私小説「私が『ハードボイルド書店員』になるまで」前編
20××年3月中旬。休日の午前中。部屋で携帯電話が鳴った。
「○○くん? 店長のYです」「おつかれさまです」「職探しは進んでる?」「ええ、今度×××書店と面接を」「ちょっと状況が変わってさ。まだウチで働く気、ある?」「えっ」「雑誌担当がひとり、来月で辞めることになってね。急な話なんだけど、よかったらどうかと思って」「……」
Hさんの顔が頭に浮かんだ。数週間前にいつもの飲み屋で交わした会話も。「俺、また調査役から『雑誌やらない?』って誘われたんだよね」「またですか。もう引き受