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長い小説に挫折する 〜カミュ『ペスト』〜 2

さすがnote。私が思いつくことなどは、すでに多くの考察や感想の中に書き込まれていた。

そして、のちのあらすじメモをとりながら、「ああ俺、リウーとタルーの議論でいつも眠くなってやめちゃうんだよなあ」とダメ読者たる理由をやっと自覚した。途中まではいつも楽しく読めているのに、タルーだのランベールだのが動き出すくだりに至って、なんか疲れちゃうんですな。

しかし、今回だけはそこでつまづくわけにはいかない。

実際、ゆっくりと字面を追いながら読んでみて、みんなが「よげんの書」めいた印象を書きつけているのもよく理解できた。

よそ者タルーが、「もちろん、全般的に見たペストの進行の跡をたどっているが、病疫の一段階が画されたのは、ラジオがもう週に何百という死亡数ではなく、日に九十二名、百七名、百二十名というような死者を報じるようになったときであった、と的確な観察をもって」(pp.132-133)記したものとして、本文で引用されている箇所「新聞と当局とは、ペストに対してこのうえもなく巧妙に立ちまわっている。彼らは、百三十は九百十にくらべて大きな数ではないというわけでペストから得点を奪ったつもりなのである」(pp.132-133)は、ここ2年間どこかで聞いたことのある話のように、妙なリアリティをもって迫ってくる。

コロナの経験があったからこそ、『ペスト』を読もうとする気になり、実感としても、内容が入ってくるようになった。カポーティの『冷血』の同じくらい、代表作を読んだからもういいかな!と思われる類の本だったのに、『ペスト』。

コロナ前だったら、正直ふーんくらいで終わっていただろう記述が生々しい。ほんと、アルベール、あんた、「二十世紀少年」だよ。

で、第2章だが、箱根駅伝で例えたら、戸塚中継所からずっと走り続けているような感じで、すでに体が重い。老体に鞭をうちながら、また、メモっていくことにする。

第2章を記録する

『ペスト』第2章、話の流れのメモ

めちゃくちゃざっくりインデックスをつけただけのメモになっているけれども、オッサンにはこういう指標がないと、今読んでるところを見失ってしまうのです。短期記憶のメモリが乏しいので。

今回も、④にあるタルーの手記から、タルーとリウーの対話に至る流れなんか、もうほとんど頭に入ってこなかった。いつも、ここで面倒になっちゃうんだよなあ。翻訳がどうこうではなくて、意図的にぼかして書いていることが感じられるので、カフカの『審判』とかになぞらえられるんだろうけれども、それがあの、いつも苦手です。

それはともかく、第2章は《展開》の章である。ペスト禍において、登場人物たちがそれぞれに動き出す章。

まずタルー。よそものであるタルーは保健隊を組織しようとリウーに提案。共鳴を得て、いろいろな人を勧誘し、組織の内に取り込んでいく。

そしてコタール。自殺未遂をやらかしたが、ペスト禍であることが幸いして変にポジティブな気持ちになるも、タルーに過去の犯罪歴をばらされる。

官吏グラン。ペスト禍において、詩作意欲が増大。仕事が上の空。でも、タルーに誘われて、保険隊の幹事なども引き受ける。

記者ランベール。妻に会いたいと街からの脱出を非合法な手段で企図するも失敗。再度挑戦する中で、リウーの妻も街の外にいて会えていない、と聞き、街に留まることにする。

パヌルー神父。ここぞとばかりに、疫病は神が下した人間への罰だとして、これを天啓として自身の生活を見直すべきだ、という趣旨の説教をし、衆生が救いを求めて群がる。

こうした登場人物たちが交錯して、議論を交わし、生き方を変えていく。

感想

2章は、思想的対話もあるので、実際は多くの読み応えを感じるはずの章なのかもしれない。神父の説教の内容について、どう思いますかー、とのリウーとタルーの応酬などは、若い時に読んだら、そのままサルトルーカミュ論争などに関心がスライドしていたかもしれない。でも、自分は結局そこに、強い関心を抱けず、それがドストエフスキーなどをいつまでも読めない理由になっていると、今回反省できたのは収穫である。

そして、異邦人(1942)、ペスト(1947)、反抗的人間(1951)という作品歴に位置付けられる『ペスト』は戦後移行期の作品であることを再確認し、それにも関わらず、現代のコロナ禍を予見したような文章が散見され、SFの古典としても読みうるなあ、と思ったことも収穫である。

内容について言えば…そうさね、善と悪という話が出てくるけど、ペストは悪のメタファーではないんじゃないかな、と思ったりしたことかな。不条理とか偶然とかの方が、やはりしっくりくる。ただ「不条理文学」っていうけど、これが「不条理」なら、俺たちの現実すでにめちゃくちゃ「不条理」じゃね?「太陽が暑かったから、なんか犯罪しちゃった!」みたいな「不条理」はそこかしこに転がっているよね。「晴れ、ときどき、殺人」ってやつだよね。歌はヤバいのだけ知ってて、あとは知らんけど。

オッサンのつまらん感想だ。

でも、リウーが、人間て永遠の敗北だよね、みたいに言ってるところは格好良かったな。敗北し続けてもなお、やらなあかんことはやらなあかんのだ、と。『シーシュポスの神話』につながるような、カミュの人生訓であり、そこはもうその通り!と膝を打った。

あと、どうでもいいけど、ランベールが脱出するために手助けをしてくれるスペイン系の悪漢たちの名前に、ラウルやゴンザレス、というのがあって、えっえっスペインの至宝?とイメージしたところが一番のツボでした。ラウル・ゴンサレス・ブランコ、我々世代にはレアル・マドリーのスーパースターでした。はい。平凡な名前なんですね、ゴンサレス。





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