にゃお

何かが変。仏露文学、哲学、ラジオが好き。最近は鉄道業界にいます。散文。

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軽石散文 - 『嘔吐』サルトル

我々は信じたくない。思い出とは、過去とは、経験とは、ただ、自分のなかに佇むだけで、その体積のわりに、現在に一切の知恵も利益も与えてないことを。それどころか、その思い出のせいで我々は怖気づき、行動は制限され、退化しているとさえいえる状態に陥っている。スピッツの草野さんだって言っている。「君が思い出になる前に、もう一度笑って見せて」と。 成長は退化だ。時間が経てば精神は朽ちる。自分を含めて、人類はどうもその事実を信じたくない。いろいろと都合が悪いのである。それ故に、過去の出来

    • 梅雨税散文 ‐ 『カフカはなぜ自殺しなかったのか』頭木弘樹

      死にたかった人の、本を読む。 死のうとした人の、歌を聴く。 死ねない自分の、言い訳を探すために。 「どうですか、気分は」 「最悪ですね。」 これはわたしの診察室での定番のやりとりである。梅雨で、これから海外に住んでいたときの税務処理に手を付けなければならないのだから気分が最悪なのは当然であるが、まあ何度病院を変えても、わたしはいつもこんな感じである。今まで様々な病名がついた。双極性障害にうつ、摂食障害、気分障害、PMDD、etc...。それぞれ発音は違うが、某Google

      • 抱擁

        抱擁、それは安心。わたしは誰かを抱きしめるのも、抱きしめられるのも大好きである。他人の体温に、その人が、生きている感覚に安心する。大事な人にはいくらでもハグしたい。この前は別れ際、一度運転席に乗った女友達をわざわざ車から降ろしてまで抱擁した(させた)。 子供の頃、好きな友達とよくハグした。手も繋いだ。帰ったらネコを抱きしめた。一年生のとき学童で仲良くなったさりなちゃんという女の子と抱きしめ合って、そのまま遊びでキスした。学童の小さいトイレ。親の帰りを待っていた19時。他の子

        • 人体代休散文

          今から大変不謹慎なことを書く。 (※不快に感じたらブラウザバックしてください。) わたしは昔から、体が動かなくなる人や、休職せざるを得なくなる人が、羨ましい。それも、ものすごく羨ましい。 わたしは、人体における忍耐力のようなものが、そして体力が、どうやらかなり、ある。そっとやちょっとで ”体が” 壊れることなど決してない。立ち仕事をして気がつけば10年近く、体調不良での欠勤はゼロ。 一方メンタルはズタズタである。経験をうまく処理できずトラウマは増え、生きれば生きるほど過

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          24本

        記事

          大変絶望的な記事と、(わたしにしては)比較的ポジティブな記事がひとつずつ用意できていて、その落差にどうすればいいのか分からなくなっているので、恐れ入りますが今から2記事同時に投稿します。

          大変絶望的な記事と、(わたしにしては)比較的ポジティブな記事がひとつずつ用意できていて、その落差にどうすればいいのか分からなくなっているので、恐れ入りますが今から2記事同時に投稿します。

          散文日記 - 『動物・気違い・死』J・P・ペーテル

          昔住んだ駅で人身事故。 夕暮れが綺麗な駅だった。 どの辺かな。 ホームかな。 わたしがあの駅で死ぬなら、八王子側の、夕日が一番綺麗に見えるあそこを選ぶ。少し細くなっている、遠くの山が微かに見えるホームの先の、白い柵を跨ぐ。夕暮れ時には黄色になる、あの剥げた柵を。 立ち入り禁止。生きているのなら。 どんなひとだったかな。 疲れていたかな。それとも、ずっと前から決めていたのかな。 遺書、書いたかなあ。 死ねたかな。 死ねてるといいなあ。 人体を手放すとき、嬉しかった? ど

          散文日記 - 『動物・気違い・死』J・P・ペーテル

          夢の中の空

          その日、八王子の父のアパートに帰宅すると昼間からお父さんがいた。アパートは3階建てで、ドアは黒かった。彼は酔っていなかったし、仕事に行くときの格好(つまりよれよれのチェックのワイシャツ(濃紺)とチノパンに黒いベルト)をしていた。母が倒れたと言って、わたしたちは府中の病院に車で行った。わたしは父の、静かで几帳面な運転が大好きだったので、そのトヨタの助手席に座ることは幸福の象徴だった。宮城ナンバーの銀のカローラ。そのあと、病院が満床のために母は別の病院に輸送されることになり、わた

          夢の中の空

          未解答

          " ほんとうに苦しいときにそれを口にしたとして、聞いた相手が「答え」を出したなら、その人のことを信頼してはならない。" すこし前、某現役医者がラジオで何気なく言っていたこの言葉は、文章にしたとして個人的には大変よく理解できる。苦しみは、死ねない限り続く。我々はそんなこと端から解っているのである。そのときに、" 答え" など何の意味も持たない。目の前にいる人が苦しみを言葉にしたのなら、貴方の役目はおそらく既に果たされているように思う。 (もちろんここでいう「信頼」というのは

