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エッセイ

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気楽に書いた、気軽に読めるエッセイです。
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臨時ダイヤという神技

臨時ダイヤという神技

仙台まで北上したかったのだが、地震の影響で東北新幹線は福島で折り返し運転をしていた。その先は東北本線に乗り換える。

地方の在来線は編成が短いので、乗客全員を輸送するだけの収容力があるのだろうかと懸念していた。しかし、そこはうまくしたもので、新幹線からバトンを渡されてリレーをつなぐ臨時ダイヤがきちんとできていた。

新幹線の運行が不可能だと分かった翌日から直ちに臨時ダイヤが組まれていたのかどうかは

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神保町を散策した

神保町を散策した

東京国立近代美術館で「民藝の100年」を観て、散歩のつもりで神保町まで歩いた。毎日新聞社ビルの中でアルバイトをしていた時にもしばしば歩いた道だ。しばらく行くと飲食店や(古)書店が急に増えて神保町の街並みらしくなる。

大学生の頃は足繁く通ったので思い出深い。4年間を過ごした大学のキャンパスは八王子の片田舎にあって、もっと別の場所が大学だったら良かったのにと、当時はよく思った。その「別な場所」は新宿

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これを観た(1)

これを観た(1)

この週末に紀尾井町にある国立劇場で歌舞伎を観た。演目は「一谷嫩軍記」。数年ぶりに歌舞伎を観た。演目は「一谷嫩軍記」。陣中に咲く桜の木の下に置かれた制札の文言の意図を汲み、熊谷直実が平家方の敦盛に代わって我が子を手にかけるという物語だ。

最後の場面で話が一気に動くのが面白い。それにしても制札に文字通りの意味しかなくて、すべてが熊谷直実の深読みのし過ぎだったらと想像すると恐ろしい。最近だったら忖度だ

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信州のりんご

信州のりんご

りんごと言えば信州。人によっては、まさかと言うかもしれない。いや、青森でしょ、と。まあ信濃国に生まれた身にとっては信州、ということだ。りんごで育った信州牛というのもいる。

さて、りんごにも色んな銘柄がある。ふじや王林は有名だろう。小さい頃から色々た食べて育ったものの、実は味の違いがよく分からない。幾つかの種類を食べ比べたこともあるけれど、こっちはなんとなく酸っぱいかな、ああ、これは蜜の味がするな

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必要なのはフライパン

必要なのはフライパン

このところ家で食事を済ませることが増えた。お弁当や出前ではなく簡単ながら自炊している。緊急事態宣言がひとまず明けて、待ちかねた外食に世の中が湧いている中、なをやとも時代に逆行したライフスタイルではある。

家事はさほど嫌いではないものの料理は大の苦手で、食後の皿洗いは最も嫌いな家事の部類だ。でもまあとにかく最近は作っている。切る煮る焼くの3つしかできない身としては「煮ても焼いても食えない」なんてさ

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食べる責任

食べる責任

SDGsの12番目の目標「つくる責任、つかう責任」にはフードロス(食品廃棄量)の削減が含まれているのだそうだ。全く賛成である。

コンビニで「手前取りにご協力ください」という表示を見たことがある。賞味期限切れによるフードロスを減らそうという意図である。

手前に並ぶ品物ほど賞味期限が短く、だからわざわざ奥から商品を取り出すという人が少なくないのだろう。心情的には理解できる。賞味期限として示されてい

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ワインの海

ワインの海

赤ワインを満たしたグラスを脇に置きながら本を読んでいた。また一口飲もうとグラスに手を掛けると、小さな虫がワインの海に浮かんでいるのが見えた。そういえばさっきまで八の字に飛ぶ虫が時々視界に入っていたような気がする。

流石にそのまま飲むわけにはいかない。グラスに小指を入れて虫を取り出した。すると意外なことに、小虫が指先に移動し始めた。てっきり溺れて死んでいるのだと思っていた。

何となく楽しくなって

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誰が為に秋は来る

誰が為に秋は来る

残暑の厳しい時期はまだ夏の名残りを感じ、それが過ぎるといつの間にか寒くなり、もう冬が近いのかなと思う。そう考えると秋とはずいぶん曖昧な季節なのかも知れない。夏と冬の狭間の季節。

