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散文詩

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2024年2月の記事一覧

追憶の果て 《詩》

追憶の果て 《詩》

「追憶の果て」

細かい雨が降る 

雨は僕の目には映らず

人知れず
静かに音も無く地面を濡らしていた

其れは新しい季節の到来を 

意味している様に思えた

夢の無い深い眠りが

通り過ぎる足音が聴こえ

何かが僕の中で終わってしまった

そんな感覚を誤魔化し続けていた

もともとピースが
揃って無いパズルは

完成する事は無い 

わかっていた結末だった

雨に濡れた街に枯れた花を捧げ

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左利きの彼女 《詩》

左利きの彼女 《詩》

「左利きの彼女」

濃密な空気の塊に雨の予感がした

もう時間が無い 

僕は高く茂った 

緑の草を掻き分けて  

綺麗な湖へと向かう 

野生の花の匂いと
幻想的なオルガンの音

ある時点で僕の感覚が

内圧と外圧に押し潰され 

其の接地面にあったはずの感情が

崩れ始め痛みと喜びを失った

綺麗な湖の辺りには
大きな木があって

その下に白いベンチがある

其処に君が居る 

その事だけ

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小さな鍵 《詩》

小さな鍵 《詩》

「小さな鍵」

君が自由である事 

それが僕の求める

ただひとつの事だった 

君の中にひっそりと隠された
秘密の小さな鍵

其の秘密の持つ
孤独さを浮かべた君の微笑みを

僕は見逃さなかった

色彩が奪われた訳じゃ無い

白も黒も同じ色には変わりない

それにやっと気が付いたんだ

僕等はお互いの欠片を交換し合い 

其の欠片を大切に胸にしまった 

誰にも気付かれない様に
 

僕等の記憶

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純白 《詩》

純白 《詩》

「純白」

細い糸を手繰り寄せる様に 

記憶の痕跡を辿る

この世界の基準から外れた

異形の物を

手に取り静かに口づけ

小説や戯曲の中に深く身を沈めた

奇妙な輝きを持つ月と
瞬きを忘れた星

僕を誘うある種の力が漲っていた

序曲に続く第一幕 

その先にある物語

何ひとつとして

生み出せない日々の中

僕は僕自身と対面し
肖像画を描き続けている

其処にあったはずの想いを

言葉に

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血 《詩》

血 《詩》

「血」

調和を重んじて生きる風と

自我の宿命が交差する

世界の環は  

既に閉じられ回避と逃避の中

説明さえつかない弁明を続ける

其処に流されたリアルな血が

ただ虚空を睨み付けていた 

ほとばしる血には勝利も敗北も無い

無縁な世界の光が
剣の様に僕の心を刺し貫く

背景に描かれた街には  

消費が美徳と言う

価値基準を持つ人達で溢れていた

大義名分を掲げ容赦なく断罪を下す

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盲点 《詩》

盲点 《詩》

「盲点」

彼女の瞳の奥に
時間を超えた深い世界を見た

其処にある

意志の煌めきと確かな熱源

僕はその一対の瞳に

激しく心を揺さぶられた

行き先を持たず 

ただ移動する為だけの

移動を繰り返す日々 

そんな僕の心を
静止させる輝きを見つけた

そう思っていた しかし

僕の盲点が何かを見逃している

そして また彼女も同じだった

その何かが
最も大切な事だと知ったのは

ふたりが

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奇術師 《詩》

奇術師 《詩》

「奇術師」

僕は彼女の微笑み方が好きだった 

理由なんてない

本質的な部分で奇形だと

定義された世界の片隅で

彼女の事をずっと見ていた

何かが僕の
記憶の端に引っかかっている

僕自身の古い影と

遠い昔に見た彼女の仕草 

そして ただ曖昧に肯く

過去に知られたくない

不都合の無い
人間なんて何処にもいない

彼女の背後に立つ奇術師が

帽子から鳩や花束を取り出す

ぼんやりと眺

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陰影 《詩》

陰影 《詩》

「陰影」

混じり気無しの本物から
100パーセントの偽物まで

どうでもいいさ 

そんな事

無名のまま消えた彼奴の言葉は

本当に無価値なのか 

その価値基準は何処にある

才能は無いけど良い奴だとか

才能だけはあるが

糞みたいな奴だとか

飢えと乾きが集約された夜の色

其処に開いた巨大な穴は

全ての始まりを意味する

入り口なのか

全ての終わりを意味する

出口なのだろうか

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かまち 《詩》

かまち 《詩》

「かまち」

ただ書きたいから書いている

書く事自体には何の効力も無く

それに付随した
何かの救いがある訳でも無い

文章を書く事で

心の安定を図るだとか

自己表現をする事で

精神を解放するだとか

誰かの心 
精神の安定や解放に寄与するだとか

馬鹿げてる 

事柄を細分化して

文字に置き換えているだけだ

単なる吐き出しの様な文字の羅列

意味のわからない文脈

何の結論も生まない

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雨音 《詩》

雨音 《詩》

「雨音」

僕は彼女と交わした

話しの断片を思い出していた

いつの間にか天候は崩れて空は

湿気を含んだ重い雲に覆われていた

僕は傘を持っていない

長く降り続きそうな雨 

ネクタイを緩めた

彼女は不思議な事に
雨の夜にやって来る

もう逢えないかと思ってたよ 

そう言った僕に

貴方は私に逢う度に

同じ事を言うのね 

彼女はそう言って微笑んだ

そして唇を噛んでまた少し笑った

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残された街 《詩》

残された街 《詩》

「残された街」

壁に焼き付けられた影が

腐敗と崩壊と失望を映し出していた

嘘だって良かったんだ 

お前と逢える口実を
探していただけなんだ

記憶は 

ゆっくりと時間をかけて

薄れ霞んで消えてゆく

其処に俺達が属している事は
静かに降り頻る雨が知っている

そして時が過ぎ去り

後には

街だけが残され今も生きている

幾つもの戸惑いと

頬にあるハスった傷

失くせないもの ただひ

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月の南 星の下 《詩》

月の南 星の下 《詩》

「月の南 星の下」

辛い時には幸せなふりをするの 

君の口癖

僕は瞳を閉じ耳を済ませ 

其処にあるはずのものを思い描いた 

ほんの少しの間だけ
手を握り合っていた

僕は世界に近づこうとしていた

近づきたかった 

その普通と呼ばれる世界に

僕は自分が自分自身であり

君は君自身である 

他の誰でも無い事に

不思議な安心感を覚えていた

彼等の創り出したものは いつも

僕や君を

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西風 《詩》

西風 《詩》

「西風」

僕等は空白を埋める為に話し続けた 

ただ話し続けていた 

お互いの仕事の事や身の上話し

過去にあった色々な事柄

僕はどれだけ孤独で 

どれほどのものを失って来たか  

全てを君に知って欲しかった

其れは逆に 

誰かを傷つけて 大切な何かを

僕自身が奪って来た
経過でもある事を僕はわかっていた

それでも 全てを知って欲しかった

彼女もまた同じだった 

僕は彼女の話

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春の風 《詩》

春の風 《詩》

「春の風」

其れは
間に合わせで作られた世界の中で

全ての辻褄合わせとは

かけ離れた場所にある

唯一の真実の様に煌めいていた

決して強い輝きではなく 

見逃してしまいそうな

弱く消えそうな光

限りなく透明に近い生命の輝き

窓の外の冬に似た静寂と

月を待つ夜に似た漆黒が混ざり合う

見捨てられた街に佇み

昼と夜の狭間に腰掛けていた

顔を持たない人々が通り過ぎてゆく

奇妙で

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