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教育のはしくれ

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塾産業の中で教育などと偉そうには言いませんが、父親として息子たちと向き合ってきた一人としての体験と意見。時代的に早すぎた「イクメン」としての背景から、言葉を零してみます。
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知らないこと

知らないこと

やはり、「蠅って、何ですか?」と訊かれたときには、正直面食らった。
 
ひとそれぞれに、知識も経験も違う。だから、誰それが何々を知らなかった、ということは、たとえ意外に思っても、それをとやかく言うべきではない。私もまた、無知の極みであるのだ。偶々、自分の知っていることだけを能弁に語るから、物知りのような演技をしているに過ぎない(このことは、物知りで知られる地元人気タレントのカミングアウトであった)

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『宗教と子ども』(毎日新聞取材班・明石書店)

『宗教と子ども』(毎日新聞取材班・明石書店)

当然、と言ってもよいと思う。2022年7月8日の安倍元首相銃撃事件から、毎日新聞社に、ひとつの取材が始まった。
 
宗教とは何か。これを問うことも始まった。特にその狙撃犯が位置しているという「宗教2世」という存在に、世間が関心をもった。次第にその眼差しは、彼らを被害者だという世論を巻き起こしてゆく。そして、子どもに宗教を教えてはいけない、というような風潮が、「無宗教」を自称する人々により、唯一の正

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『現代思想04 2024vol.52-5 特集・<子ども>を考える』(青土社)

『現代思想04 2024vol.52-5 特集・<子ども>を考える』(青土社)

曲がりなりにも教育を生業としている以上、「子ども」が特集されたら、読まねばなるまい。「現代思想」は、多くの論者の声を集め、内容的にも水準が高い。そして同じことを何人もが述べるのではなく、多角的な視点を紹介してくれる。「こどもの日」ということで、こどもへ眼差しを向けてみよう。
 
確かに多角的だった。全般的な対談に続いては、「家族」「法律」「制度」「学び」「未来」といった概略に沿った形で、論述が進ん

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英語の小話を読ませてみたら

英語の小話を読ませてみたら

英語だけに限らないが、そのクラスは、なかなかの強者だった。偶々優秀な子の多い学年だったとも言えるが、中一での一年間、誰ひとりそこからクラスが下がることなく、優秀な成績をキープし続けた。授業には私はふだん入っていなかったが、今年になり何度もそこに顔を出すようになり、彼らのレベルの高さを強く感じるようになった。
 
物知りである。また、理解度も高い。だから、私が手早く説明をしても、すぐに吸収するし、そ

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折り紙をしたことがない

折り紙をしたことがない

ある事情があって、小学生たちのクラスで、工作をさせることとなった。しかし教材があるわけではなく、自分で考えてみることとなった。教会学校では毎回やっていたようなことだ。いけると思ったが、手近なところに素材がなく、思ったものが作れそうにはなかった。
 
確かこういうのがあった、とウェブサイトを探した。いまの時代はこうして情報が手に入るからいい。細長い紙1枚でできる。何度か同じように折っていき、最後に後

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思い込み

思い込み

今月8万円小遣いをもらった。気が大きくなってどんどん使ったら、最初よりも4万円減ってしまっていた。いくら使ったのだろうか。
 
もうすぐ五年生になる、勉強好きな面々。分からない。大きな声で4万円、などという。後にもうすぐ中三生となる生徒たちに同じ質問をしたが、これも4万円という返答。私は驚いた。
 
進学塾に勤め始めたころの勢いから、年々言語能力が落ちていることは分かっていた。だが、この数年、それ

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完璧にしなければ

完璧にしなければ

英語の授業に、ついて行けているでしょうか。無理だったら英語の授業を受けるのをやめようかと……。
 
最近塾に入った生徒の母親が悩みを相談してくる。担当は私である。実に意外だった。その生徒は熱心であり、よくできるからだ。確かに小学校では、聞いたり話したりというのは近年よく指導されている。教科となっているから、きちんと教えられている。ただ、小学校ではライティングについてはあまり強く指導していないようで

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「きが」って何ですか

「きが」って何ですか

自分もまた子どもだった。ものを知らない、というのは、子どもにとって恥ずかしいことではない。大人もまた、たいして知っているわけではないのだから。
 
だが、知る・知らない、については、当人の経験というものが大きく関与している。たとえば住環境についても、マンション暮らしをしていたら「縁側」も分からないし、「軒下」というものが何なのか、知らないかもしれない。福岡では、トタン屋根の小屋でもなければ、「氷柱

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大学受験で思い出すこと

大学受験で思い出すこと

高校受験は、福岡では基本的に、あと公立高校入試を残すこととなった。大学入試は大きな山を越えたが、今後の合格発表により、それぞれの学生の今後の道が決定されてゆくこととなる。
 
高校生として、私は真面目に勉学をしなかった。音楽が楽しかった。かといって、腕前は何もなかったが、作詞作曲はお遊びのように続けていた。もしいまの時代に私が高校生だったら、ずっと能率のよう仕方で、見かけだけは高度なものができてい

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推薦入試の作文のために

推薦入試の作文のために

いまから三〇〇年前、ひとりの哲学者が生まれた。哲学史上、そして人類史上、最大級の影響を与えた哲学者である。このイマヌエル・カントの大きな業績の中には、『永遠平和のために』という著作が含まれる。国際連盟(連合)の理念を形成したものと理解されているのである。その中心的な提案は、次のようなものである。
 
第一章 - この章は国家間の永遠平和のための予備条項を含む
第一条項 - 将来の戦争の種をひそかに

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マニュアル頼り

マニュアル頼り

受験生のための仕事であるから、この時期、忙しいのはもちろん分かっていた。そして、それを幾度となく毎年繰り返してきた。けれども、今年は一段と与えられた負荷が大きく、仕事の持ち帰りを含めて、キャパオーバーになっているところがある。
 
それはありがたいことかもしれない。仕事があるからだ。だが受験生のために複数科目が宛がわれると、苦しいのは苦しい。さらに、推薦入試の作文指導となると、何十人もの作文を添削

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文字と伝達

文字と伝達

手書きの文字については、決して威張ることはできない。走り書きにすると、実に癖のある、読みにくい字を私は書く。ゆっくり書けば、それなりに見られるのだが、ちゃちゃっと書くと、読みづらいのだ。
 
だから、生徒の答案の文字について、ケチをつけることはできないのだが、しかし答案となると、他の文字にも読み得るような文字は、採点上正解と見なされないので、生徒に不利をもたらす。指導はしなければならない。
 

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子どもたちの眼差し

子どもたちの眼差し

フェアトレードについての説明文を読む。小学三年生の国語としては、内容が高度である。そもそもそのテキストは塾用であるのは当然としても、かなりレベルが高い。
 
一度本文を私が朗読してから、「さあ解いてみよう」といくことが多いのだが、この内容はそのまま解かせるのは難しいと思った。答えが分からない、という心配ではない。言葉だけを探せば、解答欄に文字を埋めるのは、器用な子ならばかなりできるだろう。しかし、

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言葉にしてみること

言葉にしてみること

中学三年生も受験が近づいてきた。三角柱の体積を求める問題。図としては見取図がそこにあり、ABとACが4cm、ACも4cm、そして∠BACが90°と書いてある。多くの生徒にとっては簡単な問題だ。空間図形の問題を解くためには、見るべき平面を、真正面から書き直して考えるのが基本である。福岡県の公立高校の入試問題は、それを必要としている。それで底面の直角二等辺三角形の図を書いて、「底面積×高さ」の公式に当

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