          帰宅するなり、塩を被ったことがある。何故ならわたしは穢れているからだ。 突然、体が空洞になった。冷たい。それは臓器にぽっかりと空いた穴。全身から冷や汗が噴出て皮膚の表面のみが熱を帯びる。"あ、やばい" と思った頃には動悸が始まっていて、その鼓動が周りに響いていないことを祈る。表情はそのまま。鈍い痛み。白い光に視界がチカチカする。目を伏せる。書類。深く被った帽子から顔を上げないようにして2度頷く。ああ神さま、帽子があってよかった。目が熱くなるけれど泣けないままわたしは大人にな

          友人が紹介してくれたアルトー『神の裁きと訣別するため』を購入しようとメルカリを閲覧していたところ気が付いた、訳の宇野邦一(哲学者、仏文学者)って光文社古典新訳文庫でジュネ訳した人じゃん!ともう感動…。給料日なので。

          友人が紹介してくれたアルトー『神の裁きと訣別するため』を購入しようとメルカリを閲覧していたところ気が付いた、訳の宇野邦一(哲学者、仏文学者)って光文社古典新訳文庫でジュネ訳した人じゃん!ともう感動…。給料日なので。

          宇宙飛行士【中央線散文‐東小金井】

          以前新宿駅について、散文を書いた。正直中央線なら東京駅からすべての駅について文章が書ける気さえする。東京で働いた7年、ずっと中央線沿いに住んだ。 吉祥寺について書くか、と思ったが大変長くなるので止める。比較的長期間住んでいたからだ(わたしの中では)。小金井はどうだろう。東小金井に住んだことがあった。わたしはやっぱり逃げてきたあとで、その少し前まで隣駅の日赤に短期間入院していて、病み上がりであった。 アパートの3階に、宇宙飛行士の壁画があった。意味が分からないかもしれないが

          宇宙飛行士【中央線散文‐東小金井】

          日没散文

          社会に出て磨いた、自分を隠す技術。 それらはわたしを形作るけれど、わたしはちっとも笑っていない。その夜、缶チューハイで睡眠薬を飲んだ。よく眠れる。時は流れ、一日ずつ死に近づく。喜ばしいことであるがそれと同時に、若さが遠ざかってゆく悍ましい感覚が残る。わたしは優秀みたいに思われたり、好かれたり、嫌われたりする。電車で歳を取った人の後ろ姿を見て、この人たちは自分たちの死について何を思うのだろうか、と想像する。まるで悪趣味である。止められない。 " 悲しい" がよく解らないけれど

          日没散文

          数値化

          食べ物が、数字や栄養素に見えなかったら、どうやら世界は違うらしい。これを読んでいる人は、何を言っているのか分からないかもしれないし、実はそうでもないのかもしれない。 例えば、目の前におにぎりがあれば、わたしにとってそれは180kcalの糖質45gであり、複合炭水化物であり、少量の食物繊維である。血糖値が上がるから単体では食べないし、できれば赤飯か玄米にして、ビタミンかタンパク質を一緒に摂る。 食事の前に、最近何を食べたか思い出す。長年の癖のせいで、この作業は無意識に行われ

          遺書散文 - 吉本隆明『遺書』

          友人に勧められ、吉本隆明の著者を手に取った。『遺書』というタイトルである。選んだ理由は、価格と、タイトルになんとなく惹かれた、ただそれだけであった。 吉本隆明は詩人、親鸞の研究などで知られる評論家でもある。本書『遺書』は” 死" を「国家」「教育」「家族」「文学」など様々な視点から捉え、彼自身の死生観を俯瞰的に語った一冊である。大変興味深かったため、軽く紹介させてほしい。 そもそも「死」には様々な概念がある。 吉本隆明の言葉を借りれば、「肉体の死」、そして「観念の死」。

          遺書散文 - 吉本隆明『遺書』

          手記の美学散文ー『犯罪者の自伝を読む』小倉孝誠

          さて、わたしは監獄小説が大好きである。 監獄で書かれた手記は、大変美しく、興味をそそる。ジュネを筆頭に、ラスネール「回想記」、ワイルド「獄中記」にソルジェニーツィン「収容所群島」、国内からは山本譲司の「獄窓記」や、世間を騒がせた市橋達也の「逮捕されるまで」など、凶悪犯に政治犯、冤罪に至るまで種々多様の監獄手記が存在し、一定の人気を保っている。(話すと長くなるので省略。) 仏語翻訳家の小倉孝誠による、犯罪者の手記を論じる文章を読んだ。 彼は凶悪殺人犯がこのような手記を残す

          手記の美学散文ー『犯罪者の自伝を読む』小倉孝誠

          夜行日記

          生きているだけで物凄い税金。なんてこった。 生きたくも死にたくもなくて、生きている言葉を書ける人に、泣ける人に、死ぬパワーがある人に憧れる虚しい日々。本当はなんにもしたくない。嫌なことを嫌と言いたい。だけどそこに流れるのは、誰かと生きたいと思ってしまう惨めな時間。自分のような人間に、社会で生きる空間など与えられない。他人と生きる唯一の方法は演技すること。それさえも嫌なのなら死ぬまで救いなどない。どこかで演技ができなくなった日、わたしはまた見捨てられる。その繰り返しを人生と

          夜行日記