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カミュ『異邦人』を原文で読む(7)

Bonjour ! 気が付けばもう12月 ( le mois décembre )、et je pense qu'un an passe très vite. (そして一年と言うのはあっという間に過ぎるものだなと思います)夏の東京五輪 ( les Jeux olympiques de Tokyo ) が終わったのがついこの間のように感じますね。

こう寒くなるとつい暑いアルジェリア ( Algérie ) が舞台の話を書きたくなるところが、私のひねくれた所でしょうか。前回登場した守衛 ( concierge ) のお爺さんが、ここは暑いので明日にでも死んだ母親の遺体を埋葬せねばならないとムルソーに話します。

Puis je me suis souvenu... il m'avait parlé de maman. Il m'avait dit qu'il fallait l'enterrer très vite, parce que dans la plaine il faisait chaud, surtout dans ce pays.

(直訳)それから私は思い出した・・(中略)彼(守衛)は母のことを私に話した。彼女(あなたのお母さん)をとても早く埋葬しなくてはならない、何故ならとりわけこの国では野原は暑いから、と彼は言ったのだ。

(筆者翻訳)と、私は思い出した・・守衛は母のことを私に話した。ーお母様は急いで埋葬しないといけません、なにしろこの国じゃ野原は暑いですから、と。

原文ではまず最初に複合過去の語りが来た後で、il m'avait parlé, il m'avait dit 大過去 ( plus-que-parfait ) が続きますが、これは最初の複合過去でムルソーが思い出している内容、つまり複合過去より前の時間の行為(出来事)を表しています。このように、大過去は複合過去で表されるより前の行為や出来事を表すのに使います。なお、 原文の il faisait chaud は半過去ですが、ここは守衛の視点にあわせて現在形に訳しました。これをフランス語の現在形に直すと il fait chaud, 反対に「寒い」と言いたい場合は il fait froid. と訳します。

さて、この守衛のお爺さんは自分を parisien (パリっ子)と言い、五年前にこの養老院に来たと話します。彼の話によると、

A Paris, on reste avec le mort trois, quatre jours quelquefois. Ici, on n'a pas le temps, ...

(直訳)パリでは、死者と三、四日間一緒に残る。ここでは、時間がない、・・

(筆者翻訳)パリだと、三、四日は亡くなった人と一緒にいられます。でもここでは、(暑さでご遺体が傷むので)そんな暇はありません、・・

涼しい北フランスと、灼熱のアルジェリアの気候のちがいが判る言葉です。日本でも、夏は特にご遺体の腐敗が進まないように神経を使いますからね。それにしても、こんな時にパリを引きあいに出して話すと、なんだか自分がそこに住んでいたことを自慢しているようにも感じられますが、いかがでしょう? 今でもその構図はあまり変わっていないかも知れませんが、当時パリに住んでいた/住んでいるということは、特に海外の植民地と比較すると立派なステータスだったのではないのでしょうか。自身も(政治上のやむない理由で)アルジェリアからパリに移住した作者のカミュ自身も、どのような感情を抱いてこの花の都を見ていたか知りたい所です。



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