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短歌(和歌)と散文

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#今日の短歌

朝、床の中で目を覚ますと、しっとりした空気の中、雨の音が聞こえました。そのときの気持ちを詠みました。

妖気充つ 春の心をなぐさむる 花の雨こそ あはれなりけれ

(不穏な気配に充ちた春の落ち着かない心を和らげてくれる、そんな桜の季節に降る雨こそは本当に趣深いものだ)

社会によって人間を失格させられる男。発表以来、特別な心の支えとして多くの人に愛されてきたというこの小説はしかし、私を救わない。

最後のマダムの言葉が、もしその結論なのだとしたら――。

この黒々とした不気味な小説を、私は一人で抱えていられない。

誰かと心を分かち合いたい。

【和歌】優しい光に包まれるとき🦄

【和歌】優しい光に包まれるとき🦄

碧眼の青年はしもてカレー食ふ木もれ日やさし神宮のもり

吹く風に少しずつ初夏の香りが漂い始めた、ある晴れた日のこと。折にふれて訪れていた神社で参拝を無事に済ませ、境内に設けられた食堂で休んでいると、隣のテーブルでは青い目の青年が一人、懸命に箸を使ってカレーライスを食べていた。いかにも食べ辛そうであったけれど、彼はむしろ誇らしげな表情をしていた。

日本文学研究者の故キーン・ドナルド氏は、初めて日

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【短歌】明日から制服を脱ぐその前に🦋

【短歌】明日から制服を脱ぐその前に🦋

明日から制服を脱ぐその前に下の名前で呼んで先生

制服を着た女子にしかできない恋というものが、あるように思います。まるで命が絶えてしまうような苦しさと、世界をすべて薔薇色に塗り替えてしまうような喜びと。彼女たち自身にとっても、以降の人生において再びは味わうことができないかもしれない、不器用でも真っ直ぐで、自らを燃やしてしまうように激しい感情。

男子校という馴染めない環境で、かけがえのない十代を

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【短歌と詩】もしも愛してくれるなら

【短歌と詩】もしも愛してくれるなら

初めから人生なんてなかったよわかってくれる人などなくて

もしもあなたが私を愛してくれるなら
ごめんね こんな言葉しか出てこなくて

あまりにも痛々しくて きっと
あなたの心まで傷めてしまう
誰より苦しめたくないあなたなのに

でも これが私のほんとう

あまりにも酷くて 怖いから 
誰も想像すらしてくれない

でも私は 
 今もあなたの目の前で息をしている
 この私は
本当にそれに耐えて来た

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【短歌】令和5年春の自撰

【短歌】令和5年春の自撰

主に先月と今月詠んだ歌をまとめました。

単純にこの期間に作った歌を集めたもので、形式的にも内容的にも、何らかの統一性を持たせようとはしていません。現代語で詠んだものもあれば、古語で詠んだものもあります。内容も本当に、本当に様々です。

実際は昨年詠んだ秋の歌も入っています。その歌を詠んだ当時と同じ気持ちを再び痛切に経験することが今春にもあったため、あえて再びここに取り上げました。性愛を題材とした

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【和歌】ありのままの姿であって欲しいけれど

【和歌】ありのままの姿であって欲しいけれど

雑草と呼ばるる命ひとつびとつ名を確かめつためらひて摘む

自然や動物に触れることは、私の大きな喜びの一つです。特に、なるべく人の手の入らない、ありのままの姿で自然があることに安心を覚えます。

しかし、隣家との距離が近い都市部では、本意ではなくても、ときに庭を「手入れ」し、「雑草」を取り除かなければならないようなこともあります。

雑草と一括りにされる植物も等しく生き物です。自身に害を及ぼす訳では

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【短歌】連作「親友」―F1カーとバン―

【短歌】連作「親友」―F1カーとバン―

連作「親友」

中学高校時代に出会い、卒業後もずっと特別に大切な存在だった友だちとのことを詠みました。掛け替えのない思い出と、そのあとに起きた、信じられないような出来事と。

全13首です。

ふたりして通った劇場放課後の舞台に見つめたそれぞれの夢

一人だけ白のニットで浮く君と並んで聴いたX JAPAN

「五十嵐はF1カーさ。俺はバン」すべてを失くした俺に笑って

君にしか言えないだから打ち

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【短歌と俳句】初夏の東北を旅して―十四歳の思い出―

【短歌と俳句】初夏の東北を旅して―十四歳の思い出―

湖畔にてかすむ対岸にらみつつ朝もやの中われ逍遥す

車窓より見ゆる人影田植え人

中学三年生のとき、修学旅行で東北地方を訪れた際の作品です。私が通っていた学校は都内の大変喧噪な場所にありました。毎日、地下鉄の轟音と車の排ガスとにさらされて通学していた私には、初めて旅する東北地方の初夏の空気は実に涼しく、さわやかでした。

湖というのは十和田湖のこと。すぐ近くのホテルに宿泊していました。朝起きて、

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【短歌】連作「生きたいのに」

【短歌】連作「生きたいのに」

生きたいのにいつだつて壊れてくれと願つてた家庭という透明の牢獄

何もかも呪いのようなものばかり結婚家庭倫理道徳

親という悪魔も知らず恵まれたあなたの正義を押し付けないで

地獄だと擦り込まれて来た世の中で生きる手立てが見つけられない

生きたいと必死で踏み出す人の世に悪魔の顔がいつも重なる

補遺透明な家庭という名の牢獄で起こったことを誰も知らない

家庭など無くなれとずっと願ってた私に説くか

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【短歌】自撰三首―迷いない心のつばさで―

【短歌】自撰三首―迷いない心のつばさで―

あふれ出る言葉は泪泣くことのできない私の胸の奥より 題詠:「短歌」

否ばれて生ひ立てる身に消たれざる光ぞありて吾を生かしむ
歌意:否定されて生い立った私の中に、何ものによっても決して消されることのない光があり、それこそが私を生かしている

迷いない心のつばさで翔んでゆく私の空はどこまでも澄む

第一首と第三首は近作です。共に私を代表する歌として特別な愛情を持っています。特に第三首については、も

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【今日の短歌】令和5年5月27日

【今日の短歌】令和5年5月27日

大切なはずの録画を消してゆく身体に傷を付ける代わりに

私の作品を真剣な愛情をもってご覧下さる方が、仮にいらっしゃったとして、その方をつらい気持ちにさせずにおかないような痛々しい表現は、たとえ自分がどれほどの苦しみの中にあったとしても、決してしまいと必死に努めて来た。

その気持ち自体は今も変わらない。しかし、もう無理だと思った。本来的に一人で抱えきれない苦しみを自分の内に抑え込もうとするのは、

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