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帰宅するなり、塩を被ったことがある。何故ならわたしは穢れているからだ。

突然、体が空洞になった。冷たい。それは臓器にぽっかりと空いた穴。全身から冷や汗が噴出て皮膚の表面のみが熱を帯びる。"あ、やばい" と思った頃には動悸が始まっていて、その鼓動が周りに響いていないことを祈る。表情はそのまま。鈍い痛み。白い光に視界がチカチカする。目を伏せる。書類。深く被った帽子から顔を上げないようにして2度頷く。ああ神さま、帽子があってよかった。目が熱くなるけれど泣けないままわたしは大人になる。耐え忍ぶ。息を吸っても吸っても胸が締まる。まだ痛い。動悸。質問に答えると少しだけ声が震えた。
ああ、どうしよう、と思う。どうしよう。生きている。ここまでして?

泣きたい?
ううん。
だって知ってる、泣ける人は生きてゆける。

知らない人は優しかった。なぜならわたしを知らないから。
嵐が収まった頃には指先が血だらけで、署名をした紙に茶色い染みがついた。何かがおかしい。どうして生きているのか誰も教えてくれないのに、どうしてみんな、生きてゆけるのだろう。

だいじょうぶ?
うん。
だって、いつかは死ねるから。

ナメクジみたいに、塩を被ってそのまま消えちゃえば良かった、なんて馬鹿げたことを考える。何もかも不安になる疲れた空。ああ、塩って血潮か。


死ぬとき、どんな感じだった?
しあわせだったよ。人生でいちばん。
いいなぁ、僕も早く、死にたいなあ。


誰にだって、見捨てられる。なのに世界は簡単にわたしを見捨ててくれない。ぜんぶぜんぶ、嫌だった。なにもかも。泣けたら?生きてゆける?

寝たらまた一日が始まっている。わたしは早起きして仕事に行く。塩で浄化できる単純な世界で一人だけ失敗作のまま。


【余談】
泣けないから目の下に涙のタトゥー入れた話、何処かで読んだなあ。小説だったかなー。読んだことある方いたら教えて下さい。

大丈夫です。



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