しかし秋の存在感はなかなかのものだ。個人的に秋は紅葉の綺麗な時期だなと思っているのだが、それを措くとしても、○○の秋という表現の多さに驚く。食欲の秋、運動の秋、芸術の秋、読書の秋、などなど。なんでもよいから秋に押し込んで

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何とも平凡な国境越え

何とも平凡な国境越え

スペイン北西部にあるヴィーゴ駅のホームに入ってきた電車を見るなり、本当にこれがそうなのかと訝しんだ。うす汚れているし、それまで何度も乗ってきたスペイン国鉄レンフェの車両と比べてもどこか見劣りする。拍子抜けだった。

もちろん電車に非はない。もっと特別な何かをこっちが勝手に期待していただけだからだ。なにせ、生まれて初めて陸路で国境を越えるというので気分が高揚していたのだ。

行き先はポルトガルのカン

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誕生日と若返りと吸血鬼

誕生日と若返りと吸血鬼

7月11日の今日、一年ぶりに歳を取った。「セブンイレブン」という誕生日は覚えやすい。小さい頃から誕生日を口にすると「セブンイレブンなんだ!覚えやすくていいなあ」とよく言われた。が、実際に覚えていてくれるかどうかは話が別。関心のある相手だったら誕生日が何月何日でも覚えられるものだし、そうでなければすぐに忘れる。時間は人為的な区切りに過ぎないので、誕生日を迎えたからと言って昨日と今日で自分自身に明確な

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二人の作家の意外な接点

二人の作家の意外な接点

『銀河を渡る』に収録された沢木耕太郎さんの「カジノ・デイズ」というエッセイを読んでいて思わず「えっ」と声が出た。バカラを始めたきっかけや自身のカジノ通いについて書かれたこのエッセイの中で、沢木さんが『新麻雀放浪記』のあとがきを書いているのを知って驚いたからだ。

驚いた理由は大小二つある。

小さな方の理由は沢木さんに博打のイメージがなかったというもの。『深夜特急』には一年に及ぶ旅行の序盤、マカオ

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スーパーキャッシュを知っていますか?

スーパーキャッシュを知っていますか?

銀行口座を整理しようと思い、しばらく使っていない三菱UFJ銀行の口座を解約してきた。この口座を開いたのは大学3年の春なので実に20年間お世話になったことになる。ただし開設時の銀行名は三菱UFJではなく三和銀行だった。なぜ20年以上も前のことを覚えているのかというと、1999(平成11)年4月14日に始まった電子マネー「スーパーキャッシュ」共同実験に参加するために開いたのがこの口座だったからだ。

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新幹線の中での楽しみ

新幹線の中での楽しみ

新幹線に乗る機会が増えた。最近は月に2回から4回くらい乗る。小さな頃は電車が好きで、いつか新幹線に乗ってみたいと小学生の頃は願っていた。念願が叶ったのは小学5年生か6年生の時、東京駅からの一区間、新横浜までの切符を買ってくれた。ただ新幹線に乗るためだけの小旅行で、帰りは京浜東北線と山手線を乗り継いだ。新幹線はなんて速いんだろうというのが、幼い私の感想だった。

三つ子の魂ではないが今でも電車に乗る

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昔、ラジオが好きだった

昔、ラジオが好きだった

一日に何時間もテレビを観るような子供のことをテレビっ子という。私の家では朝はNHK、夜はTBSかテレビ朝日が点いていることが多かったが、ほとんどはニュース番組が流れていたように思う。あとは母が好んで観ていた刑事物のドラマ。子供にとっては別段面白いものではなく、だから私はテレビっ子ではなかった。これとまったく対称な表現ではないけれど、どちらかと言えば私はラジオっ子だった。ラジオを聴くのが好きだった。

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