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アートのお部屋

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#展覧会

法隆寺から未来の月へ

法隆寺から未来の月へ

その日、ウサギとカメは薄暗い「建築倉庫ミュージアム」の中で、建物の模型を見つめていた。精巧な模型は芸術作品のように、棚の上で肩を寄せ合っていた。

「見て、中目黒のスタバがあるわ。下北のボーナストラックも。建物の形なんてすっかり忘れていたけど、こんな感じだったのね」と、ウサギが小さく声上げた。

建築倉庫を一通り見て回った後、「法隆寺から宇宙まで」という展覧会の会場へと足を向けた。そこで最初に目に

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妖美な灯りと物語

妖美な灯りと物語

その日、ウサギとカメは百段階段の「おはなしの玄関」の前に立ち、御簾越しに灯りを見つめていた。ウサギがカメに囁いた。「今日はどんな物語に出会えるかしら?」その声には、どこか切ない期待が漂っていた。

歩を進めると、涼やかに揺れる風鈴の音の向こう側で、まるで何か秘密を知っているかのような猫が、二人を静かに見つめていた。

十畝の間に足を踏み入れると、そこは竹取物語の世界だった。無数の竹が放つ柔らかな光

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ようこそ猫会議へ

ようこそ猫会議へ

カメは待ち合わせ場所の福徳神社の鳥居を見上げていた。「ここが待ち合わせ場所ということは、まずおみくじを引くことになるんだろうな」と、カメは心の中で微笑んだ。

やがてカメの目に、遠くから駆けてくるウサギの姿が映った。「ごめん、待った?」と彼女は息を弾ませて言った。
「ちょっと行きたいところができたの。これから猫会議に参加するわ」

おみくじには目もくれず、彼女はカメの手を取って軽やかに歩き始めた。

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ギャラリーの二人展

ギャラリーの二人展

急用ができたカメと一旦別れたウサギは、待ち合わせまでの時間を持て余して東急プラザ銀座を一人で歩いていた。あてもなく歩き続けていると、ふとアートギャラリーの前で足を止めた。

ギャラリーには、二人の画家による絵画が飾られていた。それぞれの世界観で丁寧に描かれた作品をひとつひとつ眺めていると、画家のプロフィールが目に留まった。

「uraraさんは、画家になる夢を抱きながらも、一度は大学で法律を学ぶこ

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天の川に寄せる想い

天の川に寄せる想い

その日、ウサギとカメはそごう美術館の「KAGAYA 天空の贈り物展」を訪れていた。星空の写真に囲まれ、その幻想的な世界に引き込まれた二人は、瞬きさえも忘れ、その美しさに心を奪われていた。

作品の中では四季の星座が優雅に瞬き、またある時は、空に浮かぶ月が日本の風景に穏やかに溶け込んでいた。その光景は、どこか夢のような神秘を帯び、まるで物語の一幕のようだった。

「これは北海道のハルニレの木なのね。

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国芳の粋な団扇たち

国芳の粋な団扇たち

しとしとと雨の降る中、ウサギとカメは太田記念美術館を訪れていた。狭いロビーを通り抜け、右手の展示コーナーに入ると、そこは別世界のような団扇の空間だった。

ウサギはじっと展示に見入っていたが、ふと笑顔を浮かべると、「国芳の絵って本当に面白いわね。見て、この猫ちゃんたち!影絵になっているの」と、そっと指差した。

「奈良や平安時代に貴族のものだった団扇は、江戸時代になって庶民の間でも使われるようにな

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不完全という美学

不完全という美学

「おはようございます。ウサギのティースプーンのお時間です」小さなラジオブースの中で、ウサギはいつものように元気な声で番組を始めた。その日もリスナーからの質問に答えるコーナーが設けられていた。

「次の質問は、ラジオネーム『完璧にこだわるカメさん』からです!」彼女はマイクに向かって明るく話し始めた。「『ウサギさんは日頃から完璧を目指していますか?』という質問をいただきました」

