【散文詩】カミュのシーシュポスへの応答

今朝もビルの屋上から地上に落下する。
ビルは途轍もなく高層化し街を睥睨している。
彼は物理法則に則ってアスファルトの路面に激突する。物理法則に寄って頭蓋は破壊され脳漿が飛び散る。
通行人が悲鳴をあげ通報したのは初回だけで、その後は反復される炸裂音が生者の耳目に届くことはあり得ない。
エレベーターを使用せず避難用の階段を二時間かけて昇りきる。そして、同じ行為を繰り返す。

うだつの上がらない彼は毎日繰り返す単純作業にすら着いてゆくことができずに、罵声を浴び尊厳を剥奪されて精神を病み生きる術を無くした。そして世間を怨んで自死を選択した。
「遺書」は廃棄され会社も上司も同僚も口裏を合わせて祝杯をあげた。怨恨を生者に向ける決意をしていたが自死は地獄行。
永遠に落下の反復である。病んだ精神と痛覚と恐怖心は残存し階段を昇る度に体力の消耗は肉体を蝕んだ。
生も死も反復の洞窟で彼岸も此岸も同じだった。

指を刺し嘲笑する姿も声にも怯えて慄える自分自身を見い出すことには寸毫の違いも無かった。