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散文詩

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#記憶

水と風の音 《詩》

水と風の音 《詩》

「水と風の音」

遠い昔 

僕等は静かな森の中で

ひっそりと約束を交わした

非現実的な永遠のお伽話

僕は水の音を聴き 

君は風の音を聴く

水面に波紋が広がる 
でも其処に水は無い

木の枝が擦れた様な音がした
でも風は吹いていない

僕等は文化的スラムな街に生まれ

幻想の中の森で出逢った

僕が瞳を閉じ 君が眠る時

水と風の音を聴く 続いている

何もかもが続いている

到着点を示

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6•6•6 《詩》

6•6•6 《詩》

「6•6•6」

限りなく暴力的に

相手に対して報復を行う

其の周辺にある

立体を破壊して去って行く

隠語とスラングの類とか

口頭と字面の質差とか

リアリズムはいつだって
見えない場所に隠される

僕の中の傲慢さと無神経さが

独立し機能し始める

其れはある種の権力に似ている

社会的権力を握る事が
何よりも大切であり全てであると

無意味な必然性が

読み捨てられた新聞の様に風に舞

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ALL YOU NEED IS LOVE 《詩》

ALL YOU NEED IS LOVE 《詩》

「ALL YOU NEED IS LOVE」

時の海の中にひっそりと漂う

今は無き物質と其の記憶が

長く白い砂浜を音も無く歩き続ける

彼女はまだ僕の中で歩き続けている

確か随分前にも君を見かけたよ

同じ時間に同じ場所で

そう 話しかけたかった

微かな波の音が聴こえた

太陽は動かず時間は止まる

時々僕は彼女に出逢う 

ふとした瞬間に

何処か遠い世界にある場所で僕等は
強く繋が

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二人称単数 《詩》

二人称単数 《詩》

「二人称単数」

過去の記憶と現在の感情が

時間軸を隔て まるで違う人物の
二人称の物語を描く様に流れて行く

其れは常に平行しており等価であり 

全てが僕個人に含まれている
欠片だと気が付かない

僕の意志とは無関係な所で

選ばれた事柄が進み

また 

僕の意志とは関係無く失われて行く

其処に居る僕は

揺るぎない確信を探し求めている

この場所に君が
一緒にいてくれたならと

僕は

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車窓 《詩》

車窓 《詩》

「車窓」

限られた目的が
人生を簡潔化して行く

其処には言語化される事の無い

自分自身のルールが存在している

平坦で無個性な街を

行き先表示の無い電車が走る

僕は座席に座り窓の外を見ていた

いったい何処へ行くんだろう

多様な選択肢が目に入り消え去る

時間の進みが早過ぎて 
僕は世界とのバランスを失った

上手く行かないのは

僕のせいじゃ無い

そう 誰にも聞こえない様に呟いた

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Let It Be 《詩》

Let It Be 《詩》

「Let It Be」

時間の座標軸が

少しずつ緩み崩れて行く

濃密な気配を其処に残したまま

深く理不尽な暗闇が

世界を激しく揺さぶる

朝の光と共に眠る

僕は僕の一部を僕自身で発見する

その時を其処で静かに待っている

本棚から取り出した地図には

僕の知らない場所 

行った事の無い街が描かれている 

無個性に似通った現実とは 

そんな夜

テーブルの上には

ケチャップだら

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君を捨てる 《詩》

君を捨てる 《詩》

「君を捨てる」

君を捨てる 

其の傷跡は誰にも見えない

深さや形を変えてなおも
消える事無く記憶の中に生きている

僕は独り君との足跡を辿る

悲しみ 

動揺 

葛藤を含む象徴的な暗号

誰にもわからない様に詩的に変換し
吐露する事

それが唯一の
逃げ場である事を僕は知っていた

斬殺 斬首された風の無い深淵

其処に残された血を