「私、先日『茶の湯の

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北斎のビッグウェーブ

北斎のビッグウェーブ

「この絵だわ」
すみだ北斎美術館の一角で、ウサギとカメは一枚の浮世絵に目を奪われていた。白い水しぶきを纏った大波が、今まさに、小舟を漕ぐ人の頭上に襲いかかろうとしていた。

遠くに見える富士山が、波間からその様子を静かに見守っている。言わずと知れた、葛飾北斎の描く富嶽三十六景の神奈川沖浪裏だ。

絵の中の波はまるで生きているかのように、今にも額縁から飛び出してきそうだった。
「流石は北斎のビッグウ

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いつだって最先端

いつだって最先端

カレッタ汐留の展望台から地上に降りると、高層ビルが再びウサギとカメを取り囲み、その高さから二人を見下ろしていた。

「未来的な景色が目を引くけれど、このあたりには歴史の息吹も感じられるんだよ」と、カメは穏やかに話し始めた。

「たとえば、1872年に日本初の鉄道が走った新橋駅が復元されているんだ」と彼は続け、
二人は旧新橋停車場に向かって歩き出した。

「当時は西洋建築が珍しくて、日本初の鉄道ター

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北欧神秘とひまわり

北欧神秘とひまわり

静謐なSOMPO美術館の中で、ウサギとカメは神秘的な空気を感じていた。目の前の絵画には広大な北欧の風景が描かれ、その中には妖精や神話の神々が巧みに溶け込んでいた。

絵の中には高い山々がそびえ、深い森が広がり、澄んだ湖が静かに輝いている。そして、長い冬の極夜が、どこか現実とは違う世界を語りかけているようだった。

ウサギは足を止め、4枚の絵が寄せ集められた作品をじっと見つめた。絵は、何か深い意味を

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謎をよぶ デ・キリコ展

謎をよぶ デ・キリコ展

国際子ども図書館を過ぎたウサギとカメは、やがて東京都美術館に到着した。正面玄関のエスカレーターを降り、二人は「デ・キリコ展」の世界に身を委ねた。

ジョルジョ・デ・キリコ。その人物は謎に包まれている。時に画風を変え、さらには自らの作品を偽作だと訴え、裁判にまで発展させた画家だ。デ・キリコの作品は、まるで時空が歪んだかのような、不思議な雰囲気を纏っており、二人はその深遠なる謎に向かった。

「デ・キ

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ヘリングに首ったけ

ヘリングに首ったけ

図書館の中で、いつものように静かにページをめくっているカメの席へ、珍しく何かを手にしたウサギが近づいてきた。 「カメくん、その帽子に付けているのは何?」ウサギはカメの横に置いてある帽子に目を向けながら、彼に尋ねた。

「キース・ヘリングのピンバッジを付けてみたんだけど。どうかな?」と、カメははにかみながら答えた。 「バッジなのは分かるけれど、どうしてそんなにたくさん付けたの?」ウサギは不思議そうに

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キース・ヘリングとの邂逅

キース・ヘリングとの邂逅

その日、ウサギとカメは都会の真ん中にそびえる高層ビルの52階にあるアートホールで、特別な時間を過ごしていた。そこでは、キース・ヘリングの生命あふれる絵画が二人を待っていた。ヘリングの単純でダイナミックな線が描くエネルギーに満ちた作品たち。二人はその圧倒的な表現に、見入ることしか出来なかった。

「地下鉄の駅の広告板にたった2分でスケッチを仕上げて、次の駅でまた新しい作品を描いたのね…」ウサギは音声

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それぞれの休日

それぞれの休日

美術館のどこか別世界のような静けさの中でカメはゆっくりと思考を巡らせていた。彼の前にはピカソやシャガールの作品が並び、それらはキュビスムという名の不思議な仕掛けが施されていた。耳元で音声ガイドが静かに語りかけてくる。そこには100年前の画家たちの息遣いが宿っているようだった。

そのころ美術館の外ではウサギが遊歩道を軽やかに走り抜けていた。走ることが彼女にとっての日常からの一時的な脱出だった。

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