見出し画像

かなりタイプの女性と老人にハルメイタ日は。

少し肌寒く、桜が咲き誇るのを我慢していた日のはなし。

満開を感じる前に行くべきと考えた。いや、会いに行くべきと考え直した方が正しいのかも知れない。

私は、少し遠回りをして春を感じたかった。

かなりタイプの女性がいるお気に入りのコンビニは、海に面しているこの街では、その象徴を海に全てを奪われてしまい、存在を忘れられそうな山側の場所にあった。私は、時間をかけてその忘れられそうなコンビニへ向かい珈琲を買うことにした。

忘れられそうなコンビニにいる、かなりタイプの女性は、しなやかな指先を持っている女性だ。私は、初めて見た時に指先まで見られている事を意識している筈なのに、それを婉曲されるような動きをする指先に見惚れた。

私は、私の気持ちを悟られているような気分に陥るが、かなりタイプの女性の表情からはその一切を読み取ることは出来なかった。というか、目を見ることが不自然になることを怖れて見れなかった。

私は感謝を込めて一番高い珈琲を買った。そうすることが当然のように振る舞った。

仕事の待ち合わせまでには、まだ時間に余裕があった。この場所からそうすぐに離れたくない私は少し思案した。

私はお金は無いが、心に余裕を持つのが好きなタイプだ。そして私は喫煙はしないが、喫煙を装うのが好きなタイプだ。

それは必然に、外にある灰皿の近くで珈琲を飲むことを意味していた。

コンビニの外で珈琲を飲む場所を考える。すんなりと、ごく自然に私が絵になるような場所が存在しないのだ。誰もが私を見て感じたりしてくれはしないが、どこからビックリさせられてもいいように、常に絵になるような自分を目指している。もしかしたら、かなりタイプの女性がふとした瞬間に私を目にするかも知れない。そういう時に絵になっていたいものだった。そして、そういう自分が好きだと常に、自分に伝えている。

私は、自分を隠すように背中を丸め、小走りで訳あり顔をしながら喫煙者の近くに行き、一番高い珈琲を両手で抱え、かなりタイプの女性に今日も出会えたことを感謝し、喫煙を装いながら珈琲を飲んだ。

午前10時を迎え、すでにワンカップを片手に持ちその永遠の青春を謳歌しながら喫煙し、社会情勢を会話している風の老人達のそばに誘われるように近付いた。かなりタイプの女性は、レジにいる。

死ぬのを待ってるだけだからなぁ

老人が大きな声で、老人に語りかけている。

今日も病院。明日も病院ハッハッハ

私は、そのタイミングで笑い合える老人にビックリしながらも、その話しの続きが気になった。

お寺の桜がそろそろ満開だろう

会話の糸口に季節が出るのは、先人の知恵なのか。自然とは偉大だ。季節を巡らすことで人間に時間を体感させている。そして酔っ払っていてもマトモな会話をしているように聞こえるのだ。

「桜か、桜はどこでもそろそろ満開になるだろう。なにもお寺に限ったことじゃないわ

精一杯食いぎみにツッコミを入れている老人がとても愛らしく、会話を桜が取り持ってくれていることに私は自然と笑い、少し見上げた。

老人は、笑っている私に気付き少し大きな声で話し掛けてきた。

「兄ちゃん。わざわざお寺なんて言わなくたって桜はその辺で満開だよな

私は、私に対して話を振られているのに気付いていたが、もう一言を待つことにした。

「兄ちゃん。兄ちゃんだよ」

私は、私が確定したことを感じてから、老人の方をゆっくり向いてにこやかに話し掛けた。

「兄ちゃんなんて呼ばれるの久しぶりでしたから、自分と納得させるのに時間がかかってしまいました」

老人達は、怪訝な顔を一瞬見せたが、ワンカップの力は絶大で、初対面のハードルを軽々と飛び越え、笑いながら私に言った。

「私達からすればまだまだ、兄ちゃんなんて
若いわ」

来た!予想通りの台詞だ。
私は、自分が思い描いた言葉をくれた老人に感謝した。そして、私はもしかしたら、なすべきことが出来るかも知れないと感じた。

「そうですか?ありがとうございます。いや、でもおじさん達もまだまだお若いじゃないですか」

来い!来い!私は願いながら悟られぬように、老人達と動きをシンクロさせるように珈琲を含む。

老人は、ワンカップを口に含み、私に切り出した。

死ぬのを待ってるだけだからなぁ

来た!ホントに来た!
もう一人の老人も私にたたみかけた。

今日も病院。明日も病院ハッハッハ

私は同時にハッハッハと笑うことに成功した。
自らの誘導で話をループさせた演出に、私は自画自賛を心でしながらも、もう一言、仕上げに春をそっと添えた。

お寺の桜がそろそろ満開ですね

老人は、にこやかに言った。

「兄ちゃん。その話ししてたんだよ。あっ。じゃないな。わざわざお寺なんて言わなくたって桜はどこでもそろそろ満開になるだろうだった。ちくしょう!」

ループさせている事に気づいた老人は、笑っていた。

私は一瞬で私による劇団が組めた事に心から満足した。あとこの劇団に必要なのは、ヒロインだけだと思った。

この続きにかなりタイプの女性が入ってきてくれたらなぁと。

横で笑ってくれているかなりタイプの女性を見て「お姉さん、お姉さんだよ」と言う妄想をしながら辺りを見回したが、かなりタイプの女性は、レジから居なくなっていた。そう都合よくはいかないみたいだった。

なんのはなしですか

かなりタイプの女性は、いったい誰と桜を見るのだろうか。そういう事しか考えない私は、春を連れてきてくれた老人達に感謝する。そしてこのコンビニを選んだ自分にも感謝する。

死ぬのを待ってるのも悪くない。
珈琲は一番高いものに限る。

春がきた🌸

P.S 
私としては、日常を文学に落としたつもりです。

文学と自分の表現を捕まえて、自分の中で一致させるという事を目標としております。とにかく、自分の表現を続けていこうと思います。

そして、私の文章を読んでくれるnoteのこの環境がとても好きです。

🌸いつもありがとうございます🌸

この記事が参加している募集

noteのつづけ方

ほろ酔い文学

この街がすき

自分に何が書けるか、何を求めているか、探している途中ですが、サポートいただいたお気持ちは、忘れずに活かしたいと思っています。