アルベールカミュ

気づきの言葉。

Don’t walk behind me; I may not lead. 
私の後ろを歩かないでほしい。私は導かないかもしれない。

Don't walk in front of me; I may not follow. 
私の前を歩かないでほしい。私はついていかないかもしれない。

Just walk beside me and be my friend.
ただ私と並んで歩き、そして友達でい

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フクロウがこちらを覗いているようです。
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病と戦のあいだには−−カミュ『ペスト』論考−−〈56〉(終)

 二月のある晴れた朝、ついにオラン市の門が開かれた。
 待ちかねたように各地からは汽車や船などが次々と町を目指してやって来て、それらに乗り込んだ多くの人たちが久々にこの未曾有の災禍が通り過ぎたばかりの地に降り立った。一年近くもの間、互いに別れ別れになっていた人々は、それぞれにようやくの再会を果たしたことで、沸き立つようなその歓喜の渦に誰もが皆その身を任せていた。
 街角や広場のどこを見回しても、い

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病と戦のあいだには−−カミュ『ペスト』論考−−〈55〉

 「うちに置いてあげようよ、ベルナール」という、母からのたっての懇願もあり、リウーは、タルーを病院には移送せずにそのまま家に置き、親子二人して病人の看病をすることにした。
 肺とリンパの二つの種類のペストに冒されているらしいタルーの病状は、リウーの想定通りに苛烈を極めた。リウー母子は、一晩中病人の傍らに寄り添い、その闘病の様子を静かに見守った。
 タルーは、自身の宣言通り「あらんかぎりの重厚さと、

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病と戦のあいだには−−カミュ『ペスト』論考−−〈54〉

 年をまたいでしばらくして、巷ではいよいよペストの終息が現実のところとなってきていた。そして、もう数日もすれば長らく閉ざされていた市の門が開放されようとしていた頃に、タルーは倒れた。

 実のところそのしばらく前あたりから、タルーの書き記していたペストの手記は「かなり奇妙なものになって」きていたと、それを読んだリウーは証言している。文面の筆跡は乱れ、内容も脈絡を欠くようにあちらこちらへと散漫飛躍す

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病と戦のあいだには−−カミュ『ペスト』論考−−〈53〉

 リウーのかかりつけ患者である喘息持ちの老人が、あるとき彼の元をタルーが一人で訪問した際に、二人の間で交わされた会話の中で、「ペストはまさに神父さまの言う通り、きっと何らかの報いに違いないのだろう」と皮肉を交えながら断言していたと、タルーの残した手記には書き留められてある。おそらく老人はパヌルーの演説やその内容などについて、そのときすでになんらかの形で聞き知っていたのだろう。
 しかし一方では、「

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病と戦のあいだには−−カミュ『ペスト』論考−−〈52〉

 タルーは「神によらずして聖者たらん」と欲していた。そのような、自ら聖者たらんと欲する意志とはまた、自らの「存在」に永遠の生命を欲する意志と同義なのだとも言えよう。であればもし、それを神なしで実現しようというならば、たしかにそれは天上の世界においてではなく、あくまでもこの世の人々の記憶に残り続けるものとならなければならないということにもなるだろう。彼らを聖者として認め、その心の内に「永遠に留め置く

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病と戦のあいだには−−カミュ『ペスト』論考−−〈51〉

 オランの町で「本物の」病禍に出くわすずっと以前から、自分はすでにペストに苦しめられていたのだとタルーは言う。ではそれまでタルーは一体、その「ペスト的なもの」を何と呼んでいたのか。
 彼自身の口からはっきりと語られているわけではないが、それはやはり「悪」と呼ぶべきものだというのは言うまでもないことだろう。そして彼は、オランにおいて「実際の」ペストに遭遇し、彼なりの観点からその事態の中に、それまで彼

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病と戦のあいだには−−カミュ『ペスト』論考−−〈50〉

 タルーがリウーを相手にして、己れの身の上を独白する場面は、言うまでもなく『ペスト』という長編小説における最重要箇所の一つである。多くの読者はおそらくここに、ペストという病を悪に見立てた、その戦いの記録として、この作品に埋め込まれているとおぼしき、象徴なり主題なりといったものを見ることになるのだろう。

 ちなみに、この告白においてタルーが語る、死刑執行の目撃談というのは、カミュの手によるその他の

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病と戦のあいだには−−カミュ『ペスト』論考−−〈49〉

 組織内で同志たちと交わした、死刑の是非をめぐって互いに噛み合いもせず相容れることもかなわなかった不毛な議論を経て、タルーは結局それからほどなくして、関わってきた政治活動のいっさいから身を退くこととなった。
「…そこで僕は心の平和を失ってしまった。僕は現在もまだそれを捜し求めながら、すべての人々を理解しよう、誰に対しても不倶戴天の敵にはなるまいと努めているのだ。…」(※1)
「…僕はこう考えた−−

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病と戦のあいだには−−カミュ『ペスト』論考−−〈48〉

 生まれ育った家を飛び出し、おそらくは非合法と思われる政治活動に加わって、ヨーロッパ中を飛び回っていたタルーであったが、そんなあるとき、組織内の規律を犯した同志を粛清するために死刑が執り行われることになり、彼はその一部始終を目撃することとなった。「裏切り者」を至近距離に置き、銃を構えた数人の者が一斉にその心臓を目がけて射撃すると、亡骸にはこぶし大の穴が開いた。
「…とうとうある日、僕は一つの処刑を

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