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ポップカルチャーは裏切らない

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”好きなものを好きだと言う"を基本姿勢に、ライブレポート、ディスクレビュー、感想文、コラムなどを書いている、本noteのメインマガジン。
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2023年4月の記事一覧

小林賢太郎『回廊』/繰り返せど繰り返す繰り返し

小林賢太郎『回廊』/繰り返せど繰り返す繰り返し

2020年にステージパフォーマーとして引退して以降、作・演出としても劇場での新作公演を行ってこなかった小林賢太郎。今年に入り、オンライン上に架空の劇場「シアターコントロニカ」をオープンし、配信コントはいくつか発表してきたが、この度待望の劇場コント公演が配信されることになった。

神奈川芸術劇場KAAT大スタジオで収録された有観客ライブを編集して仕上げられた今回の配信公演。出演者に小林はいないが、久

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アジカン精神分析的レビュー①『崩壊アンプリファー』/初期衝動とアイデンティティ

アジカン精神分析的レビュー①『崩壊アンプリファー』/初期衝動とアイデンティティ

1stミニアルバム『崩壊アンプリファー』(2003.4.23)

2002年11月にインディーズでリリースされた初の流通盤を再録などもせず翌年にキューンレコードから再発売し、メジャーデビュー作となった1枚。再販に際してテレビアニメ『NARUTO』のオープニングテーマとして収録曲「遥か彼方」が起用され、アジカンの名は広く知れ渡るようになった。

アジカンの結成は1996年の4月。2000年代に入り大

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庵野秀明『シン・仮面ライダー』/仮面を被り成熟すること

庵野秀明『シン・仮面ライダー』/仮面を被り成熟すること

庵野秀明監督が池松壮亮を主演に迎えて「仮面ライダー」をリメイクした『シン・仮面ライダー』。幼少期に平成ライダーに親しんで以降、当たり前のようにそこにあった仮面ライダーの"仮面"の役割をあらゆる角度から捉え直し、庵野秀明の作家性と色濃く繋がったとても興味深い1作だった。

仮面の役割本郷猛(池松壮亮)は出てきて早々と緑川ルリ子(浜辺美波)に"コミュ障"とラベルを貼られる。本郷は仮面を被って甚大な力を

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UNISON SQUARE GARDEN『Ninth Peel』/表皮なのか、中身なのか

UNISON SQUARE GARDEN『Ninth Peel』/表皮なのか、中身なのか

なんとも珍妙なアルバムタイトルだと思った。Ninthは9枚目のアルバムだということとして、Peelは皮、なのだろうか。Peelは動詞であれば「剥く」であり、覆っていたものを露わにするような、外殻を剥いで中身へと迫るようなイメージが沸いてくる。このアルバムにおいて“露わにすること”を題にした意味を、好き勝手に深読みしてみたい。

かつてない素直さ、かつてない自由さ普段のアルバムらしい序曲ではなく、1

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『ザ・ホエール』/あと数歩だけ光の方に

『ザ・ホエール』/あと数歩だけ光の方に

“ひきこもり”と“過食”の映画COVID-19で自宅療養した昨夏、最初は久々の長期休暇!などと考えていたが隔離期間が1週間を過ぎると無性に寂しさが募った。映画やアニメを楽しんでいたはずが、世界から隔絶された気分に陥った。部屋に閉じこもり、生のコミュニケーションを断つことは相当の忍耐が必要であり、"ひきこもり"は覚悟がなければ成立しないことを実感した経験だった。そして、それほどの苦痛を越えてでもひき

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「機動戦士ガンダム 水星の魔女」で考える母娘関係のメンタルヘルス/同一化という呪縛は解かれ得るのか

「機動戦士ガンダム 水星の魔女」で考える母娘関係のメンタルヘルス/同一化という呪縛は解かれ得るのか

母娘を描く「水星の魔女」精神科医として患者に接する上ではその人固有の苦しみに向き合うことに努めているが、時としてかなり似た苦しみを抱えているケースに直面することも多い。例えば摂食障害の女性患者は話を聞いていくうちに親子関係、特に実の母親との関係性に苦しめられていることが非常に多い。明確な虐待やネグレクトがあるというわけではない。むしろ、度を越えた関わりの深さゆえに娘の身体に強い影響をもたらしていく

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