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SF、読書のよろこびマガジン

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大人になってからSFの楽しみを知った人の記録。本が好き、ゲーム興味ないかたはここで。
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#読書感想文

【読書】タイトルの由来が驚きの「郵便配達は二度ベルを鳴らす」

【読書】タイトルの由来が驚きの「郵便配達は二度ベルを鳴らす」

聞いたことはあるけど内容は知らない話を読むシリーズ。(以前には蠅の王やフランケンシュタインなど読みました)

なんとなく、「郵便配達員が旦那のいない時間に来て奥さんと不倫する話」かと思っていた。
なぜ不倫に関する話なのかは知っていたのか謎でそれは当たってたんだけど、郵便配達員ではなかった。

ストーリー序盤の男女がくっつくまでが、島耕作ぐらいのテンポ感ですすむ。
犯罪歴があってろくでなしの男と、な

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山下紘加「煩悩」は女の緻密な距離感小説!

山下紘加「煩悩」は女の緻密な距離感小説!

「煩悩」は、自立した主人公と、長い付き合いの「杏奈」
女性ふたりと周囲の人間関係の話だ。

杏奈!
とにかく杏奈という人がどうなってしまうのかを見てみたい、
たぶん男から見ると、ドジでおっとりして「清楚」とか呼ばれてそうな同級生。
だけど長く付き合っている「私」から見ると、
杏奈の話はあちこち飛んで要領を得ない。
同じミスを何度も繰り返す。あやしい人にも疑うことを知らなかったり、あぶなっかしいとい

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【ノンフィクション】特攻服少女と1825日

【ノンフィクション】特攻服少女と1825日

「コギャル」「ヤンキー」は何となく想像できるけど、女の不良「スケバン」女だけの暴走族「レディース」がいて、彼女らの専門誌が何万部と売れ、本物のヤンキーたちが修学旅行でディズニーランドに行った帰りに編集部に来て、紙面で総長が「半端にやるぐらいなら学校行きな」と不良をさとす。

こんな時代があったのか!の連続。

少年院から出所してすぐにかつての仲間からリンチにあった、ある少女の事件をきっかけに、レデ

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大田ステファニー歓人の「みどりいせき」が痛快だった

大田ステファニー歓人の「みどりいせき」が痛快だった

完成度が高い優等生候補作がそろう中で、いちばん読みづらいし、おそらく作者も文学の講義をずっと受けてきたような経歴じゃない。
これが新しい文学の1ページになるのか、ならんのか。

読んだ人同士で
「俺は良かった!いや俺無理!読めん!いや私はわかる!」とか語るのも含めておもしろそう。すばる文学賞受賞作の「みどりいせき」。
単行本になったらどうなるのかなあ。選考員が口をそろえて「序盤は読みづらかったが…

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【読書記録】高山羽根子「ススキの丘を走れ(無重力で)」

【読書記録】高山羽根子「ススキの丘を走れ(無重力で)」

この中に収録されている、小学生のころの記憶を掘り返す短編「ススキの丘を走れ(無重力で)」がすごく好き。
自分もこんなきれいで不思議な小説を書いてみたい。分量的には30分ほどで読めます。

学校を卒業してしばらくして再会した人がいると、こんな会話が発生しませんか。
「あいつ覚えてる?」
「あの子今何やってるか知ってる?」
 そんな感じで、記憶を掘り起こす話。久しぶりに再会した同級生と、子供のころいっ

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安堂ホセ「迷彩色の男」で芥川賞だ

安堂ホセ「迷彩色の男」で芥川賞だ

村上龍や石原慎太郎がデビューした時、こんな感じだったんじゃないか?

迷彩色の男はかっこいい。
ゲイが集まる風俗施設で傷害事件が起こり、そこから出た男がすぐ警官に職務質問される場面がある。
お巡りさんは当たり前の捜査をしているはずなのに、読んでいる最中は向こうが悪に感じる。偽善、嘲笑。そんな言葉がうかぶ。

正しい仕事をしているのに悪意を感じて、聞かれた男に感情を入れ込めたのは、読書体験によって善

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【読書感想文】カバーが二重になってた阿佐ヶ谷姉妹のエッセイ

【読書感想文】カバーが二重になってた阿佐ヶ谷姉妹のエッセイ

阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らしを買ったら、最初についているカバーの下からもうひとつカバーが出てきた。
こんな経験は、買いやすい表紙になっていた「夫のちんぽが入らない」以来だ。

最初に出たときはこの表紙だったようです。

イラストで、舞台衣装のピンクドレスで、間取りの相談をしている!表紙からして2人は仲が良いが、少し広いところか、近すぎると生活音や家事の分担もめんどうだし、少し離れて別々に暮ら

