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日没散文

社会に出て磨いた、自分を隠す技術。
それらはわたしを形作るけれど、わたしはちっとも笑っていない。その夜、缶チューハイで睡眠薬を飲んだ。よく眠れる。時は流れ、一日ずつ死に近づく。喜ばしいことであるがそれと同時に、若さが遠ざかってゆく悍ましい感覚が残る。わたしは優秀みたいに思われたり、好かれたり、嫌われたりする。電車で歳を取った人の後ろ姿を見て、この人たちは自分たちの死について何を思うのだろうか、と想像する。まるで悪趣味である。止められない。

愛する人よ もうすぐ気づくだろう
僕の優しさも だんだん齢を取る

岸田繋


" 悲しい" がよく解らないけれど、その日、日が沈んでしまうことをなんとなく哀しいと思った。いや、あれは” 寂しい” だったかもしれない。いま、死んだらあの人と、この人は悲しいと思ってくれるのかもしれない。だけど1ヶ月もすれば忘れるだろう。かつて「立ち直れなくなるから死なないで」と言われたことがあった。その人を悲しませたくないとそのとき本気で思った。わたしがいても、いなくても、日は沈み、街頭は灯る。人は生まれて死ぬ。悲しむのは残った人だけ。そうでなくちゃならない。

柵に手をかけたとき、「死なないでよ」と何気なく言われたことが嬉しかったなんてこの先一生、口にしないよ。ちょっと悔しい。そこで死んだら永遠に幸福だと知っていた。線路の軋む愛しい音。「死」ほどにまばゆく、美しいものが一体この世にあるだろうか。矛盾した人生。思い出した『ナンタス』の最後のページ。

彼は拳銃を持ち上げた。
素晴らしい朝だった。

エミール・ゾラ


ああ、いいなぁ。綺麗だなぁ。


【余談】
いつもに増して脈略がない。



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