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キース・ヘリングとの邂逅

その日、ウサギとカメは都会の真ん中にそびえる高層ビルの52階にあるアートホールで、特別な時間を過ごしていた。そこでは、キース・ヘリングの生命あふれる絵画が二人を待っていた。ヘリングの単純でダイナミックな線が描くエネルギーに満ちた作品たち。二人はその圧倒的な表現に、見入ることしか出来なかった。

「地下鉄の駅の広告板にたった2分でスケッチを仕上げて、次の駅でまた新しい作品を描いたのね…」ウサギは音声ガイドに耳を澄ませながら、サブウェイ・ドローイングに目を凝らしていた。「彼は移動しながら、構図を考えたのかしらね」

サブウェイ・ドローイング

「公共空間にアートをもたらすキース・ヘリングの手法は、アートを日常の一部に変え、それを民主化したと言われているんだ」と、静謐なアートホールの中でカメがつぶやいた。「もし、朝の通勤路にこれがあったら、見とれてしまって毎日遅刻しちゃうわね」ウサギはあどけなく笑った。彼女は作品に心奪われ、その場から動けないでいた。

彼女の隣にいるカメはより深い思索に耽っていた。「ヘリングは、生と死を意識しながら作品を作り続けたんだね。彼のその思いが絵から僕に伝わってくるよ」彼はそう静かにつぶやいた。二人はそこに描かれた情熱とメッセージを全身で感じながら、それぞれに深く思いを馳せていた。

「当たり前のように過ぎる毎日だけど、その一日一日を大切にしたい。ヘリングの想いがわかる気がするわ」と、ウサギは各コーナーの展示を巡りながら、作品のキャプションをゆっくりと読み続けた。

出口に辿り着き、二人はアートショップでそれぞれのお気に入りのグッズを手に入れた。「これが気に入ったの」と、ウサギはねじれた人がデザインされたピンバッジを帽子に付けた。

二人はアートから感じた思いを胸に秘め、賑わう街並みに足を向けた。

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