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SF小説の未来予知が間違っているとkawaii【読書記録】

SF小説の未来予知が間違っているとkawaii【読書記録】

アーサー.C.クラーク「火星の砂」を読みました。

1950年ごろ書かれたもので、SF大家の長編2作目になります。開拓中の火星を訪れた作家の物語。

初めての宇宙旅行で離陸に緊張する主人公、「水鉄砲式」で水分を補給していたが重力が戻ってくると嬉しくなってコーヒーを器に入れて飲みたくなる船員。つい持っていたものを落としてしまい、いけねえ重力あるんだった重力重力、ってなる感じ。
火星探索の前に「無重力

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【読書記録】アーサー・C・クラーク「宇宙のランデヴー」にしびれた話をさせてください、さあ。

【読書記録】アーサー・C・クラーク「宇宙のランデヴー」にしびれた話をさせてください、さあ。

これの話です。何十年も前の作品なので、完全に結末まで言っちゃっていいと判断してしまいます。要はネタバレです。

「宇宙のランデヴー」は、遠い未来の、宇宙に飛来した謎の物体をめぐる物語。

銀河の果てから巨大な「くるくる回る水筒」みたいなやつが飛んでくるのです。最初は流星かなにかだと思ったが、明らかに他の文明によって作られたもの。
このまま行くと永遠にないのかと思っていた「異星人との接触」。そのとき

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【読書記録】アフリカ幻想冒険小説「薬草まじない」

【読書記録】アフリカ幻想冒険小説「薬草まじない」

まえのタイ小説に続いて、アフリカ小説。40年も前のものなので、さすがにネタバレしてもいいよね?

奥さんに子供ができる薬を求めて、さいはての地に住む「女薬草まじない師」に会うため、勇敢な狩人だった若者が旅に出る。
特にアフリカでは不妊は重要な問題だからね。

得意の弓を持って、ジャングルの奥地へ!立ちふさがる「首の取り外しがきく男」!
「アブノーマルな蹲踞の姿勢の男」!
日陰で休んでいたら日陰ごと

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ラッタウット・ラープチャルーンサップ「観光」今年ベスト短編集!

ラッタウット・ラープチャルーンサップ「観光」今年ベスト短編集!

タイ系アメリカ人の短編集。ハードル低かったのもあるけど、すごい良かった!誰かにオススメの短編聞かれたらこれにする!
こんなのとの出会いがあるから、ブックオフもたまには行くもんだな!

「カフェ・ラブリーで」
お兄ちゃんに連れられて初めて悪い遊び場に行くはなし。
お兄ちゃんについて行ったら大丈夫、と思っていたらシンナー吸いだしてわけわかんない状態になって、一人で取り残された少年が女の人にからかわれな

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【読書記録】吉村昭「高熱隧道」

【読書記録】吉村昭「高熱隧道」

「昭和は今考えるとおかしい」
テレビ番組のフォーマットで、年の差ゲストを読んで昔の映像を流すのが人気だ。
ぼくは理解できる昭和もあるけど、
「黒部渓谷のトンネル工事、開通までの犠牲者300人以上」
は、さすがにノンフィクションなのか、あとがきを読むまで信じられなかった。人名や細かい行動はさすがに架空のようだが、事実関係は調査した通りだという。

発電所完成のために北アルプスに貫通させるトンネル工事

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なんでこんなに皆面白い小説書けるんだ!「ネイティブ・サン」と「我が友、スミス」

なんでこんなに皆面白い小説書けるんだ!「ネイティブ・サン」と「我が友、スミス」

重すぎる表紙とか「黒人作家の存在を知らしめた問題作!BLMの原点!!」とか、そういうの関係なく読んでくれ。ぼくは文庫はカバーとって裸で持ち歩いている。サスペンスとして目が離せない面白さと、作者の全人生を刻み込んだようなメッセージに圧倒された。

主人公は二十歳の黒人男性で、白人家庭に使用人として働けることになる。
そこがめっちゃいい家庭で、お嬢さんなんて
「私は肌の色に関係なく接するし、あなたたち

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【芥川賞】首里の馬、ババヤガの夜に震える

【芥川賞】首里の馬、ババヤガの夜に震える

#首里の馬

えっ!?こんな芥川受賞作あった?
と思ったら遠野遥「教育」と同時受賞で、向こうの話題性に隠れていたらしい。

地味な女の人が沖縄の資料を整理していたら馬が来たからどっか乗っていくというあらすじです。
世間と合わない人が、すぐには役に立たない情報を管理して保存する。
今「役立たず」「低収入」「陰キャ」とか言われてる人も、今1円の価値もないおもちゃや誰も見向きもしない情報も、すべて宇宙規

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