシの悩みは、浅いようで深かった。タカハシは、人が時間を割いて情熱を傾けるような趣味を持ち合わせず毎日が退屈だった。退屈だというのは、人が見ればそう見えるだけでタカハシにとってその平穏はなによりの幸せだった。タカハシは、ずっと流れる川の水の音を聴いたり、毎日少しずつ伸びる植物や、生き物をゆっくりと

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「紫陽花は鎌倉。六月の鎌倉なのよ」と愛知のコユリは言った。

「紫陽花は鎌倉。六月の鎌倉なのよ」と愛知のコユリは言った。

木曜日のことだった。私は有意義な読書会を堪能した。正確には有意義だったということがハッキリ分かったということだ。谷崎潤一郎についての読書会ということで参加したのだが、ほぼ覚えていない。緊張で何を喋って何をしたのかほとんど忘れてしまっていた。それを吉穂みらいさんという稀有な記憶力の持ち主がいてくれたおかげであの日確かに私は読書会に参加していたことが分かった。

どうしてその木曜日の出来事から話さない

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語るを騙る大人を知った経験を真面目に語ったが、自分が騙ってないだろうかと不安になる

語るを騙る大人を知った経験を真面目に語ったが、自分が騙ってないだろうかと不安になる

会社を辞めようとしていた後輩と一年ぶりに遠い現場に行くことになった。前回の経験から私は、運転席にあらかじめ座っている。

彼は、私が運転席に座っていることに違和感を感じることなく自然に助手席に座ってきた。余りにも自然な助手席の座り方に一年の経験値を感じた。そして、それと同時に私が彼を乗せて運転した一年間の総距離を知りたくなっていた。

「コニシさん。どうぞ」

彼は、温かいブラックの缶コーヒーを私

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「何を見た」私の感覚は正しいのかを知りたい。スネーク・ハンターへの招待状

「何を見た」私の感覚は正しいのかを知りたい。スネーク・ハンターへの招待状

私が体感したことを正直に述べたい。私は自分に何が起こったのかを皆さんに説明しなければならない義務がある。

今から述べることと、同じ体感をしてくれる人を求めています。本気です。こんなに初めて人を求めているのも初めてのことです。どう思うのか、語り合いたいのです。とにかく、出来るだけ小さな感情も丁寧に述べるので、お読みください。

いったい私は何を見たんだ

これが、最初の感情なのです。偽りもなく最初

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創作 晩年の味

創作 晩年の味

男は長く勤めた会社から今後の選択を迫られていた。長く勤めるというだけでそれなりの地位を得ていた男は、それが時代遅れだと言われていることには耳を貸さず、仕事に於いても考える判断を放棄して、大局に流されながら個人の判断にならぬように決断をしてきた。その結果、男は仕事には無駄なプライドしか持っていなかった。

本人は、会社に必要とされている人間だと思っていたのだが、実際に会社から突き付けられた現実は現在

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夏の3ヶ月は自分だけしか見れなかった。それはまた躍年には必要なことだった。

夏の3ヶ月は自分だけしか見れなかった。それはまた躍年には必要なことだった。

今年も残り3ヶ月。7月、8月、9月の3ヶ月を振り返る。そもそも、今年は41歳の躍年だ。

厄年について書いてある自伝をこれまでに読んだことのなかった私は、今年はじめに厄年改め、躍年を楽しんでいることをこれから躍年を迎える人達に、魅力的すぎる中年男性としての物語を書き、後世に伝えなければならない責任があると感じていた。

そして私は、この一年の成長と反省を記録している。これは綴らなければならない。い

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娘に本を好きになってもらうには、10年に及ぶ私の慎重な計画が必要だった。

娘に本を好きになってもらうには、10年に及ぶ私の慎重な計画が必要だった。

悩みながら、スクワットをしていた。

「キモ」

部屋の片隅から、人生で面と向かって言われたことを探し出す方が難しい言葉を投げられた。当然、私に言われた言葉とは気付かないので私はスクワットを続けた。

「キモ、なにしてんの。やめてよ。ウザい」

そんな辛辣な言葉を直接人に伝える人と今まで出会ったことがなかったので、私は私の筋トレがキモくて、ウザいのかと頭の中で一応確認してから言葉が聞こえた方をスク

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その日の最高は、WBC、WBO世界スーパーバンタム級(55・3キロ以下)タイトルマッチ12回戦がもたらしてくれた。

その日の最高は、WBC、WBO世界スーパーバンタム級(55・3キロ以下)タイトルマッチ12回戦がもたらしてくれた。

その日、人生で何度目かの「最高だ」と唱えながら1日を終えることが出来た。頭に鳴り響いた「最高だ」は次の日も目に溢れる情報を追いながら、さらに増長されるばかりだった。

私は、WBC、WBO世界スーパーバンタム級(55・3キロ以下)タイトルマッチ12回戦 統一王者スティーブン・フルトン対同級1位・井上尚弥(25日、東京・有明アリーナ)の試合を観に行った。

井上尚弥の試合を現地で観戦するのは三度目に

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上半期を終えた躍年は、下半期にさらに躍年を味わえる助走になったのか

上半期を終えた躍年は、下半期にさらに躍年を味わえる助走になったのか

3ヵ月ごとに今年を振り返る。それは、選ばれた者にしか訪れない。今年は厄年ならぬ躍年の貴重な一年だからだ。目一杯味わいたい。気付けば半年経過した。今年も色々あったと思うようにしている。何もないなんて、面白くないことは言わないことにしている。

悪くないね。

私は、ここのところハリー・ポッターのせいで連日魔法の世界へ通っている。それはどうしようもないことだ。つい手を伸ばして振り返ってしまったがために

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秘密の重みと植木鉢ヘルメットの公園

秘密の重みと植木鉢ヘルメットの公園

公園の入り口に、植木鉢を頭から被ってヘルメット代わりにしていた少年がこちらへ歩いてきた。僕は、すぐに少年からその目を離せなくなった。

奇抜な姿をしていたからなのか、もしかしたら、植木鉢柄の帽子だったのかもしれないと、自分の目の錯覚なのかと思ったからだ。

思い込みは、時に事実を覆す。

だが少年は、間違いなくプラスチック製の植木鉢を頭から被り、普段使いしているような空気を持ち、ちゃんとしたあご紐

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2023年の3ヵ月は、躍年への助走だと思うべきこと。

2023年の3ヵ月は、躍年への助走だと思うべきこと。

厄年を躍年へと御守りをくれた人がいた。
今年も3ヶ月を過ぎて、少し書くことやSNSについて思慮した。人が聞けば思慮などと使うなと言われそうだが、きちんと巡らした。

前年に、思いの丈を詰めた出来事はしっかりと消化出来たように思う。この数ヶ月は、変化を望む自分もいるが、変化を恐れる自分も存在した。何かを起こした後にバランスを取るように、人の前から引っ込みたくなっていた。

年が明け誕生日を迎えた私は

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かなりタイプの女性と老人にハルメイタ日は。

かなりタイプの女性と老人にハルメイタ日は。

少し肌寒く、桜が咲き誇るのを我慢していた日のはなし。

満開を感じる前に行くべきと考えた。いや、会いに行くべきと考え直した方が正しいのかも知れない。

私は、少し遠回りをして春を感じたかった。

かなりタイプの女性がいるお気に入りのコンビニは、海に面しているこの街では、その象徴を海に全てを奪われてしまい、存在を忘れられそうな山側の場所にあった。私は、時間をかけてその忘れられそうなコンビニへ向かい珈

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