跡形も無く流し去る激しい雨

僕は捨てられ 僕は君を

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記憶の庭園 《詩》

記憶の庭園 《詩》

「記憶の庭園」

僕は其処に

ひとつの季節の匂いを感じていた

現実と幻想の境目

僕が死んだのは
もう一度再生する為だ

そうやって全ての事柄は

死に再生する

生命の萌芽を湛えた空が

海に溶け落ちる

其処にはどの様な地点も無く

時間の感覚さえも無い

死の無いところに再生は無い 

そう彼女は静かに囁いた

永遠とは
終わりなく何処までも続く道

僕は記憶の庭園で

彼女と会話を交わ

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風を待つ月 《詩》

風を待つ月 《詩》

「風を待つ月」

いつか遠からず其の日はやって来る

長い沈黙の後にそう彼奴は言った

僕は記憶の寿命を延命する様に 

其の断片を永遠に刻み込む様に

時折 
彼奴の言葉を心の中に落とし込む

ジムビームとメンソールと小説と

あの夜 
高速の高架下から見上げた月

僕は意識の中にある

彼奴の扉をノックした

彼奴の愛した最後の女 
そして弟

桜の花びらが結晶化する

永遠を形造るもうひとつ

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楽園 《詩》

楽園 《詩》

「楽園」

想像と記憶の中で

静かに彼女と関わりを結んだ

彼女が彼女である事の秘密を
僕は知っていた

語るべきであった言葉 

ほんの少しの勇気

僕の行いの欠如が

僕自身を後悔へと連れ去る

僕の心は

彼女から離れる事が出来ないでいる

同じ過ちは繰り返さないと誓った

彼女は 

僕の身体と心の一部を持ち去り

僕の元に彼女の

身体と心の一部を置いて行った 

目には見えない其の一

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ふたつの夜 《詩》

ふたつの夜 《詩》

「ふたつの夜」

時間は止まり

世界は其処で終結した 

地球はゆっくりと回転を止める

光と音が徐々に消え去る

僕達は間違い無く
ひとつの狂気の中に存在している

其処には

慈愛を与える余地の無い者との 

境界線がはっきりと見えた

暴力は目に見えるものだけでは無い 

血が流れる事だけが傷では無い

僕等は

細い一本の線の上を歩いている

頭の中にある物語を文字に起こした

足を引っ

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小さな鍵 《詩》

小さな鍵 《詩》

「小さな鍵」

君が自由である事 

それが僕の求める

ただひとつの事だった 

君の中にひっそりと隠された
秘密の小さな鍵

其の秘密の持つ
孤独さを浮かべた君の微笑みを

僕は見逃さなかった

色彩が奪われた訳じゃ無い

白も黒も同じ色には変わりない

それにやっと気が付いたんだ

僕等はお互いの欠片を交換し合い 

其の欠片を大切に胸にしまった 

誰にも気付かれない様に
 

僕等の記憶

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純白 《詩》

純白 《詩》

「純白」

細い糸を手繰り寄せる様に 

記憶の痕跡を辿る

この世界の基準から外れた

異形の物を

手に取り静かに口づけ

小説や戯曲の中に深く身を沈めた

奇妙な輝きを持つ月と
瞬きを忘れた星

僕を誘うある種の力が漲っていた

序曲に続く第一幕 

その先にある物語

何ひとつとして

生み出せない日々の中

僕は僕自身と対面し
肖像画を描き続けている

其処にあったはずの想いを

言葉に

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雨音 《詩》

雨音 《詩》

「雨音」

僕は彼女と交わした

話しの断片を思い出していた

いつの間にか天候は崩れて空は

湿気を含んだ重い雲に覆われていた

僕は傘を持っていない

長く降り続きそうな雨 

ネクタイを緩めた

彼女は不思議な事に
雨の夜にやって来る

もう逢えないかと思ってたよ 

そう言った僕に

貴方は私に逢う度に

同じ事を言うのね 

彼女はそう言って微笑んだ

そして唇を噛んでまた少し笑った

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