新幹線の中での楽しみ
新幹線に乗る機会が増えた。最近は月に2回から4回くらい乗る。小さな頃は電車が好きで、いつか新幹線に乗ってみたいと小学生の頃は願っていた。念願が叶ったのは小学5年生か6年生の時、東京駅からの一区間、新横浜までの切符を買ってくれた。ただ新幹線に乗るためだけの小旅行で、帰りは京浜東北線と山手線を乗り継いだ。新幹線はなんて速いんだろうというのが、幼い私の感想だった。
三つ子の魂ではないが今でも電車に乗るのは好きな方だ。とはいえ新幹線もこれだけ乗るようになれば感度も無い。以前は車窓から眺める風景を楽しんでもいたが、それも変わり映えしない。それで大抵は持参した本を読む。
ある時、座席の前に挟まれた小冊子を手に取ってみた。JR東日本の発行する『トランヴェール』だった。何気なくぱらぱらとページをめくってみて沢木耕太郎の名前が目に留まった。『深夜特急』以来のファンで学生時代には刊行されていた文庫をすべて読破したくらいだ。その沢木さんが「旅のつばくろ」というエッセイを連載していたのだ。
私にとっては『深夜特急』のイメージが強いからか、沢木さんはやはり旅に関する文章が抜群に上手いと思う。「旅のつばくろ」はまさにその旅にまつわるエッセイだ。今、目の前にあるエッセイ(2021年7月号)は青森の温泉とその思い出について。滅多に土産物を買わないという沢木さんが、津軽こけし館でこけしを買ったことが書かれている。「しかし、その可憐な姿を見るたびに、買ってきたことを後悔する気持ちになる。仲間から引き離し、こんなところに連れてこず、あそこに置いたままにしてあげればよかったなと。」
このことを知ってから、新幹線に乗る楽しみが新たにできた。
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